【お薦めシングルレビュー 37】 若い女性の熱い想いと不安の交錯を描き切った初期ユーミンの名作! | 歌謡曲(J-POP)のススメ

歌謡曲(J-POP)のススメ

音楽といっても数々あれど、歌謡曲ほど誰もが楽しめるジャンルは恐らく他にありません。このブログでは主に、歌謡曲最盛期と言われる70~80年代の作品紹介を通じて、その楽しさ・素晴らしさを少しでも伝えられればと思っています。リアルタイムで知らない若い世代の方もぜひ!

 「寒いよ寒いよぉ・・・と思っていたら、東京はついに雪が降りましたね。で、天気予報によると、今週末は“大荒れ”模様になりそうだとか。我が家の長男(小1)と次男(保育園年長組)は雪が降るのが嬉しくてしょうがないみたいだけど、往復3時間かけて通勤する私はできれば勘弁して欲しいなぁ・・・

 私は“暑い”よりも“寒い”方が苦手なので
、冬というのはどうもあんまり好きな季節ではないんですよね~。でも、そんな私も「冬はいいなぁ」と思うことが一つだけあります。それは、夜空の星がきれいなこと。子供の頃は父親にせがんで、渋谷の五島プラネタリウム(2001年に惜しくも閉館・・・)に何度も連れて行ってもらいましたし、齢を重ねた今でも、ふと夜空を見上げて特に意味もなく星を数えることが多かったりするのです

 私の住んでいるあたりは高層ビル
が多いので、地方都市と比べたら見える星の数は圧倒的に少ないのですが、それでもオリオン座の“三つ星”からスタートして、ペテルギウス-シリウス-プロキオンから成る“冬の大三角形”、おうし座のアルデバランくらいまでは、割とすぐに見つかりますね。 もっとも私の場合、せいぜいふたご座のカストルとポルックスのペアあたりまで見つけられればもうそれで大満足のゴキゲン状態。そう、別に星マニアというワケではないんですよね。

 ・・・さて、脱線はこの辺にして、さっそく曲の方に参りましょう
。すでに一部の方は「この流れだと、きっとアレだろ・・・」と思っているのではないでしょうか そう“アレ”なんです()。


「オリオン座のむこう」(白石まるみ)
作詞:松任谷由実、作曲:松任谷正隆、編曲:松任谷正隆
[1982.1.21発売; オリコン最高位-(155)位; 売り上げ枚数-万枚]
[歌手メジャー度★; 作品メジャー度★; オススメ度★★★★★]



 白石まるみと言えば、世間では、’70年代後半から’80年代にかけて、お菓子系のCM、ドラマ、バラエティ番組などで活躍した女性タレント(「スチュワーデス物語」のおキャンな役柄が最も有名かな)として認識されているのではないかと思います(彼女に対する私のイメージは、庶民的で愛嬌のあるキャラが身上の「隣に住んでいたらちょっと嬉しいお姉さん」・・・といった感じかなぁ)。でも、彼女があの「花の82年組」の一人であり、決して女優の片手間ではなく歌手としても“やる気まんまん”でデビューしたことは、一般的にはあまり知られていないみたいですね。実際には、年末の賞レースにもしっかりエントリーしてましたし、アイドル歌手時代の約1年間にリリースした3枚のシングルはいずれも彼女のイメージに合った秀作ばかりで、所属レコード会社(ビクター)の力の入れようがビシバシと伝わってきたものです。さらに、肝心のルックスや歌唱力だってちゃんと及第点に達していたと思うのに、どういうわけだか売れませんでした・・・

 でもいま改めて考えてみると、やはり売れなかった原因としていくつか思い当たるフシはあります。一つには、歌手デビューの年齢(19歳)が遅すぎた
こと。1978年にオーディションに合格してから歌手デビューまで3年かかったのは、「歌手活動は高校を卒業してからにしたい」という本人の意向を尊重したから、という至極真っ当な理由なのですが、そんなマジメな理由が生き馬の目を抜く芸能界で通用するはずもなく・・・。さらに、所属していたビクターが同じ年に新人アイドルを大量にデビューさせたのもマイナス要因になりました。何しろ、82年組としてビクターからデビューしたのが、女性アイドル系のメンツだけに限っても、小泉今日子松本伊代伊藤さやか坂上とし恵(野々村真の奥さん)、中野美紀シャワートミー・ジュン(元ゴールデン・ハーフ・スペシャル)、加茂晴美宮崎美子美保純(この辺から女性アイドル系というのがウソになってくるのでそろそろやめておこう)・・・と、いくら何でも乱発しすぎこれだけのメンツで限られた宣伝費用を分けるとなれば、一人分のパイが少なくなるのが道理ってもんでしょう

 今回ご紹介する「オリオン座のむこう」は、そんな彼女の記念すべきデビュー作品です
。先にも書いたようにこの曲、リアルタイムではほとんど売れてません。でも、歌謡曲マニアの間では当初からずっと高い評価を受けてきた曲でありまして、まさしく“埋もれた超名作アイドル歌謡”の名にふさわしい作品と言えるのではないかと思います。そんなこんなで、久々にwishy-washyおススメ度が★5つのフルマークとなっております

