久々新宿まで出た母が、「ちょっとケチってしまった」と言いながら
チョコレートの箱をテーブルの上に出す。
こんなこと言いながら、チョコレートを一番楽しみにしているのは母だ。
食後に蓋を取ると、申し訳程度にアイシングで飾った
石ころ大のチョコレートの群れが、一斉にこちらを見たように思った。

ひとつつまんで口に含む。
「ちょっと、中の詰め物が多いよ」
ふたつつまんで口に含む。
「砂糖の固まり、食べてるみたい」
みっつつまんで口に含む。
「杏仁豆腐の味しかしない。これ、チョコレートじゃないね」
こうなると、もう面白くなってきちゃう。

生きてるとね、目の前の選択肢が全部はずれってこともあるね。
わかってても、選ばなくちゃいけないことがあるね。
あなたの方がよく知ってるか。

おどけてまたひとつチョコレートをつまむ母の、
少し困ったような笑顔が、美しいんだ。