ラブレター2007/11/18 19:19

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚**:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

鈴木様

いつも遅い時間までお仕事ですか?

返信が遅れて申し訳ありません

12年間想い続けた人への気持ちを言葉にすることは

これまで覚えてきたどんな言葉を紡いでも

紡ぎきれないものかもしれません 

メールの内容では あまりお話されたことがないのですね

突然のメールでは 相手の方も驚かれるでしょうから

反応を見ながら

ゆっくりと確かに 気持ちを伝えて行かれたらいかがでしょう?

重要なことを聞き忘れていました

お相手のメールアドレスはご存知ですか?

どなたかお知り合いの方から聞かれたのでしょうか?

 沈丁花沈丁花


この人のメールは 私に1年前を思い出させる

去年の今頃 私はまだ会社でOLをしていた

毎晩 中央線の終電に揺られながら

友達から届いたメールに返信する

それが日課だった


「ねえ あやって自分の気持ちを言葉にするの上手いよね」

「そう?」

「うん 私なんて 頭の中で言いたいことがゴチャゴチャして

 何言っていいか分からなくなるもん」

「そんなことないよ 里美の言葉ってなんだか温かくて好きだよ」

「ほら そういうことさらっと言えちゃうんだもんね」


大学の卒業旅行で そう言ってくれた里美から

その日 数ヶ月ぶりにメールが届いていた


手紙2006/11/07 12:14

あや 久しぶりビックリマーク元気にしてるはてなマーク

しばらく忙しくて メールもできずごめんよ汗

うちのおじいちゃん 覚えてるかなはてなマーク

実は おじいちゃん癌になっちゃって

余命が3ヶ月って宣告されてるの

おじいちゃんには まだ伝えてないけど

薄々は気付いてるのかな・・

昨日 急に「あやちゃんは元気にしてるかはてなマーク」なんて聞いてきて

どうしたのか聞いたら

あやに聞きたいことがあるんだって

おじいちゃんには 残された日々を

できるだけ好きなことして欲しいし

私も なんとなくそれ以上聞けなくてね

じゃあ あやに連絡してみるねって 言っちゃったの

勝手にごめんね

あやから おじいちゃんに連絡してもらえないかなはてなマーク

今 入院してるんだけど

年甲斐もなく 携帯持ちたがって メールの練習してるみたい

だから メール送ってあげて欲しいんだ

アドレスは書いておくから音譜

よろしくね


里美の実家には 大学の帰りによく寄った

季節ごとに考えて植えられた花々の香りが漂う

手入れの行き届いた庭

その花に埋もれるように 腰をかがめていつも草を抜いていたのが

里美のおじいさんだった

特に 何を話したわけでもない

挨拶をして 里美の部屋に上がってしまっていたし

ただ 里美と同じあの温かい笑顔が印象的だった

おじいさん 癌になっちゃったんだ

自らの死を 人は悟るのだろうか

そのとき 人は何を思うのだろうか

何を私に聞きたいのだろう

里美 辛いだろうな おじいちゃんっ子だったし・・・


ラブレター2006/11/07 12:28

お久しぶりです 里美さんの友達の高木文です

覚えていらっしゃいますか?

里美さんから 入院していることを聞きました

お身体は大丈夫ですか?

良かったら お返事下さい


手紙2006/11/07 12:52

 文さん。こんな老いぼれの私にメールを頂いて、なんだか若い頃に戻ったような気分です。慣れない携帯を孫にせがんで、文さんに連絡を取ってもらうよう頼みました。どうか、死に掛けの老人の頼みだと思って、大目に見てやって下さい。


ラブレター2006/11/07 12:56

良かったです ちゃんと届いて

そんな 老いぼれだなんて言わないで下さいね

仕事中はなかなか返信できませんけれど

休憩時間にチェックしますから

いつでもメール下さいね


手紙2006/11/07 13:45

 私は、現在癌で入院しております。この歳まで生きて来れたのは、ひとえに家族のおかげだと思っております。若い頃は、仕事一徹で、特にこれといった趣味もなく、家族のために一生懸命働いて参りました。自分の生きてきた人生に後悔はありません。これ以上家族に迷惑をかけることなく、孫たちに見守られて死ねたら、それほど幸せなことはありません。しかし、一つだけ心残りなことがあります。うちの里美が、よく文さんの話をするときに、文さんは気持ちを言葉にするのがとても上手だと申しておりました。それを見込んで、どうしてもお願いしたいことがあるのです。お忙しいことは重々承知しておりますが、どうか里美には内緒で一度会いに来ては頂けないでしょうか?


ラブレター2006/11/07 15:07

返信が遅くなってごめんなさい

今 休憩中です

分かりました 明日の午前中に休みを取ってうかがいます


次の日 駅前の花屋でマーガレットの鉢植えを買い求め

里美のおじいさんの入院している病院に向かっていた

お見舞いに何を持って行こうかと 大分悩んだけれど

やっぱり あの庭に咲いた花が

私の記憶の中で

里美のおじいさんの笑顔と重なって離れなかった

里美には言えないこと

50も歳の離れた ろくに話したこともない私に頼みって

一体何なんだろう


「こんにちは」

「おお 文さん 仕事を休ませてしまって申し訳なかった」

「ちゃんといつも真面目に働いていますから

 会社も何も聞かずに休ませてくれました

 だから 気になさらないで下さいね」


布団から差し出された手は 皺が寄り 青白く透き通るようだった

あの頃の日に焼けた顔からは 想像もつかないほど白い


「良かったら これ 飾って下さい」

「マーガレットだね ありがとう

 どうもここには華やかさが足りないと思っていたんだ」

「なんだかおじいさんのことを考えていたら

 やっぱりお花かなって思って」

「嬉しいよ 以前もよくうちに来るときは

 花の苗を持って来てくれた・・・」

「覚えていらっしゃったんですか?」

「ああ 文さんといえばお花だった」


そう言って おじいさんは何かを懐かしむように笑った

その笑顔は あの頃と変わらず優しく温かいままだった