月曜日から土曜日までは、ごはんと味噌汁、
お新香に納豆や卵焼きという、決まりきった朝ごはん。
でも、日曜日だけは特別だった。

トーストが焼ける香ばしい匂い。
インスタントコーヒーにお湯を注いだとき、
ふわりと立ちのぼる香り。
それは、少しだけ特別な時間のはじまりを告げる合図だった。

父は「コーヒー2サジ、ミルク2サジ」と決めていて、
それを用意するのは、私の小さな役目。
慎重にスプーンを動かすたびに、
なんだか大人の世界に触れているような気がして、
胸がすこしだけ誇らしかった。

まだコーヒーを飲めなかった私にも、
その香りは不思議と美味しそうで、やさしくて、
「ここにいていいんだよ」と、そっと包んでくれるようだった。

父が新聞をめくる音、
パンが焼ける匂い、
カップの向こうで揺れる湯気。
日曜日の朝には、あたたかな光がいつもあった。

今、カフェでコーヒーを淹れるたびに思い出す。
あの台所に立っていた小さな私、
そして「うまいな」とつぶやく父の声。
そのひと言が、心の中にずっと残っている。

きっと私は、今もあの朝の延長線に生きている。
香りを届けることで、誰かの記憶の扉が開く瞬間を、
そっと手伝っているのかもしれない。

そして、いつも私は気づかぬうちに、
笑顔という名の贈りものを受け取っているのだ。

それは、あの日の光と同じ。
胸の奥を、静かに、やさしく、あたためてくれる。