俺とお前は違うから、きっと同じ道は走れないんだろう。

俺とお前は違うから、俺はお前の、お前は俺の代わりにはならないんだろう。

俺はお前じゃないから、お前に起きたことなんて興味ない。
お前も俺に起きたことなんて興味ないだろう?

お互い、全く違う人間だから、他人だから。

決して、他と交わることは無いんだろう。
人間というモノは。

 間違ってるかな、俺?





「さて、“彼”は嵐帝と成りえるのか。“先”が、楽しみだ。」

そう言い残して、風の王―不二維 巧汰は欠けた月が照らす夜の風にかき消えた。

風は静かに流れている。

「オレは…。」

枯れ木の枝々が風を斬る。

「オレは…、【煉帝・紅渦(コウカ)】だ。」

 紅渦―ワザワイニソマルクレナイ

 一人っきりの月明かりだけの部屋で、俺は、自分の道(運命)を悲観した。

 十一月十八日の夜、月は欠けても尚、夜の国を照らし続ける。
 風は段々にその強さを増して、冬の到来を告げる。

 「“時として風は、予期せぬ来訪者を連れて来る”…か。空が、ざわついている。弥人に、何もなければいいが…。」

 翌日、弥人の学校に黒マントの彼等が来るなど、秋人が知るはずもない。





十一月十九日、俺、結瀬 弥人はクラスメートの庵藤から現在のこの学校の現状を聞かされた。
その内容は、俺にとっても、そして、ストームライダーに憧れていた庵藤にとっても衝撃だった。

 屋上には、俺達二人だけ。庵藤が、震える口を開く。

「弥人、実はな、今この学校はあるストームライダーのチームのエリアなんだ。
奴らは、力に物言わせて好き放題やってる。近隣の学校じゃもう被害が出てる。
だけど、もし逆らったりしたら、容赦なく病院送りだ。
だから弥人、お前もあんまり首を突っ込まない方がいい。
 そして二度と奴らの事を口にしない方がいい。奴らに狙われる。」

何も、感じなかった。
別に、誰かがどうなろうと俺には関係ない。
けど…、

ATを、悪行に使われるのは我慢なら無かった。
静かに、静かに怒りが込み上げてきた。

「だから弥人、奴らに関わるな!」

誰がどうなろうと、俺にとってはどうでもよかった、関係ない、関係ない、そう、関係ないハズだった。

「…だから。」

「?」
庵藤は、聞こえないと一言。

「俺は、大丈夫だから、大丈夫だから。」

誰かの為に、他人の為に、どうにかしたいと、何とかしてやりたいと思った。

 ―俺が忘れていた、自分の欠けた心―

 でもどうしたらいいか、分からなかった。ただ、大丈夫しか言えなかった。

 ―俺には、誰かを支える術など―

俺は、先に教室に戻った。
恐怖に震える庵藤を屋上に残して。





 俺は忘れない。

 この翼で初めて駆け出した時の、あの感動を、あの一体感を、あの羽ばたきを。

 だからこそ、奴らのやってることが許せない。
 ATは、そんなことをするために使うものじゃない。
 翼は、そんなことの為にあるんじゃない。

 教室に向かい真っ直ぐの廊下を突き進む。

 その表情は、怒りに染まっていた。


 夕方の帰り道、赤く燃える陽は、まるで、俺の怒りを現したように、空を赤く焼いていた。


その日、秋人さんに相談しようとしたけど、はぐらかされた。

どうしたらいいか分からなくなった。
ただ、やり場のない怒りだけが空を舞う。





時間は、ただ走り去って行く。
風のように、その速さを変えることも、逆巻くこともせず、無表情に過ぎていく。


黒マントが俺の学校に現れてちょうど一週間。
秋人さんは用事で俺の練習には付き合ってくれなかった。
その間、俺はただひたすらに走った。
走って、跳んで、空を目指して駆け抜いた。
全ては、黒マントを学校から追い出すため。
怒りに身を燃やして、ただひたすらに駆けた。

来たる、決戦の日のために!


