割り箸を折ることに、意味があるなんて思ってもみなかった。
それを教えてくれたのは、彼だった。
「箸を折るのは、お役目ご苦労さまっていう意味なんだよ」
その一言に、私の中の何かが、ふっと静かになった。
ああ、折るって、祈ることに似ている。
手のひらでそっと挟んで、音を立てずに終わりを迎える。
その所作には、たしかに“祈り”のような静けさがあった。
割り箸の文化も、折るという行為も、日本独特のものらしい。
少し調べてみると、割り箸は江戸時代から始まったと言われている。
「付喪神(つくもがみ)」って、聞いたことがあるだろうか?
物には魂が宿るという日本の考え方。
使い終わったものや、もう使わないものの命をまっとうさせるために、
きちんと“終わりの所作”を行うことで、その魂は安心して去っていけるのだという。
ああ、そうか。
だから、私たちは割り箸を折るんだ。
彼の話では、子どもの頃、
おじいちゃんやおばあちゃんが自然と割り箸を折っていたという。
折らずに捨てると「呪われるよ」なんて言われたこともあって、
子ども心にちょっと怖くて、それがいつしか習慣になっていたらしい。
でも今になって、調べてみると、
そのすべてに、ちゃんと意味があったんだと気づく。
たった一膳の割り箸にも、
こんなにもたくさんの祈りが込められていたなんて。
これからは、折るという所作を、少しだけ丁寧にしてみよう。
祈るように、そっと折ってみようと思う。
