文春文庫

『万葉と沙羅』

中江 有里

 

 中江有里の作品を今一度読んでみたかったので、新刊を見つけた時は心躍った。

「言葉は狭い」

 この言葉が良い意味で心に深く刻み込まれた。

 普通なら、一つの言葉から色々な事象を想像し、言葉の広がりを感じるもの。

 それを、本中では「好き」には色々な好きがあるのに、「青」なら色々な青があるのに、言葉にすると「好き」「青」との表現に留めれば、人それぞれの「好き」と「青」が存在してしまうことを、「狭い」という表現にするなんて、目から鱗という感じだ。

 表裏一体。

 そして、この本は、作者のこれまでの読書遍歴も伺える。

 登場してくる様々な本、それぞれに、読みたくなる感情が沸き起こるのも特筆ものだ。

 最近、本を手に取る事のなくなった人が手に取ると、読書の習慣が戻って来るかもね。