2024年6月21日に公開されたこの作品。

       

 佐藤愛子先生の著書『九十歳。何がめでたい』がどのようにして世の中に出版されたのか?を軸に、人間関係の問題を抱えた編集者.吉川さんと執筆者.愛子先生とのやり取りをコミカルに描いている。

       

 この本には興味があったので、映画化されると知り、見たくなった。映画館では年配の方々が沢山見に来ておられ、何だか自分が浮いて若くなったような感じ。皆さんはきっと、草笛光子さん演じる佐藤愛子先生の、世の中に対してハッキリ物申すお言葉と毅然とした態度が爽快なのだろう。実際、笑いが誘われるシーンも幾つかあって、若輩者の私も大笑い。

       

 物語では、九〇歳を迎えた愛子先生は、執筆活動から離れて二年。身体の衰えを感じつつも退屈な日々を送っておられた。そこへ、真っ直ぐすぎる編集者の吉川さんがエッセイの原稿を依頼。吉川さんは職場でも家庭でも嫌われ、心を許せる人が誰も居ない。

 二転三転の末、原稿を書く事になった愛子先生。いざ書くとなると、さあ何を書いていいのか分からない。

 ある日、吉川さんと外出中に愛子先生は近所の園児たちに遭遇。子供たちの明るく元気で素直な態度に触れて、ふっとある新聞記事を思い出す。それが、原稿のネタになる。

       

 その原稿に感動する吉川さん。私も愛子先生のお考えに、なるほどなあと思った。それからというもの、次々と日常生活にまつわるあれこれを、愛子先生の目線で鋭く分析して執筆。実際、本の中にも登場するタクシーの運転手さんとの会話は、本文を知っているだけに面白く感じた。なるほどなー。スマホとガラケーの違いって、パソコンに馴染んでいない世代にとっては、理解し難いかも…。

       

 

 「年寄りが敬意を払われなくなったのは、この急速な「文明の進歩」のためだ。私はそう思っている。」-P18

 

 「もっと便利に、もっとはやく、もっと長く、もっときれいに、もっとおいしいものを、もっともっと……。」ーP21

 

 「もう「進歩」はこのへんでいい。更に文明を進歩させる必要はない。進歩が必要だとしたら、それは人間の精神力である。私はそう思う。」ーP21

       

 誰にでも平等に訪れる老い。よって、他人事とは思えず。愛子先生が娘に向かって「あんた達には、わかんないわよ、絶対に」と呟くシーンなどは、深刻なイメージを持ってしまう。だが、愛子先生は明るいというか、サバサバしている所に励まされる。

       

 執筆を辞めてうつうつしていた毎日から、愛子先生は見事に脱出を果たす。それが出来たのは、吉川さんの存在が大きかったことや、彼と共に経験した日常のあれこれや執筆するという事が、自分の人生に彩りを与え、いきいきと元気になれたのだ、と語るラストシーン。ユーモアと感謝を込めてのスピーチに感動したのは言うまでもない。そして私なりに気付いたこと、、、そうか!美味しかったり、楽しかったり、笑ったり、時にはムカついたりする事が全部人生なのだ、自分はいつも結果ばかりにフォーカスしていたんだ、もっと何気ない日常を愛でていいんだ、と目から鱗が落ちて心が軽くなりました!お二人と作品に感謝を込めて。

       

       

引用文献『九十歳。何がめでたい』佐藤愛子著 小学館 2016年初版 2017年23刷