川崎から都内（都下）に戻った20代後半。

続けて死にかけたあとだったりで、しばらく仕事は最低限のバイトでいいと決め、道場の近くに住まいを移しました。

月10万そこそこの収入で、都内で一人暮らし。

しかも僕は身体的な都合で公共風呂は使えませんから、家は最低でもシャワー付きが必須条件。

すると古アパートだとしても大部分を家賃に持っていかれることになります。

これであと削れるのは食費だろうか？

同時に当時はちょうど、畜産動物の肉を食べることへの疑問もマックスまで蓄積していた頃でした。

動物を好きだと言いたい。

だが、絶対的に安全な場所にいながら、自らの手を汚すことなく畜産動物たちの命を無条件に奪い続けている、自分自身への矛盾。

おまえは

「人間も動物もみんな同じひとつの命です」

などと、朝食にハムを食ったその口で言えるのか？

大切に守られるペット動物たちと、生まれたときから殺されることが決まっている畜産動物たちの命の違いは。

考えると、ぐるぐるぐるぐる苦しくて。

とはいえ、僕は生物が生きるために他者の命を必要とすること自体には、過剰な感情論を挟むつもりはないのです。

そこを否定してしまっては、地球の循環自体を否定することになるから。

だからそれもあってその一期間、自分自身の手で生き物を捕り、命を奪い、食す。という生活を営むことに決めました。

生きるために食べるのは自然なこと。

だったら自身の両手をきちんと血に濡らし、己の命を繋いでいく、その行為がどういうことなのかを、しっかり直視しようと。

（キャンプ等で体験するそれは、あくまでも生存には影響しない一時的なイベントだしね）

（おかげで魚と鳥とヘビくらいは自分で捌けるようになっていましたが…）

僕は日々の食糧の多くを自分でまかなうことにしました。

川で生き物を捕り、不漁ならば昆虫を捕る。

どうしてものときに野菜は買うことにしていたけれど、できる限りを野草や木の実からいただく。

川で捕れる魚にはオイカワにムツ、ナマズ…、名前は分からなかったがハゼに似た魚もいた。

ザリガニやスジエビ、ヌマエビは食べられる上に出汁も取れたし、シジミも捕れる。

野草はタンポポ、つくし、オオバコ、ヨモギ、ハルジオン、アカツメクサ、ヤブガラシ…。

カラスノエンドウやノビル、セリもクレソンも生えているし、ツユクサやスベリヒユ、セイヨウカラシナもとても美味しい。

アク抜きして粉にしたドングリでパンを焼き、桑の実で作ったジャムをつけていただいて。

アパートの軒下に自生していたミョウガとシソは最高の薬味だったし、たまたま農家さんがご自分のために作っているオーガニックの大豆をたくさん分けてくださったので、味噌も自分で作りました。

そんな暮らしの中においては、昆虫も非常に貴重な栄養源になりました。

話題のコオロギは、正直おいしいほうではなかったです。

それならバッタ類のほうが断然よさそうでしたが、これを養殖するとなるとエサが難しいんでしょうね。バッタは新鮮な草しか食べないから。

対してコオロギは人間の残飯でも何でも食べてくれるので、養殖に手間とコストがかからないのだと思います。

だから昆虫食の普及は、もし食べること自体に抵抗がないとしても、コオロギに何を与えて育てるかの一定基準が設けられないうちは、手放しで肯定はできないんじゃないかな、と。

（種は何であれ、置かれる立場は畜産動物と同じだし、ね）

横道に逸れた(T▽T)

この生活により、少しだけ、ほんの少しだけ。

他の生き物たちに対して、自分が人間なんていう傲慢な生物であることへの引け目を、ほんのわずかに薄めることができたんです。

自身の心の落としどころの話なので、動物倫理の是非を問う目的はないですよ。

だからね

冬、です。

採集生活は冬に食糧を調達するのが、すごく大変だったんです。

ああ、それで太古のうちから『貯蔵』の必要性が出てきたんだなあと、妙に実感しました。

冬の「今日食べるものどうしよう…」が、自炊で一番苦労したこと、ですかね。

この2年ほどを経て採集生活は終了し、まだまだ残るぐるぐるをもう一歩消化するため、自炊は菜食主義へと移っていくことになるのですが。

が、そこらへんの話はもういいかな。

ちなみに、こんなガサガサした食生活に反して、暮らしは全体的に小綺麗でした。

変形1Kのへんちくりんなアパートに無理矢理ロッキングチェアを持っていっていた当時の写真があったので、転写しておきます。

持ち物が今と殆ど変わらない。

服も全然持ってなかったから、クローゼット？を床の間にしてやりました(笑)。

畜産動物と採集生活