ちょっと妙なテイスト(あるいはコンセプト)のせいで、手放しで「大好きだ~」と公言するのは憚られるのに、気がつくとどういうわけかヘビーローテーションで聴いてしまう歌謡曲なんて、皆さんにはありませんか 私にはあります(またそのパターンかい)。
今回ご紹介する作品は、私にとってはそんなカテゴリーに入ってしまう代物です。発売されて四半世紀経ったいまも、年に200回くらいは聴いてるんじゃないかなぁ・・・ってことは、これまで5000回は聴いた公算になりますか。う~む、アラフィフにもなってこういうことを公言するのって、さすがに恥ずかしいコトなのかなぁ(←何をいまさら) まいっか。これなんですケド()。
「Lesson 2」(本田理沙)
作詞:阿久悠、作曲:岩崎工、福永柏、編曲:岩崎工、福永柏
[1988.7.1発売; オリコン最高位92位; 売り上げ枚数0.3万枚]
[歌手メジャー度★★; 作品メジャー度★★; オススメ度★★★]
本田理沙は、おニャン子政権がすっかり崩壊して、アイドル歌謡界が氷河期に突入した1988年に歌手デビューしました。もうこの頃になると、テレビの歌番組もどんどん消え去って、アイドルタレントの有り様(よう)が、“歌メイン”から“バラエティメイン”と“ドラマメイン”の活動へと加速度的にシフトしてましたから、歌謡曲ファンの私にとってはあまりいい時代ではなかったですねぇ。
ちなみに、本田理沙と同期に歌手デビューしたアイドル(おニャン子のばら売りを除く)のうち、比較的目ぼしいメンツを挙げておくと、Wink、西田ひかる、高岡早紀、小川範子、坂上香織、藤谷美紀、安永亜衣、杉本彩、吉田真里子、姫乃樹リカ、相川恵里、国実百合、小高恵美、仲村知夏、円谷優子、北岡夢子、岡本南、麻田華子あたり。う~む、最初の方のメンツは歌よりもむしろ女優として活躍した人ばかりだし、後の方は知名度の低いメンツばかりで、こんなところからもアイドル歌謡の不作ぶりが伺えますね・・・。
本田理沙は、どちらかと言えば歌唱力よりもトランジスタ・グラマーぶりが売りのグラビア系アイドルでした。そんなこともあってか、彼女は結局、7作のシングルと1枚のオリジナルアルバムを残して3年ほどで歌手活動をリタイアすることに。ちなみに、リリースしたシングルのタイトルは、「Lesson2」、「いちごがポロリ」(←意味はあえて書きません)、「本気(マジ)!」、「さそって入口ふるえて出口」・・・といった感じ。いかにもデビュー当時から“ヤンチャ”臭の漂っていた彼女らしく、手堅く()セクシー路線を狙ったようですが、残念ながらヒット曲には恵まれませんでしたね(もっとも“オジさん受け”は随分と良かったようですが)。
では、さっそく作品のご紹介に移りましょう。 まず、歌詞の方は、’70年代を通してピンク・レディーなどを中心に一世を風靡した大御所 阿久悠の筆によるもの。阿久センセに関しては、このブログでも職業作家ならではの巧みなフレーズ選びを再三にわたって絶賛しているので、もうお馴染みですね。そんな阿久センセも、’80年代に入るとシングル曲の歌詞提供ペースがぐっとダウン。’70年代中盤にはシングルA面だけで毎年70曲程度の作品を手掛けていたのが、’80年代中盤では20曲くらいまで減少しています。ま、そうは言っても、そんなに長い期間にわたって第一線で活躍した作詞家なんて“秋元康大明神”以外に存在しないので、年間20曲ペースでも十分に凄いことなんですけどね。
