魔女とレヴィ 第2話 霜が降りる頃に 

登場人物



レヴィ

百合夜の家に住み着い妖精。


レヴィの古い友、妖精 エル


ウェールズの大魔女

シンシア


薬草魔女

百合夜


息子 大樹



第二話『霜の降りる頃に』


                 -1-

冷たい朝。

夜のあいだに降りた霜が、ハーブの葉先で細く光っていた。

吐く息は白く、空気は張りつめているのに――百合夜の庭はどこか温かかった。


木製の作業台の上では、乾いた葉がさらさらと音を立てて砕けていく。


「よしえおばあちゃんの腰、また痛むって言ってたから……今日は少し強めにしておこうかしら。」


乳鉢を回す百合夜の手元を、レヴィが覗きこむように屈み込む。

「この薬草、前より香りが強いな。」

低い声に、百合夜は微笑んで頷いた。


「ねぇ、レヴィ……寒くないの? そんな服で。」


訝しげな顔で、レヴィは答える。

「精神体に寒さは関係ない。これは飾りだ。」


淡々とした声。けれど、その響きの奥に、ほんのわずか拗ねたような色が滲んでいた。


百合夜は肩をすくめる。

「そうかもだけど……ジャケットと薄いシャツなんて、見てるこっちが寒いわ。」


クローゼットを開け、ふと亡き夫のセーターを取り出した。

「これ、着てみたら? サイズは合うと思うの。」


レヴィはそれを見た瞬間、わずかに瞳を伏せた。

ほんの一瞬だけ、表情が揺れる。


ため息のような間をおいて――

彼の姿がふっと霞み、次の瞬間には白いケーブル編みのセーターに変わっていた。


「……だから、飾りだと言った。」


その声には、僅かに不服そうな響きがあった。

けれど、その頬の陰りは、どこか照れているようにも見える。


百合夜は目を瞬かせ、そして笑った。

「本当に、便利ね……でも、似合ってるわよ。」


レヴィは答えず、視線をそらす。

霜に光る庭を見つめながら、かすかに息を吐いた。

白い息が消えるころ――


――チャイムが鳴った。

澄んだ音が、朝の静けさを切り裂く。

レヴィの表情がすっと引き締まり、庭の風が一瞬だけ揺れた。


「……俺が出る。」


百合夜は小さく息を吸って、微笑んだ。

「きっと、よしえさんよ。午前中に取りに来るって言ってたもの。」


そう言い残し、玄関へと歩き出す。


レヴィはすっと身を翻し、低く呼びかけた。

「待て。俺が――」


けれど、百合夜は振り返らない。

足音だけが木の床を軽く叩き、朝の静けさの中へ吸い込まれていった。


木造の扉を「カラン」と開ける。

冷たい空気とともに、やわらかな光が流れ込んだ。

そこに立っていたのは――


滑らかな金髪に、澄んだブルーの瞳。

まるで冬の光をそのまま纏ったような青年だった。