翌、二十七日の夜、秋人さんは俺を、俺が通う学校、矢上高等学校の正門前に呼び出してきた。

時刻は十一時。

正門の上に座る秋人さんを見つけ、その前へ行く。

「!…来たか。」

 街灯の淡白い光に照らし出された秋人さんは、いつものようなTシャツにジーンズではなかった。

 体に張り付くようにピッタリとした黒いTシャツの上に、腹部と肩甲骨から下の背中の部分が逆V字型に開き、残った左右は膝くらいまで裾のある長袖の上着を羽織り、黒のズボンを着ている。
 この一風変わったコート(?)のような上着は、秋人さんの持つ『煉帝』の称号を表したように紅く、その胸には燃え上がる炎をイメージした煉帝の誇り(エンブレム)が輝いている。

 「秋人さん。
 なんで、俺の通う学校の前なんですか?」

秋人さんにはまだ今の矢上高校の現状を話していない。何故ここに呼ばれたのか、俺には見当もつかない。

俺が黙っていると、秋人さんから予想外な言葉が出た。

「弥人、今からお前にはATでの“実戦”をしてもらう。」

「じ、実戦!?」

実戦―すなわち戦いだ。
しかし、ATでどうやって闘うのか。
その術を俺は知らないからか、いまいちイメージが湧かない。
苦い顔をする俺に、秋人さんは話を続ける。

「これから、チーム『デッド・クロス』を裁く。
弥人はただ、その場で“実戦”がどんなものかを肌で体感すればいい。
だが、出来るだけオレの動きに付いて来い。いいな。」

“付いて来い”って言ったって、俺はまだ基本がやっとなのに実戦なんて…!
心の内で文句を垂れていると、行くぞ、と、秋人さんから声がかかった。

いつもの練習同様、有無を言わさず、か。

門を軽く飛び越え、俺と秋人さんは、敵が待つ一つだけ明かりがついている教室へ向かう。





支配下に置いた学校を更に増やし、ますます勢い付く死神達に、とうとう裁判官から死の宣告が下された。

山積みにされた髑髏の上に黒い十字架が掲げられた画が、黒板にスプレーで描かれている。
チーム『デッド・クロス』のエンブレムだ。
そのエンブレムの上に貼られた掌大のステッカー。
 交差した金属質の斧と鎚、その上に血を模した朱くかすれた字で書かれた『JUDGEMENT』の文字。

そのチームの終焉を告げる、“裁断者”チーム『ジャッジメント』のエンブレムステッカー。

チームのエンブレムステッカーの上貼りは、そのチームどうしのバトルを意味する。
が、“コレ”の場合は意味が違ってくる。
裁断者―ジャッジメントのエンブレムは“ルール違反者”に下される死刑宣告だ。
そして、それが今、自分達のエンブレムに上貼りされているのだ。
死神達は、ただ、自分達の現実を理解し受け入れるまで呆然と、立ち尽くしている。
自分達が最後の一線を越えてしまったことを、神の逆鱗に触れてしまったことを、ここにきてようやく死神達は思い知る。

その存在は、正に“神”
神の如き力を有し、神のように正体は見えず、神の名を以て違反者に裁きを下す。
その存在は伝聞でのみ伝わり、正体を知る者は数少ない。

巷に出回っている“裁断者”に関する情報は唯一、メンバー全員が“王”であること。


―ゴクリッ
いつもなら、死神達の歓喜がこだまする教室に、息を呑む音が響き渡る。

この教室にいる黒マントを纏った十八人の死神、その全員が黒板を凝視し、緊張に固まる。

「う、ウソだろ…?」

「裁断者―ジャッジメント…!」

「本当に…、い、実在(いた)のか…!」


緊張に硬直している死神達にどこからか、詩が送られてきた。


―月より授かりし翼は、陽に灼かれ地に墜ちる―


恐る恐る、声のする方へ振り向く。
 開いた窓から入る風に当たり、月の逆光によりその輪郭は紅く燃え上がっていた。

 「咎人よ、陽によって、翼は灼かれた。裁断者の名を以て、貴様等を地へ墜とす…!」


誰が見ても一目瞭然、奴は、烈火の王―煉帝・紅渦!



⇒No.7