もっとも、阿久悠センセの’80年代の作品内容についてはさすがにちょっと疑問を呈したいところ。阿久センセの’80年代の仕事をざっと俯瞰してみると、演歌系・アダルト系アーティストへの提供作品では’70年代とあまり大きな差を感じないのですが、アイドル系作品のパワーダウンはちょっと目を覆いたくなるものが・・・。具体的には、‘70年代の阿久作品に顕著に見られた“清冽さ”とか研ぎ澄まされた感性による(時には挑発的な)フレーズ選びが、すっかり鳴りを潜めてしまったとでも言えばいいでしょうか・・・。’80年代中盤と言えば阿久センセもすでにアラフィフですから、チャレンジングなフレーズを次々と生み出すには、さすがに歳をとりすぎてしまった・・・結局、これも“時代の流れ”ということなのかも知れません。
今回ご紹介する「Lesson2」に関しても、阿久センセの歌詞は全体的に上に書いた謗(そし)りを免れません(=新しさは何もない)。だって、♪ 未熟 半熟 そして 早熟~ なーんて即興ネタみたいなフレーズかまされた日にゃあ、こっちも苦笑いするほかないじゃあーりませんか。
それでは、ここでちょこっと歌詞を見てみましょう。
(Aメロ)
♪ おいで ぼやぼやしてたら私 きっと 誰かとカップル組むわ
好きよ あなたの危ない感じ Hey Boy 私を見つめて
(Bメロ)
未熟 半熟 そして早熟 おシャレ 好奇心 遊び大好き
いいじゃない 売り込み上手も いいじゃない 恋する素質よ
(Cメロ、サビ)
(※) 今夜は記念日に してもいいわ
そんな気にさせたのも 誰のせいなの Lesson2 (※)
(Aメロ)
♪ もしもそっぽを向いたら私 悪い言葉で叫んでしまう
Hey Boy 返事をきかせて
(Bメロ)
お茶目 大胆 そして強がり 軽いノリの良さ 実は純情
いいじゃない こういうタイプも いいじゃない 退屈しないわ
(Cメロ)
(※)~(※) くりかえし
(Aメロ)
♪ やっと誘いが決まって私 急にドキドキしてきた感じ
Hey Boy 優しく迫って
(Cメロ)
(※)~(※) くりかえし
(Aメロ)
♪ おいで ぼやぼやしてたら私 きっと 誰かとカップル組むわ
Hey Boy 私を見つめて
・・・いかがですか。この作品がリリースされた1988年といえば、世はバブルの絶頂期。“真面目”が“ネクラ(=悪)”と揶揄され、軽薄短小なノリこそ“イマい(=善)”とされる風潮が世間に蔓延したんですよね・・・。そしてこの頃には、確かにアイドルを含む女の子たちが普通に“本音”を言っても構わない、という空気が市民権を得ていました。夜な夜なディスコに繰り出して青春を謳歌する“お立ち台ギャル”が元気だったのもこの頃だったし・・・と、一見するとこの「Lesson2」の歌詞は、ある種の女のコの気持ちと当時の世相とを実に的確に描いた作品だと思えなくもありません。ただ、そこにどこか手放しで絶賛できない“妙な引っかかり”を感じるのです。それもそのはずで、この手の“ちょいワルっぽい(けど根は純情な)女のコ”ってのは、それこそ’80年代の前半からすでに存在していたのですから・・・(タケノコ族しかり。アイドルだと三原順子、中森明菜、中山美穂あたりが該当か)。
歌詞を眺めてみると、「売り込み上手=恋する素質」とか、「そっぽを向いたら私 悪い言葉で叫んでしまう」とか、なかなか上手いなと感じるフレーズもあるにはあるんですけどねぇ。いかんせん、1988年リリースの作品としては主人公のキャラクターが陳腐すぎました。
