『秘密の扉』 | From With

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子供達に、幸せの見つけ方、教えてあげたい・・大丈夫。隣りにいるから。あなたの周りは、ほら、幸せがいっぱい!!(自宅を色んなお子さんに開放して14年。問題のある子 無い子皆一緒に 同じ時代の同じ時間を生きていきたいな~!一歩一歩、 丁寧に・・)

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お隣りの側溝で
ランドセルを背負った男の子が
しゃがみこんでいた。

聞いてみると
”カニ“ がいるのだそうだ。

こんな住宅街の
しかも 決して 綺麗とは言えない溝に
”カニ“などいるはずがない!

と思ったけれど、

あんまり
一生懸命 覗き込んでいるので

私も
バッグを道に置いて、
男の子の 倍ほどもある身体を
低く下げて
覗き込んでみた。

やっぱり・・・

薄暗い溝の奥には、
苔やら ゴミやらが
からみあっているだけで、”カニ“らしき物など
全く 見当たらない。

な~んだ、やっぱり
”カニ“なんて いるわけないよね・・・

と思って、

這いつくばった体勢から 頭を挙げようとした

その時、

男の子が
溝の奥を 
真っ直ぐに 指指して

「いたっ!!
おばさん、いたっ!!」

と叫んだ。

・・おばさん(が)いたっ!んじゃなくて

”カニ“でしょ!!・・

と思いながら、

半信半疑で

今度は
両手 両足を
カエルのように踏張って
覗き込んでみた。

ん? 
ひょっとして
あれ!?

暗い 暗い溝の奥で
かすかに動く物が見えた。
決して
綺麗とは言えない
住宅街の測溝で、

狭くて 暗い その奥で

かすかに光る甲羅と
赤黒いハサミが

じっと
こちらを 警戒していた。
「いたっ!!
いたっ!!
”カニ!“ ”カニ!“
本当に
本物の ”カニ“ がいる~!!」

思わず
男の子のランドセルを揺すって
叫んでしまった。

それは まるで、
秘密の扉を
開けた事から始まる
小さな物語の
一ページ目のような
景色であった。

男の子によると、

もう
ずっと前から
ここには
サワガニが住んでいて

学校の帰りに
いつも 覗いて
おしゃべりしている
という事だ。

なんとまぁ、

私は
二十年以上も
毎日 その横を歩いていながら、

こんな可愛いらしい隣人がいる事を

今まで 知らずにいたとは・・・

まだ 一生懸命
溝に 手を入れようとしている
男の子を眺めながら
そう思っていたら、

懐かしい風が吹いてきた・・・・・

その中で、

駄菓子屋さんの引き戸を通る すきま風が
ピュルルル~
ピュルルル~
と ピッコロのようだった事や、

美津子ちゃんちの縁側の下に
モグラの穴があって、
こっそり ハムを置いたら、
いつも無くなっていた事を
オムニバスのように
思い出した。

・・・
私は
いつの間にか

見えないものを
見ようとせず

聞こえないものを
聞こうとせず

世間を広げながら
世界は狭めてきたのかも知れない
・・・

その日から
溝の横を通るたび
立ち止まってはみるけれど
さすがに
大の大人が
這いつくばって
覗くわけにはいかない。

「お~い!坊や~!
何時に ここを通るんだい~?

おばさんは
君の 友達の振りをして
君と一緒に這いつくばらないと

秘密の扉は
開けられないんだよ~!

お~い!
坊や~!

も一度

一緒に
扉の向こうに
連れてってくれないかな~」