突然、話す母に、明らかにスイッチが入ったのがわかった。
「あなた、自分がやってる意味がわかっていますか?」
「あなた頭大丈夫ですか?」
外面のいい母から、とんでもない言葉が飛び出してくる。
(こんなかわいいスイッチなら良かったのに…)
私は察した。
新しいお父さんの浮気相手だと。
母は最近、新しいお父さんが最近浮気している事を、電話で叔母にいつも相談していたからだ。
電話口の母は激高し、受話器を持つ手が震えていた。
「かわいそうって、どういう事ですか?」
「うちの旦那の事を、他人の女に、かわいそう呼ばわりされる筋合いはない!」
そう言って、電話をガチャ切りした。
母は泣いていた。
母が泣いているのを初めて見て、かなり動揺した。
私は自分の部屋の、フランスベットの中に急いで潜り込んだ。
全ての出来事がショッキングで、心臓のドキドキが止まらなかった。
お父さんの浮気相手に、「お父さんがかわいそう」と言われたのはわかった。
「かわいそう」とは、連れ子である私を育てている事を指していた。
泣いているお母さんが、かわいそうでたまらなかった。
お母さんは一生懸命に妹を育てているのに、私がいるせいで、浮気相手に「お父さんがかわいそう」と言われたのだ。
なんで私なんか生まれてきたんだろう。
子供の頭でいくら考えても、どうすればいいのか全くわからなかった。
お母さんの邪魔ばかりしてしまう自分が、嫌で嫌でたまらなかった。
(こんなかわいい毛布であの時の自分を包んであげたい…)