※今作はボイスドラマ「それは何たるエゴイズム」の二次創作小説です。
※本家(公式)から創作の許可はいただいていますが、本家の物語とは一切の関係がありません。
※あくまでも好き勝手に書いている素人の作品という点をご理解ください。
建物の中を進撃していく学たちは、目的の最上階に向かう道中で自然と別行動を取っていった。カナエとアレクサンダーが、この建物の何処かに捕らわれているであろう子供たちを見つけ出し、安全に外へと連れ出していく中、学は「とある大扉」の前に辿り着いた。他のどの扉よりも堅牢強固な作りに見えるその扉は、学が目的地と定めていた部屋に間違いないのだろう。
この部屋に入室するために、手を使って馬鹿正直に扉を開ける必要はない。大扉との距離を適当に取った学は、大口径リボルバーの照準を大扉の鍵穴に合わせ、引き金を引いた。
「<黒火/鋼鉄の咆哮>ッ」
静寂だった構えとは裏腹に、耳を劈くようなド派手な轟音を立てて発砲。ドアノブを粉々に破壊する勢いのまま大扉を内側に吹き飛ばす。硝煙を挙げる大口径リボルバーを構えたまま、無言で入室する学。対するは、少しだけ意外そうな表情をした阿弥が不敵に笑って歓迎した。
「これはこれは……思いのほか若すぎるお客様のようだ…」
「……ッ」
阿弥の傍らで、膝をついて座らされていた凪々が学の姿を視認する。猿ぐつわを噛まされているため声を上げることが出来ないが、涙目で訴える眼差しだけを向けられれば言葉など不要。とりあえず凪々の現状が無事であったことに安心した学は、改めて阿弥の顔を見据えて銃器を構える。
「お前は…」
「おや、私のことを知っているのかね?」
「ここに引っ越してくる前に孤児院をやってたんだって? 世間じゃ消息不明ってことになってるらしいけど、こんなところで何をやってたのかな?」
「むぅ?」
学の発言に阿弥は首を傾げた。それに便乗するつもりはないのだろうが、傍らの凪々も不思議そうな顔をしている。そのリアクションを前に、さすがの学も空気を察した。
「お前、安部義信だろ…? こっちで入手した情報には顔写真もあったんだ。ここに引っ越してくる前から、孤児院の院長をやってた経歴も…」
「……あぁ、そういうことか…。確かに「その名前を使っていた時期」もあったような……。いやはや、終わらせてしまったことには興味がないものでね。すっかり忘れていたよ」
「何だと?」
「今の私は孤児院の院長ではなく、ただの科学者として活動している。名前も新たに「畔道阿弥」と名乗っているのだよ。改めて宜しく」
学と阿弥の会話が理解できていないのか、凪々は大きな目を見開いたままパチパチと瞬きを繰り返してキョトンとしている。凪々が蚊帳の外に放り出されている状況を悟った学は、現状を整理するためにも阿弥への質問を畳み掛けた。その間も、身構えている拳銃の銃口は阿弥の顔面に合わせたままだ。
「黒崎さんは何も知らないのか…? 黒崎さんだけじゃない、他の子供たちも…ッ」
「うーん、どうだっただろうか……。確かに真実は教えていなかったかもしれないが、教えた上で当人たちが記憶に留めていない可能性もある。もしくは、ここを孤児院だと表向きに語っていたか……病院に入院中の患者として扱っていたか…。今となっては定かではないね」
自分たちの生活環境であるにも関わらず、阿弥の言葉は酷く曖昧だった。まるで他人事。自分が当事者であることを微塵も感じさせない発言が連続している。
「まぁ、正直どうでも良いことだ。君たちの襲撃があった時点で、この場所も引き払わなければならなくなっている。さっさと荷物をまとめて退散しようと思うのだが、そう上手くはいかないんだろうねぇ」
「当たり前だ。この状況で僕がお前を逃がすと思うか?」
「思っていないさ。勇敢な襲撃者が現れたと思っていたが、まさかI.S.Mの上位者とは予想外だったからね」
「ーーーッ!!?」
また新たなワードが出てきたことに、いよいよ凪々の眉が潜まり、頭上にクエスチョンマークが飛び交い始めた。しかし学はそれどころではない。今、阿弥は何と言った?
