「眼の奥の森」 目取真俊 (影書房)、 点数:4


せめぎあう記憶、ひびきあう言葉。米軍に占領された小さな島で事件は起こった。少年は独り復讐に立ち上がる―60年の時を超えて交錯する記憶の物語。連作小説。~amazon参照


 戦時中に沖縄の離島で起きたレイプ事件。その影響で狂ってしまった被害者の女性、復讐の結果盲目となり村で排除されながらも女性を思い続ける青年。

 終戦から60年経った現在も、彼らにとっての戦争は終わっていない。常にその記憶に脅かされ、引きずって生きていかなければいけない。それは、彼らの人生の土台に戦争があるのだから、決して振り払うことはできないのだろう。

 人と接するとき、その人の人生の土台に何があったかというところまで思いを巡らせることはない。しかし、濃密な人間関係を築きたいという思うとき、そういった経験に思いを馳せ、共有できないまでもそれを試みなければ本当に人を理解することはできない。

 自分の仕事は、人の記憶をたどることが多い。効率的ではないかもしれないが、ゆっくり時間をかけて相手の経験を共有しようと試みることを忘れず、相手を描きたい。