次に、曲とアレンジの方は岩崎工と福永柏の連名ですが、この2人をご存知の方はほぼ皆無でしょう(私も、福永氏の方はさっぱりです)。世間的な認識という観点から岩崎工の方を紹介すると、テクノ全盛の’80年頃はテクノ系バンド“Films(フィルムス)”のメンバー、シンセサイザーに造詣が深く、後にCMソングとして中ヒットを記録した麻倉晶の「ベイビーリップス」(1993.3.3発売、オリコン最高位22位、売り上げ枚数12.3万枚)の作編曲を手掛けた人・・・といった感じになりますか。まぁ”Films”ってのは当時、YMO、ジューシィ・フルーツあたりの人気には遠く及ばず、プラスチックス、ヒカシュー、P-MODEL、チャクラと比べても売れてなくて、当時、かろうじて大きな店ならレコードが並んでいたレベルで、”ピンナップス”あたりと同じくらいの知名度でした・・・と書いても、きっと何のことやらさっぱりでしょうけど。
ま、それはともかく、曲の方が随分と凝ったつくりになっていて思わず感心してしまう秀逸な出来なんですよねー 構成はおおよそこんな感じになってます。
(イントロ)
いきなりのオールディーズサウンド(だけど音自体はおそらくほとんどデジタルと思われる)があなたの頬をグーで殴ります。男声による ♪ワーォ の雄叫びもステキ
(Aメロ)
イントロに続きオールディーズ風味ですが、前時代的なツイストといい、もはや“お約束”のベースライン(テケテケテケテケ)の挿入といい、これはもう確信犯的な仕掛けですよね。アレンジもあれこれ手が掛かっていてなかなか面白いです。
(Bメロ)
基本路線のオールディーズ調は相変わらずですが、ツイストから後ノリのスカへと移行。メロディとアレンジがアメーバのように時々刻々変化するので、聴き手を飽きさせません。
(Cメロ、サビ)
それまでのオールディーズ調から、突如として歌謡曲調の8ビートに移行。 ♪ 今夜は記念日に してもいいわ~ の部分は、まさにこの曲の“メインディッシュ”というべきか。この箇所に差し掛かると、私の脳内でドーパミンがどくどく分泌されまくるという、何とも中毒性の高い危険なサビなんですよねぇ・・・。いやぁ、オールディーズで初志貫徹するのかと思ったら、いざサビに差し掛かったらあっさり宗旨替えだなんて節操ないことこの上ない と苦言を呈したいところですが、こんなに上質のサビを食わされちゃこっちも文句ありませんです、ハイ。
そんなこんなで、変化に富んだメロディとアレンジ、そして、かなり常習性のあるサビの“あんこ”の美味を、ぜひ皆さんにもご堪能戴きましょう。ってなわけで、動画の方をどうぞ。テレビ出演時の様子と音源の両方をupしておきますね~。
最後に、本田理沙について少し。彼女の「Lesson2」という作品を語るには、単に音源を聴くだけでは不十分で、やはり、彼女がロカビリー風バンド「貴族」(←黒の革ジャンとリーゼント“もどき”で楽器を弾きまくる姿は、貴族というよりほとんど横浜銀蠅だった・・・)を引き連れて登場したテレビ番組に触れておかないといけません。
番組をリアルタイムで見ていた私は、そのあまりに前時代的なデビュー・コンセプトと、それでいて、そんなあんまりなイメージに案外と座りよく収まっている彼女の姿に、ちょっとした“衝撃”を受けたものです(それでも、ほんの数分後には“衝撃”が“ニヤニヤ笑い”、さらには“ゲラゲラ笑い”に変わってしまったのですが・・・)。いやぁ、思い返しても、ツッコミどころが満載でミョ~な“絵ヅラ”が楽しかったですねぇ(本田さんゴメンね・・・m(_ _ )m)。それでも、そんな逆境()にもめげず、これっぽっちの迷いも衒(てら)いもなく堂々とした彼女の歌いっぷりは、とても新人アイドルのそれとは思えない天晴れな“仕事”なのでありました。そんな彼女に幸あれっ
それでは、今回はこんなところでおしまい。またお逢いしましょう~