「I.S.M、だと…? 何で…」
「何で知っているのか、という問いに答えるつもりはない。そもそも「元々はUnlimitedの上位者だけ」と、手始めに接触する作戦だったのだ。まぁ、この展開は喜ばしい。手間が省けたのだからな」
「Unlimitedのことまでッ。お前、いったい何者だ!」
「そう焦らずとも分かる日は来るさ。ただし、この場から脱することが出来たらの話だがね」
「……そんなの…、お互い様だ…! <黄風/瞬迅>ッ!」
右手に構えていた大口径リボルバーとは、また異なる小さな拳銃を左手に構えて発砲する。狙いは右脚と左脚。直立に必要な膝頭を正確に撃ち抜かれた阿弥は、あまりの激痛に声を上げることも出来ないまま倒れ込み、床に顔面を叩き付けたまま動かなくなった。
「ほら、これで逃げられなくなったね。お前の身柄はI.S.Mが拘束するッ。はい、雑魚乙!」
「………ッ…」
とりあえずの脅威が去ったところで凪々の傍に駆け寄った学は、ようやく大口径リボルバーを懐に下げる。凪々の口を封じていた猿ぐつわを丁寧かつ迅速に取り外し、先ほどまで物騒な銃器を握っていた右手を差し出そうとして、やめた。学の目の前で座り込んだままの凪々は視線を泳がせ、いまだに現状の整理が追い付いていない様子を見せる。
「……学…くん…。何が、どうなって……」
「色々と気になってるよね…。わけが分からないよね…。でも、それを今すぐ説明してあげられる程の余裕はないんだ」
凪々と会話を交わしながら携帯端末を取り出し、子供たちの救出を任せていた二人と連絡を取る。カナエからの連絡事項は届いていなかったが、アレクサンダーからは「施設に囚われていたと思われる子供たちの救出に成功し、先ほどI.S.Mと繋がりのある病院への搬送準備を整えた」との連絡が届いていた。
「ちょうど僕の仲間から、黒崎さんたちを病院に送る手筈が整ったって連絡が来たよ。外まで送るから、早くここから」
ここから出よう、と言い掛けたところで学の背筋に凍て付くほどの悪寒が走る。これは、殺気だ。
「…ッ!」
「それは困る。失敗作とはいえ、外の世界の病院に連れ込まれては、私の手が届かないではないか」
「ーーーッ!!?」
バァンッ!!!! という発砲音が轟いたが、それは学の得物ではない。すぐ傍らで、うつ伏せで倒れていたはずの阿弥の手元から硝煙が立ち昇っている。銃器の類いなど何処にも見受けられないが、今のは間違いなく阿弥の奇襲だった。
「学くんッ!!」
「ぐ、ぅぅ…ッ!」
咄嗟に感じ取った殺気に反応し、弾丸の軌道から体を逸らして着弾は免れた。しかし、この至近距離からの発砲音には聴覚へのダメージが凄まじく、耳鳴りが治まらない。右手で右耳を押さえながら左手で凪々の手を引き、阿弥と距離を取った学は、目の前の光景を疑った。
両膝を撃ち抜かれたはずの阿弥が、風穴の空いた両脚を駆使して静かに立ち上がる。その手には、やはり銃器など握られていない。にも拘わらず指先から硝煙は昇り続けていた。そして何より、撃ち抜いたはずの両脚からは一滴の出血も見受けられない。
「……穿き物の下に、防弾の装備か…ッ。用意周到な…ッ」
「場数が違うのだよ。頭脳で戦術を叩き出せたとして、それが通用する世界とは思わぬことだ」
「(…………でも…、あの手は何だ…? 小型の拳銃すら見えない…。今、こいつは「何」を撃ってきた…?)」
表向きは冷静さを欠かないよう努めながらも、学は阿弥の奇襲のカラクリを考える。軽く手を振って硝煙を払って見せた阿弥の手の内には、やはり銃器の類いは見当たらない。今の発砲は何処から生まれたのだろうか。
しかし、その答えに辿り着くよりも先に状況が進展する。学に手を引かれて背後に回されていた凪々が、阿弥に向かって一歩前へと踏み出したのだ。
「黒崎さん…!?」
「………阿弥、先生…」
「何かね?」
