前に、ハングルについて話をしたことがある。ハングルは15世紀にできた朝鮮・韓国語を表記する固有の文字だ。
日本語は、漢字を崩したりしてできた仮名が固有の文字であり、それと中国文字である漢字とをミックスして日本語を表す。
朝鮮・韓国語も漢字ハングル混り文が多かったが民族意識高揚のため戦後ハングルのみになって同音異義語が区別できず大変なことになり、さらに漢字がみんな読めなくなり図書館の書籍のほとんどが無意味になっているという。
さて、ベトナムにも日本や韓国朝鮮と同様に固有文字が存在した。
と、その前に、紹介。現在はクォク・グー(国・語)と呼ばれるローマ字で表記する。
英語のアルファベット表記はフランス語のように符号をつけないので、初めて見る単語は読み方が分からないが、クォクグーは符号を駆使しているので、読み間違えることはない。
符号の上にさらに符号がつくダブルで最初は面食らうかもしれないが、あれは声調もあらわしているから親切なのだ。日本語では、橋、端、箸の音の高低を仮名の「はし」は表すことができないが、ベトナム語ではそれも表してくれているわけである。
もっとも、メールやチャットなどではベトナム人は符号を付けないで打つので慣れないと英語のように読み方がいまいち分からなくなる。
例を二つ。
Hà Nội ハノイ
aの上の符号は、上から下という印で、ため息「は~」と上から下に下がって言うように言う。
「ノイ」の下の点は、点を打つように、低く短く言う印。oの上の「^」は口を小さくするという意味で、普通の「o」オよりも口を小さくしてオと発音する印。ベトナム語には「オ」というのが、いろんな国と同様広狭の2種類ある。
まとめると「ハ~」(上から下)「ノイ」(低く短く)。
首都ハノイのクォクグーだ。
Hồ Chí Minh ホーチミン
小さい口のオの上はハノイのハと同じく上から下に下げてため息のように言う印。「ほ~」。
「チー」は、逆に下から上に上げて言う。
ミンのiの上に符号がないのは、少し高めで平坦で高さの上下がないという意味。
「ホー」(上から下)「チー」(下から上)「ミン」(平坦)。
これが南部にある最大の都市ホーチミンのクォクグーだ。(建国の父、ホーチミンの名前でもある)
それぞれ、普通にタイプするときや、英語表記するときは、Ha Noi、Ho Chi Minhだから仮名表記と同じように音の上げ下げが分からなくなる。
このベトナム式ローマ字表記(クォク・グー)は、17世紀のフランス宣教師が作っていき、それをフランス統治下でフランスが利用し、次にベトナム政府が採用したという経緯がある。
これが一般にいわれるものだが、異説では、フランシスコ・ザビエルの弟子「ヤジロウ」が日本語のローマ字表記を考案し、その影響を当時貿易で栄えたベトナム中部ホイアンの宣教師が影響を受けて考案していき17世紀に大成したという。
この分かりやすい表記、あるいは国民の勤勉さによって、ベトナム人の識字率は東南アジアや発展途上国で群を抜いて高い。
実際、ベトナム人が正式採用をしたのは20世紀になってからで、それまでの公式文書は朝鮮あるいは古代の日本と同じく漢文だった。
ただ、自国の言葉を表したいわけです、やっぱり。
日本では古代、公式文書は漢文としながら8世紀万葉仮名、平安になりかな文字文学が盛んになったし、朝鮮では日本に併合されるまでずっと文書は漢文といいつつ、15世紀にハングルができ、少ないながらも自国の文学ができたりもしたのと同じだ。
それが、ベトナム語の固有文字「チュノム」(字喃)だ。
13世紀にでき17世紀に大成した。知識人たちが民族意識で自国語を表現するために使われた。
ただし、日本語の仮名、朝鮮のハングルと違い、今、完全に廃れてしまった。100%完全に。
その理由は、仮名やハングルと違って、漢字よりも難しいから(爆笑)
もう一つは漢字がなくても声調があるため、日本語や韓国朝鮮語と違って同音異義語が少ないから。
漢字復活論を言う人はいても、チュノム復活を言う人は少ないと思う。せっかく、高い識字率があるローマ字が今あるのだから。
ベトナム国内では、寺院などの昔の建物や家の置物、縁起物には漢字がいろいろ書かれてある。おいらも何度も紹介したことあると思う。
ただし、ベトナム人たちは全くなんて書いてあるか知らない。日本で言う梵字のような感じなんだろうか、ありがたっぽくて、かっこいいけど読めないみたいな。
そして、チュノムはベトナム国内で全く見たことがなかった。
が、今回1つだけ初めて見た。それは文廟(孔子廟)で漢字がいろいろ並んでいる中、一つだけ。おいら、感動した。
ものすごい珍しいものだと思うのだが、ちゃんと紹介されていないのではないだろうか。一日に何千人も来るハノイの超観光地で年間どれだけの人が感動するんだろうか?
