東京の今年の桜の開花予想は“3月の最終週”なんだそうで、「今年は開花が遅めなのか」と思ったら、意外なことに“平年並み”なんですよね。去年の3月はポカポカ陽気で、3月中旬にはもう咲いてしまったからそう感じるのでしょうか・・・。いずれにせよ、早く暖かくなって欲しいなぁと感じる今日この頃なのです。
で、この時期の風物詩といえば、やはり“卒業式”の風景ですよね ちょうど30年前にめでたく高校の卒業式を迎えた私は、その数日後には受験した大学から不合格通知を突きつけられ、晴れて()浪人決定ぱんぱかぱーん という、懐かしくも苦い想い出があります・・・。卒業式で仲のいいクラスメート連中と、「どうせみんな4月にまた“予備校”で逢うんだよなぁ~」と軽口たたいてたら、ホントに全員が同じ予備校で一緒に浪人生活を送る羽目になった(ウチの高校は男子の9割弱、女子ですら5割が浪人という都内有数の浪人率を誇る学校でした)というマヌケな顛末なのでありました。
閑話休題。皆さんお察しの通り、今回の記事で取り上げるのは“卒業”をテーマにした歌謡曲です。大ヒット曲ではありませんが、その年注目の新人女性アイドル歌手のデビュー曲ということで、テレビ番組では結構見かけた記憶があるので、ご存知の方も多いはずです。この作品で~す
「グラジュエイション」(倉田まり子)
作詞:山上路夫、作曲:都倉俊一、編曲:川口真
[1979.1.21発売; オリコン最高位49位; 売り上げ枚数5.3万枚]
[歌手メジャー度★★★★; 作品メジャー度★★★; オススメ度★★★]
卒業をテーマとした歌謡曲と言えば、私の世代なんかだと、やはり1985年の春に「卒業」というタイトルの同名異曲シングルが大量に発売された一件を思い出しますね。
「卒業(12インチ)」(尾崎豊)(1985.1.21発売、オリコン最高位20位、売り上げ枚数7.4万枚)
「卒業」(倉沢淳美)(1985.2.14発売、オリコン最高位19位、売り上げ枚数4.0万枚)
「卒業」(斉藤由貴)(1985.2.21発売、オリコン最高位6位、売り上げ枚数26.4万枚)
「卒業 -GRADUATION-」(菊池桃子)(1985.2.27発売、オリコン最高位1位、売り上げ枚数39.4万枚)
ことほどさように「卒業」というのは歌謡曲のテーマとして“ありがち”なので、他の作品と差別化を図ろうとするとなかなかハードルが高いと言えます。上の4作品を見てみると、尾崎豊の「卒業」はさて措き、女性アイドル3人が歌った「卒業」にはいずれも“異性との恋模様”が描かれている・・・そんな点が“ありがち感”を一層強めているのかも知れませんね・・・。ところが、これらに6年も先んじてリリースされた倉田まり子の「グラジュエイション」の歌詞はひと味違うんですよね~。とにかく、歌詞をご覧戴いた方が早いと思うのでどうぞ~
♪ ここから誰もが巣立ってゆくの 知らない世界がそれぞれ待つわ
リボンで飾った証書を持って 泣いてる子もいる はしゃぐ人も
華やかなスタートよ 見返れば校舎も 春の陽射しを浴びているわ
Graduation Graduation 嬉しく寂しい
Graduation Graduation Graduation Day
♪ 想い出あまりに沢山あって 一つの小説できそうなほど
今日まで通ったいつもの道も 明日は来ないの 歩かないの
別れても友達よ 逢いましょういつでも 決してあなたを忘れないわ
Graduation Graduation 楽しく悲しい
Graduation Graduation Graduation Day
いかがですか・・・ 皆さんもうお分かりのように、この曲の歌詞のミソは、歌謡曲の世界ではありがちな“恋愛”ではなく、“友情”をメインテーマに据えた点にあります。また、しっとりと落ち着いていてスケールの大きな歌詞が、当時18才になったばかりにしては大人びた風貌だった倉田まり子のイメージにピッタリなのも見逃せないポイントですよね。
メロディの方も、都倉俊一センセが渾身の力を込めて書き上げたことがよく伝わってくる申し分のない出来。作品全体が上品で美しい旋律のオンパレードと言って差し支えないのですが、特にサビ部ではマイナーコードを絶妙なさじ加減で織り交ぜることで、学生生活を回想するおセンチ気分が巧みに表現されていて、ラストの盛り上がりにスムースに繋がっているのが実に素晴らしいです。
メロディに関して一点だけツッコミを入れておくと、サビの部分のコード進行が、同じく都倉センセ作曲によるピンク・レディーのラストシングル「OH!」(1981.3.5発売、オリコン最高位46位、売り上げ枚数2.8万枚)のサビ部分のそれとほぼまったく一緒。好事家の向きは要チェックです(作品の完成度という意味では、「グラジュエイション」の方が遙かに上ですケドねぇ)。
倉田まり子のデビュー曲を準備するに当たって、山上-都倉コンビは、間違いなく彼女のイメージ、歌唱力、その他様々な要素をじっくりと“研究”し尽くして、彼女の持ち味が120%発揮されるように細心の留意を払ってますよね~ (だからこそ新人歌手のデビュー曲としては異様に難易度が高い作品になっている、とも言えます)。少なくとも私には、彼らの倉田まり子に対する“強烈な思い入れ(あるいは“愛情”と言ってもいいかも知れません)“のようなものが、この作品を通じてビンビンと伝わってきますし、逆に、そういった強烈な”意思“のようなものがないと、これほどステキなデビュー曲はちょっと生まれてこないと思うのです。
安定した歌唱力でひたむきに歌う姿が好感度大だった倉田まり子でしたが、我が国ではいわゆる正統派の美少女アイドル歌手というのはえてして売れないもの。当時、彼女と「よく似ている」と言われていた石川ひとみ(えー、似てるかなぁ…)のように微妙に“隙のある”タイプの方が異性にモテた・・・というのが何とも皮肉でしたねぇ。彼女も、3作目シングルの「HOW!ワンダフル」(1979.8.21発売、オリコン最高位52位、売り上げ枚数7.4万枚)をピークにその後は売り上げがパッとせず、’80年代に入るとシングルの作家陣をころころ変えた上に作風や歌い方まで変えるなど、かなり試行錯誤を重ねていましたが、惜しくも歌手として日の目を見ることはありませんでした(石川ひとみがユーミンの「まちぶせ」をカバーして起死回生のヒットを飛ばしたのを横目に、彼女も「冷たい雨」をカバーして不発に終わったのは大打撃でしたねぇ・・・)。
その後いろんなことがあって芸能界から遠ざかっていた彼女ですが、現在は“坪田まり子”名義で、キャリア・カウンセラーに華麗なる転身を遂げ、実業家として大活躍されているのは有名な話ですよね。彼女が新天地で成功しているというニュースを5年ほど前に耳にしてすっかり嬉しく懐かしい気分になった私でしたが、いまだに心のどこかで歌手復帰を望んでたりして・・・ 「あの抜群の歌唱力は何とももったいなかったよなぁ・・・」ってね。
それでは今回の記事はこの辺でおしまい またお逢いしましょう~