「さっきの話は、どういうことですか…? 失敗作とか外の世界とか……、恵める生命とか」
ここに連れ戻された際にも同様のことを言われた。その時から始まった理解不能の単語は、この状況下でも変わらない。自分が巻き込まれているはずなのに、いつまで経っても蚊帳の外ではないか。
「私は……、ここが「一時的に子供を預かってる施設」で、いつか「親御さんのところに帰ることが出来る場所」だって聞いてました…ッ。実際に「帰っていった子供はいた」みたいだけど、それを目で見たことは「一度も」なくて……」
知識の中では、この場所の認識は孤児院で間違いない。しかし、もうそれが「ただの孤児院」でないことを察している。学に至っては、ここが孤児院ですらないことを突き止めているのが現状だ。
「だから私は外に出たんです! 一人でもいいから、ここを出て行ったお友達を見つけて、ちゃんと元気に……お母さんやお父さんと生活していることを確かめたかった! ただそれだけなのに…ッ」
きっと、その「お友達」は二度と見つからない。学は察していた。ヘルトと一緒に見た、あの路地裏の惨劇こそが、凪々の言っている「お友達」そのものだと。
「ここに連れ戻されてからの阿弥先生は……。私が「外の世界」を見てきてからの阿弥先生は、もう今までの阿弥先生じゃない! 教えてください…、私には……もう何が何だか分からないんですッ」
凪々の必死な訴えを聞いた阿弥の表情に、これといって大きな変化はない。が、その口は静かに開き、ゆっくりとした調子で真相を語り出した。
「白桧学よ。外の世界に踏み出した凪々と、最初に顔を合わせたのは……君で間違いないな?」
もはや「何故フルネームを知っている」という謎さえ軽いものに思える。学がI.S.Mの人間だと知っている時点で、ある程度の素性など筒抜けになっているのだろう。ここは無言のまま、学は大人しく首を縦に振って肯定した。
「不思議に思うところはなかったかね? 例えば、言動。価値観や常識。そういったものに不自然さは抱かなかったかね?」
「…ぁ」
ゲームセンター内での言語学習能力から始まり、一般的に知られているはずの甘味知識の偏り。最初は複雑な家庭環境などによる教育の影響かと考えていたが、この話の流れと空気から察して、それは間違いだったようだ。
「思い当たる節があるようだね? いやはや申し訳ない。外の世界に連れ出す予定などなかった手前、そのように「作っていなかった」のだよ。混乱させてしまったな」
「…作って、いなかった?」
「彼女に限らず、私の「作った」子供たちは知識と記録だけで脳を形成している。そのせいで、本来ならば必要不可欠な「経験」と「思い出」が存在しないのだよ。まぁ、そんなものを与えてくれる親など存在しないのだ。無理もない」
「お前…、何を言って……」
「…阿弥……先生…?」
放心状態にも近しい凪々の体は、右に左にフラフラと揺れ始めていた。それでも阿弥は止まらない。残酷な答え合わせが目前に迫っていた。
「本当に素晴らしい力を授かったよ……。やはり「あのお方」を信じた私の選択は間違っていなかった…。だが、経験値が圧倒的に足りない…。だからこそ作り続けるのだ…。この私の手で、何度でもな…ッ」
「……失敗作…、生命…。阿弥、先生……。私…、私…は……」
「理解できないのも無理はない。だから教えよう。今ここで、君の全てをだ」
この時点で、学の右手は自身の右耳に添えられてなどいない。その手は再び大口径リボルバーを握り直し、照準は阿弥の顔面へと改めて向けられようとしていた。
「君はッ、私の持つ最高位の科学技能「錬金術」によって生み出された人造人間…! 錬金生物なのだよッ!」
次の瞬間、学が構えていた銃器が咆哮を挙げる。放たれた弾丸は照準通りの軌道を走り、一切の防弾装備に守られていない阿弥の顔面を、今度こそ正確に粉砕した。
