【シングルよもやま話 50】 都倉センセの非凡なセンスが光るロシア民謡テイストの佳曲をどうぞ! | 歌謡曲(J-POP)のススメ

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音楽といっても数々あれど、歌謡曲ほど誰もが楽しめるジャンルは恐らく他にありません。このブログでは主に、歌謡曲最盛期と言われる70~80年代の作品紹介を通じて、その楽しさ・素晴らしさを少しでも伝えられればと思っています。リアルタイムで知らない若い世代の方もぜひ!

 2012年3月31日からスタートしたこのブログのメニューの一つ、「シングルよもやま話」のレビューがついに50本目となりました~ やぁ、もう2年8ヶ月にもなるんですねぇ(しみじみ)。ネタ作品のストックには事欠かなくても、記事を書く時間がなかなか思うように確保できないので、ここまで続いたのが自分でもちょっと意外な気がします。まだまだ頑張るつもりでいますので、今後も引き続きどうぞよろしくお願いしますねm(_ _ )m。

 今回は久しぶりにロシア民謡ネタ
でいってみたいと思います(ロシア民謡ネタは、過去にも「バラライカ」(月島きらり starring 久住小春)「卒業」(沢田聖子)で取り上げたことがあります)。まぁねぇ、「この平成の時代に、ロシア民謡…」という声も聴こえてきそうな悪寒がしますが、’70~’80年代の我が国の歌謡曲を眺めてみると、ロシア民謡の影響を受けていると思われる作品がけっこう散見されるんですよね

 
さて、日本でヒットした“ロシア民謡風歌謡曲”については、大きく次の2通りに分類されるのではないかと思います

(1) (広義の)ロシア民謡をほぼそのまま(または一部)を歌謡曲に拝借したもの
(2) (1)以外で、ロシア民謡のテイストを持たせたもの

 (1)の中で一番ヒットしたのは、「ポーリュシカ・ポーレ」(仲雅美)[1971.8.5発売; オリコン最高位3位; 売り上げ枚数47.2万枚]です
。タイトルもロシア民謡そのまま、作曲のクレジットも“ロシア民謡”となっていて、日本語の歌詞がついている他はオリジナルを忠実になぞった作品になっています。(1)に属するものでは、それ以外にもこんな作品()がヒットしました。皆さんのご存知のタイトルがあるでしょうか…

【ロシア民謡(の一部)を拝借した歌謡曲の具体例】
「天使のらくがき」(ダニエル・ビダル)[1969.8.20発売; 12位; 16.7万枚]
[原曲日本語タイトル:隣の恋人、オリジナル拝借度:100%]
「さすらいのギター」(小山ルミ)[1971.6.1発売; 11位; 20.3万枚]
[原曲日本語タイトル:アムール川の波、オリジナル拝借度:70%]
「哀しみの黒い瞳」(郷ひろみ)[1982.11.21発売; 10位; 18.4万枚]
[原曲日本語タイトル:黒い瞳、オリジナル拝借度:100%]

 ちなみに、‘80年代にヒットした「百万本のバラ」加藤登紀子のカバーが一番有名。1987.4.25発売; 47位; 7.9万枚)は、厳密にはラトビアの歌謡曲ですが、これも広義のロシア民謡と考えて(1)に入れておきましょうか


 (1)の作品群はそれぞれ出典が明らかなので分かりやすい
んですよね。面白いのはやはり(2)に属する作品群ですロシア民謡チックな仮面をかぶってても、実はロシア民謡とは縁もゆかりもない曲ってのが、どういうわけか女性アイドルの作品に多いという…。ざっとこんな感じ()ですが、まぁほとんどは売れてませんよねぇ


【“ロシア民謡風”歌謡曲の具体例】
「アザミの花」(純アリス)[1973.5.?発売; -位; -万枚][作曲:郷伍郎]
「祈り」(水沢アキ)[1974.9.21発売; -位; -万枚][作曲:三木たかし]
「青い麦」(伊藤咲子)[1975.3.20発売; 20位; 9.8万枚][作曲:三木たかし]
「まわれ 恋の風車」(香坂みゆき)[1978.2.1発売; -位; -万枚][作曲:都倉俊一]
「バイバイBOYにしてあげる」(細川直美)[1990.1.25発売; -位; -万枚][作曲:三浦一年]
「いつだってYELL」(中山エミリ)[1997.11.7発売; -位; -万枚][作曲:馬飼野康二]
「バラライカ」(月島きらり starring 久住小春)[2006.10.25発売; 8位; 7.3万枚][作曲:迫茂樹]


 (1)の方は、どれもオリジナルのロシア民謡が長く歌い続けられている名作ばかり
ですし、おそらくは“デジャ・ヴュ(=既視感、ここでは既聴感…かな)”効果も働いたであろうことを考えると、ヒットしたのも納得がいきます。その一方で、やはり(2)では楽曲のクオリティが玉石混淆なのがイケナイんでしょうね。日本人好みの“愁い”を含んだロシア民謡テイストは確実に一定の需要が見込める一方で、どうしても新味には欠ける作風になってしまうので、ロシア民謡風味に仕上げるのは、“痛しかゆし”と言ったところかも知れません

