ゴンのいない世界を生きて丸半年が経った。
ゴンのいない、くだらない、つまらない世界をよくも半年も生きたものだと思う。
ゴンと岐阜大学に通っていたときに履いていたズボンには、今もゴンの口唇からの出血が膝に黒いシミとなって残っている。
そのズボンをいまだ捨てることができずいる。
冬の間、ゴンがずっと使っていたワンコ用毛布を、菜々ちゃんの寝床に敷いてあげている。
ゴンは気のいい奴だったから、きっと菜々になら貸してもいいって言ってくれてるはずだ。
毎朝、ゴンにおはようを言う。
そして、バカっちょゴンとそのあとに付け加える。
にーちゃんをおいていきやがって。
にーちゃんを悲しませやがって。
弟のクセに先に逝きやがって。
もし今、ゴンに会うことが叶うなら、この世の全てを捨てて、何もかも捨てて、ゴンに会いにゆく。
ゴンを強く抱きしめて、ゴンって百回叫んで、ゴンの目と鼻と口に千回キスをする。
ゴンが癌になったとき、もし自分があと10年生きられるのなら、残り1年しか生きられなくていいから、その分、ゴンを1年、生かしてほしいと思った。
ゴンを看取った瞬間、この世が終わった。
核戦争でも何でも起きて、もうこの世が終わればいいと思った。
自分も死にたいと思った。
フランダースの犬のネロはしあわせだと思った、パトラッシュと一緒に死ねたから、心底そう思った。
でもな、ゴン。
…。
にーちゃん、まだ死ねないわ。
お父さんがおるやろ。
お父さんをちゃんと見送ったらな、なあ。
それに菜々ちゃんもおる。
菜々ちゃんな、まだおもらしするんや。
雨の日のお散歩でショートカットしたりするとな。
お部屋でちっちしてまう。
毎日、ちゃんとお散歩連れてったらな。
ごはんのことも、ちゃんとやったらな、お父さんにも菜々ちゃんにもな。
だから、まだゴンのとこ、行けんのや。
なんちゅうこっちゃ。
ゴンを助けてやることもできんかって、ゴンに会いにゆくこともままならん、なんちゅう不細工な人生やろか。
たった一匹のワンコも救えんかった人間に何ができる。
考えるだけでちゃんちゃらおかしいわ、なあ。
ホント。
でもなあ、にーちゃん思う。
もしゴンと一緒に年を越せて、2024年を男3人で迎えられたとしたら、きっと次は桜が咲くまでって欲が出とった。
ちょうど今、桜が満開のここまでゴンがもし生きてくれてたら、次は暑い夏を頑張って涼しくなる秋までってまた欲が出る。
キリがないよな。
だからさ、
あれでよかったんやろか。
1日も寝込むことなく、大好きなお父さんの茶碗蒸しも二晩続けて食べることができて、ちょっとの時間苦しんだだけで、逝けて。
13歳まで生きたというにーちゃんへの納得材料を残してくれて逝ったゴン、にーちゃん孝行やんなあ。
でも、そんなん今はどうでもいいわ。
ただ、
会いたい。
ゴンに会いたい。
会いたいなあ。
ゴンのいない世界を生きる。
つまらなくて、くだらない、しょーもない世界を生きる。
生きるしかない。
ブッサイクに生きる。
みっともなく生きる。
せめてゴンが生きてくれさえいたら。
少しは様になるものを。
楽しい毎日であったものを。
にーちゃん、もうがんばらん。
にーちゃん、一生懸命生きん。
ただ、残された時間をうまいこと潰してくわ。
息吸って、息吐いて、生きてくわ。
くだらんけど。
つまらんけど。
しょーもないけど。

半年、あっというまだったなあ。
半年、長かったなあ。