 まず歌詞の方ですが、当時まだ20代だったユーミンの筆によって、若い女性の初々しい心象風景(=“熱い恋心”と“とまどい・不安”の交錯)をテーマにして書かれたものです
。これがまた、“鋭敏さ”と“繊細さ”を併せ持つという類いまれな感性と見事な表現力がひしひしと感じられる逸品なんですよね~ デートの帰り道を名残惜しむ若い遠距離恋愛カップルの背にはオリオン座の瞬く冬の寒空が・・・、そんな情景が誰の頭にも自然と浮かんでくるはずです。さすがにユーミン、「天才少女」として若くして頭角を現わし、絶大なる同性の共感と支持を集めただけのことはありますよね。歌詞の一部を以下に書き下しておきますので、ユーミンワールドをじっくりと味わって下さいませ

 ♪ 来週やさしくして まだ素直になれずにごめんね
   突然抱き寄せても もう怒ったりしないから
   楽しかったの 長く話せて
   あなたはずっと 憧れでした
   さよならの時刻の オリオン座は嫌い
   駅へ急ぐ二人 追ってくる
   月曜も電話して なぜあなたの家(うち)まで遠いの
   星空を震わせて また心がかけてゆく

 (セリフ) 次の約束はいつ?なんて 私からは聞けないわ・・・

 ♪ 逢えない日々は 手紙を書くわ
   今日はどうして 過ごしたのかを
   けれどもP.S.は とうぶん白い文字
   「死ぬほど好きです」と 綴るため
   来週やさしくして いま気持ちの準備しているの
   突然抱き寄せても もうびっくりはしないから
   あのオリオン座の むこうの季節になれば
   あなたはもう 忘れられない人ね


 すでにお分かりの通り、この作品のメイン・テーマは、「女性の側から綴った初々しい恋心」ですが、これをそのままタイトルにするのではいかにも能がありません。そこでユーミンが媒介(クッションみたいなものとして持ち出してきたのが「オリオン座」というわけ♪ さよならの時刻の オリオン座は嫌い~ という発想は、凡人からはちょっと出てこないと思います

 次に、松任谷正隆センセによる曲の方は、何と言っても冒頭から強烈なインパクトで響きわたるマイナーコードのAメロが秀逸っ
 この上なく切ないメロディが不安な乙女心を過不足なく表現しているのも見事ですし、ややしゃくり上げるようなスタッカートを仕込んだギミックも面白いところです。そしてまた、♪ さよならの時刻の オリオン座は嫌い~ あたりからググッと前面に出てきて”切なさ”を盛り上げまくるアレンジも実に効果的ではありませんか~

 さらにさらに、白石まるみ嬢のヴォーカルもgood
 私には、テレビの歌番組で彼女がこの曲をリアルタイムで歌うのを聴いた記憶がほんの数えるほどしかないのですが、その印象は、声は出てないわ歌唱は不安定だわ・・・で、「やっぱりレコードで聴いた方がいいのかなぁ(心持ちガッカリ)」というものだったんですよね。その点、レコードでは声もしっかりと出ているし、感情の込もったしっとりした歌唱も実によろしいのではないか。特にセリフの部分の表現は、「さすが女優さんだわ・・・」と手放しで称賛したい絶妙の仕上がりになっているので、皆さんもぜひYouTubeでチェックしてみて下さいね



 さて。これほどの名曲が世間にまだ認知されていないとなれば、「カバーしてヒットを狙おう」という動きが出るのは自然の流れというものでしょう
。実際、1994年にはアイドル歌手の笹峰愛がシングルA面としてカバーしていますが、惜しくも歌唱力が曲の素晴らしさについて行けず、出来映え・セールスともに残念な結果に・・・。ちなみに、二人は年齢も活動時期もかなり離れているのですが、“ニャンちゅう”というドラ猫キャラ()が登場するNHK教育テレビの長寿番組の初代お姉さん(白石)4代目お姉さん(笹峰)という不思議な共通点があったことを最近知りました(もちろん単なる偶然で、深い意味なんかないですからね念のため・・・)。

 またこの曲は、TBS系ドラマ「毎度おさわがせします」第3シリーズのヒロインにして、1987年に「疑問」で歌手デビューした立花理佐“幻のデビュー曲”としても知られています
。この時は、「オリオン座・・・」のレコーディングも済ませていよいよ歌手デビューだという段になって、立花サイドにドラマの話が舞い込んだのでした。そして結局、ドタバタドラマのイメージに合わないという理由で「オリオン座・・・」はお蔵入りに。彼女の歌唱力やタレントイメージから考えると、まったくもって賢明な判断だったと言わざるを得ませんが(失礼っ)、のちに彼女自身が「おしとやかでステキな曲だった」と発言しているので、口には出さなくてもきっと「ユーミン夫妻の超名曲を歌い損なうなんて勿体ないことしたなぁ・・・なーんて思っているに違いないと私は勝手に踏んでおります

 それでは、今回はこんなところでおしまい
。またお逢いしましょう~