それは、ほんの一瞬のことだった。
声に出そうとした言葉が、喉の奥で止まった。
隣に座っていた彼女が、私の腕をそっとつねったのだ。
優しい顔のままで、でも確かに、制止の意志をこめて。
——それは「黙って」というサインだった。
なぜ、彼女は私の声を止めたのだろう?
なぜ、私はそれに従ってしまったのだろう?
その話題は、きっと誰かにとって「都合が悪い」ことだったのかもしれない。
場の空気を壊すように思われたのかもしれない。
それとも、彼女自身がそれを聞きたくなかったのか。
でもあのときの私は、何よりも——
「私は、話してはいけないんだ」
という感覚に襲われた。
自分の声を、信じられなくなった。
自分の感じたことを、言葉にすることがいけないことのように思えてきた。
けれど、ずっと心に残っている。
あの「つねられた感触」とともに。
それは、私の中の小さな自由が奪われた瞬間だった。
でもね。
時間が経って、ふと思ったの。
彼女はなぜ、私をつねったのか。
もしかしたら彼女もまた、かつて「声をあげることを許されなかった人」なのかもしれない。
だから、誰かが声をあげるのを見ると、怖くなるのかもしれない。
自分が我慢したのだから、あなたも我慢して、と。
でももう、私は黙らない。
私の感じたこと、考えたこと、それは私の中の真実だから。
誰かの痛みに寄り添うためにも、私は声を持ち続けたい。
——腕をつねられても。
もう、黙らない。