 かくいう私はといえば、(2)の作品群を聴くと、日本の職業作曲家が“ロシア民謡”をどんな風に咀嚼したかが手に取るように感じられるので、本当に幸せ気分イッパ~イ
なのであります。もっとも世間的に見れば、インチキロシア民謡風の歌謡曲を発掘しては、一人でニヤけてる不審人物くらいにしか思ってもらえないと思いますケド…

 閑話休題。今回取り上げるのは、カテゴリー的には(2)に属するこの作品で~す(
)。


ふたりの場合」(江口有子

作詞:山上路夫、作曲:都倉俊一、編曲:都倉俊一

[1976.5.25発売; オリコン最高位位; 売り上げ枚数万枚]

[歌手メジャー度★; 作品メジャー度★; オススメ度★★★]


 江口有子という歌手をご存知の方は、おそらく皆無でしょう
。1976年1月に「お茶の水あたり」でデビューして、ほぼ1年後に3作目シングル「恋のリズムボックス」がリリースされてから音沙汰がないですし、セールス(オリコン)的にもまったく数字が残っていませんから…。個人的には、1, 2曲目の重厚な正統派歌謡曲から「恋の…」であっと驚くイメチェンを遂げて、夜ヒットでとびっきりセクシーなアイドル歌謡を披露した彼女の姿を強烈に記憶しているんですが。大変失礼ながら、彼女の“お色気”に果たしてニーズがあったかどうかは甚だ疑問でしたが、とにかく歌は抜群に上手でしたねぇ。だから、シングル3作で打ち止めになってしまったのは、つくづく勿体なかったと思います。もうちょっと色々なタイプの歌を歌わせてあげたかったなぁ…なーんて思うんですよね。

    ⇒  

(左)デビューシングルのジャケット    (右)夜ヒットで「恋の…」を披露する江口有子


 曲の構成は、A-A’-B-C(サビ)-A-A’-B-C(サビ)と、実にオーソドックスです。参考のため、歌詞とともに書き下しておきましょう。


(Aメロ)♪ あなたが先に「さよなら」を 言うのを待ってるの
       私にはとても 言い出せないわ
(A‘メロ) 並木の道をどこまでも 歩いていたいけど
       お別れを決めた あなたと私
(Bメロ)  最後にせめて あなたの姿を
       私は見送るのよ 消えてゆく影を
(Cメロ) ※悪くはないのよ そうよ二人とも
       若くて愛の意味さえ 知らないで
       いつか傷つき 今日の別れを 二人迎えたの

(Aメロ)♪ この道ひとり歩くこと しばらくないでしょう
       想い出があまり 鮮やかすぎて
(A‘メロ) この次ふたり逢うときは 何年あとかしら
       好きだった笑顔 変わらずにいて
(Bメロ)  後悔なんて 私はしないわ
       ときめくような季節 生きてたの二人
(Cメロ)  (※ くりかえし)


 イントロでは、都倉俊一センセが黒木真由美のデビュー曲「好奇心」のB面「十五の素顔」のイントロにも使った弦によるモチーフが聴こえてきますこの部分だけで、作曲したのが都倉センセだと分かる方もいるのではないかと言っていいほど、都倉色の強いモチーフと言えましょう。 Aメロ~A’メロにかけては、ロシア民謡というよりはむしろ、「学生時代」(ペギー葉山)[1964年、作曲:平岡精二]を思わせるような哀愁のメロディが登場。そう、♪ つたのからまるチャペルで 祈りを捧げた日~ という有名なあの歌ですよね

 Bメロに入ると、メジャーコードとマイナーコードが目まぐるしく登場するロシア民謡に特徴的な展開が繰り広げられます。でも、この作品の“ロシア民謡テイスト”を決定づけているのは、何と言ってもBメロからサビにかけてのアレンジです。Bメロの“最後にせめて”の直後に後方から立ち上がってきて、“あなたの姿を”、“私は見送るのよ”、“消えてゆく影を”の下支えを受け持つ金管のメロディは、まさにロシア民謡度数120 サビの“若くて愛の意味さえ 知らないで”の部分のアレンジもロシア民謡度数が高くて、私なんぞは思わず背筋がゾクゾクッと来てしまいます

 …で、これまでの文脈からお分かりの通り、これらの一連の仕事は既存のロシア民謡の一部を拝借したものではなく、れっきとした都倉俊一センセのオリジナルというのが素晴らし過ぎる~ いやはや、こんな風に非凡な才能を見せつけられてしまうと、ロシア民謡にはかなりうるさい私も、あっさりとシャッポを脱いでしまうのです(←でも嬉しい敗北だよなぁ、こういうのは)。

 それでは、今回はこんなところで またお逢いしましょう~