魔女とレヴィ 第1話 十六夜の魔法 


百合夜はそっと手を伸ばしかけた。

「……この子、そんなに強い力を持ってるようには、見えないのに。」


レヴィは無言のまま手を掲げ、静かに呪文を唱えた。

淡い光が広がり、庭の空気がふっと軽くなる。


「まじないは解けた。風も、静まるだろう。」


大気の妖精の身体が、ふっと揺れた。

次の瞬間――淡い光の中から、黒い霧のようなものが立ちのぼる。

それは形を保てぬまま揺らめき、夜気のようにレヴィの胸元へと吸い込まれていった。


「……っ」


レヴィの指先が小さく震える。

その表情に、一瞬だけ痛みのような色が差した。


「レヴィ……?」

百合夜が不安げに名を呼ぶ。


だが彼は、首を横に振った。

「……気にするな。」


低く抑えた声。

それだけ告げると、レヴィはふっと息を吐き、空へと視線を向けた。

つい先ほどまで荒れていた風は、嘘のように静まっている。


「おまじないは解けた。しばらくは何も起こらん。」


百合夜は胸を撫で下ろし、そばで固まっていた大樹を抱き寄せた。

「ありがとう、レヴィ……本当に……」


雲の切れ間から、日の光が静かに差し込む。

黒いビオラの花弁が淡く揺れ、柔らかな香りが漂う。


その傍らで、レヴィは何も言わず、ただ空を見上げていた。

彼の瞳に映る光は、どこか遠い記憶を思わせるように、淡く揺れていた――。