上が幻のチュノム、下が現在のクォクグー表記。 (「吏」の左二つは光って見づらいね。「碑儀」です)
漢字っぽいけど、見慣れない字があるでしょう?これがチュノムです。
4種類あるのではないだろうか。1種類目が普通の漢字で、「碑、儀、座、間」の4つ。意味は当然日本と同じ。
次、2種類目が漢字でいうところの「形成文字」。
漢字は象形文字だとも一般に言われたりするが、それは、山、川など実際は少なく、一番多いのは形成文字と言われるもので90%も占める。
例えば「銅」は左が金属という意味を表し、右がドウという音を表す。
「洋」は左が水を意味し、右がヨウという音を表す。
このように、意味を表すものと音を表すものの組み合わせの漢字を「形成文字」といい、漢字の90%を占める。
チュノムの多くはこれを利用している。チュノムを簡略に説明しているのは大体この形成文字スタイルを説明している。
例えば、初めの[尼今]は、左が音のnay(ナイ)、右が今という意味を表す。
次の[日/麻]は日は日付の印で「あした」を意味し、麻はmai(マイ)という音を表す。
あるいは[シ若]は、「シ」は「水」という意味をあらわし、「若」は「nuoc(ヌオク)」という音を表す。意味は本来「水」で、名産魚醤の「ヌオク・マム」のヌオクだ。まあ、ここでは、派生の意味の「国」を表している。(水が派生して国を表すようになっているというのが面白い。ハノイが水の都だからなのか??日本では、飲み屋さんなどのことをいうけどねw)
ほかにも[上/連]は上という意味プラス、tren(北チェン、南トゥレン)という音を表し「上で」という前置詞を表す。こういうのがチュノムと第一の特徴といっていい。
次、3種類目が、日本の訓読みに相当するもの。
「家」がそれに相当する。本来漢字音では「gia(北ザ、南ヤ)」で、日本では音読み「カ」に相当するのだが、下のクォクグ表記を見ると「ニャー」と書いてある。これは日本語で言う訓読みの「いえ」に相当する読み方だ。
そして最後4種類目が、いわゆる万葉仮名のようなもの。
例えば「我ハ日本人也」の「ハ」は、数字の8という意味はない。「HA」という音を借りているだけで、助詞を意味しますよね。
これに相当するのが「吏」で、「吏」という意味はなく、「laiライ」という音だけ借りて、「また、再び」という意味を表す。
このようにおそらくチュノムは4種類であり、
①普通の漢字(碑、儀、座、間)、
②漢字でいう形成文字(これがメイン、[シ若][尼今]など)、
③日本でいう訓読み(家)、
④いわゆる万葉仮名的(音の借用文字)なもの(吏)。
このように、チュノムは漢字を知らないと、学べないわけで、漢字より複雑になっていった。
仮名やハングルと違って、完全に廃れた理由がわかるだろう。知識人たちや愛国者たちはヨーロッパの文字を使いたくはなかっただろうが、より簡便にして国民に教育が行き渡るようにローマ字表記を採用したのだろう。
初めにいったように、昔の文章を仮名表記だけにしたり、ハングルだけにしたりしたら、同音異義語が多すぎて分からなくなる。が、ベトナム語は声調があるので同音異義語が少なくて大丈夫である。また、ローマ字変換した漢文でさえも素養のない人でもある程度理解できる。日本語なら「春眠不覚暁」を「シュン・ミン・フ・カク・ギョウ」と書かれたら全く分からなくなるのとわけが違う。
チュノムは復活は無理だろうし、する必要はないが、中学・高校くらいに基本漢字を学ぶ教育を必須にしたら、ものすごく国際社会で役に立つと思う。
これは今の漢字教育が必須ではない韓国も同じである。だって自分の名前の漢字を知らない(笑)っていうのは、日本人から見れば、異常というか、残念ですよ。
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