人の口に戸は立てられぬ
小学校で受けた、道徳の授業の話である。
どのようなテーマだったかは覚えていない。
確か、「電車の優先席」の話から、「かわいそう」という感情の話を先生がしていた。
先生が「最近かわいそうだなぁと感じた出来事ありますか?」とクラスのみんなに聞いた。
ある女の子が、「ハイっ」と挙手をし、こう言ったのだ。
「〇〇さん(私)のお父さんが、本当のお父さんじゃないから、かわいそうだと思いました。」
私は仰天した。
大して話した事のない、おしゃべりなクラスのリーダー的な子が、私の秘密を知っていた事にだ。
すぐにピンときた。
その頃一番仲良くしていた、親友のような子がいた。
「絶対だれにも言わないでね。」
私はこの秘密を打ち明ける事で、もっと親密になれるような気がしていた。
二人だけの秘密を共有し、友情というものに酔っていたのだ。
もう顔が自分でも真っ赤になっているのがわかった。
先生は、「他にはありますか?」と何事もなかったように、話題を移した。
顔があげられず、休み時間になっても、足が震えて席を立つ事も出来なかった。
しばらくの間、朝教室のドアを開ける時、そのドアがとてつもなく重く感じた。
気まずかったのか、その後そのお友達も私を避けていた。
(その時これがあれば、もっとドアがスーッと軽く開いたのに…)
子供はいつも素直であり、とても残酷だ。
そして大人も子供も、人の秘密を、「ここだけの話だよ」と囁くのも快感だ。
難しい事はわからない。
ただ、道徳とは、一体どういう事なんだろうと思う。