ワインコマンダリー博多誕生から遡ること半年前から有志でワインの勉強会をしておりました。
ソムリエ藤田忠邦さんの講義内容を記します。5000文字制約の為、第11回目の後半です。卒業回
 
第4章 ワイン知識のあれこれ
 
1. ワインコンプレックス
 日本ではワインを飲むことが異文化との出会いという言い方が許される。イギリス、アメリカではワインに対するコンプレックスは想像以上に強い。(ワインを食文化の内側に持つ国ではそれが教養の一部と考えられる。)
ヨーロッパではヶの日の飲み物。英米では作法を気にする。
 
ワイン入門書 原型は教養書であるものが現実には実用性が重視される。
〇レイモンド・ポストゲイト
 素人のためのワイン案内(The Plan Man's Guide to Wine)
(即効的作法 10ヶ条)
1.魚に赤ワインを出すな
2.メインディッシュに甘口ワインを出すな
3.冷やして 白ワインと食前酒
4.室温で 赤ワインと食後酒
5.少なくとも一時間前に開栓せよ
6.覚えておく年号
7.チューリップ型脚付きグラスを用いよ
8.煙草を吸うな
9.静かに注ぎ、グラスをまわし、飲む前に香りをかげ
10.自分の好みに従え、他人に影響されるな
 
〇キングスレー・エイミス
 酒について(On Drink)
 
〇ヒュー・ジョンソン
 ポケット版ワイン百科(Pocket Encyclopedia of Wine)
 
2. ワインの商品特性
 ①多様さ
 ②不安定性 容器の変遷
 ③食事との一体性
 
3. 妙な知識 役に立つ知識
 ①原酒が飲みたい(日本酒との混同)
 ②赤は甘口、白は辛口(赤玉のイメージが残っている)
 ③置けば置くほど良くなる
 ④当り年のワインは旨い(ヴィンテージ盲信)
 ⑤ワインは悪酔いする
 ⑥食べながらワインを飲むなんて
 ⑦フランスでは水が悪いからワインを飲む
 ⑧あいつはワインがわかる
 ⑨銘醸銘柄盲信
 
 #ワインの年間消費量(一人当たり)
 フランス、イタリア、ポルトガル、アルゼンチンなど 80~100ℓ
 アメリカ 8.4ℓ
 日本 0.6ℓ
 
 #コルク
 つぼや樽に用いられたのは15世紀頃から
 ビンに打ち込むコルク栓は18世紀後半
 (自動製ビン機は1903年アメリカ人 ミカエル・オーエンスによって)
 
第5章 スノッブス実践論
 
1. レストランにて
 
1) 食前酒は?
 (シャンパンは食中、食後も可)
2) 通常料理を注文後にワインを注文する
 (飲みたいワインを決めそれに合う料理を決めることもある)
3) 料理とワインの金額的釣り合い
 (一人前のフルコースの料理の値段と同等か少し安いくらいのところ)
4) テースティング(デギュスタシオン)は男性が
 (女性にテースティングして貰うのは情けない)
5) テースティングでNOといえるのは
 (完全に傷んでいる場合は取替。困るのはやや飲み頃が過ぎたとか、かすかなコルク臭があるとかの場合でその時はソムリエ、マネージャーと相談)
6) 色と香りをたしかめる
 (にごっていては駄目、香りは揮発性のものが要で深く吸い込む)
7) 古いワインはオリがあって当然
 (通常8年以上 中には6年程度でもオリが出る)
8) 飲み残しのワインは堂々と持ち帰る
 (いやな顔をするれすとらんにはもう行かないこと)
9) びんの底のワインはお客側の人には注がない
 (オリがなくてもびんを立てて注ぐのは無作法に見える)
10) 食事中は煙草を吸わない
 (同様に女性の強い香水も良くない)
11) 原則的にワインは置き注ぎ
 (立食パーティーのような時は別)
12)事前に予約する場合は一時間程度前に抜栓して貰う
 (そうするとソムリエが尊敬の目で見てくれる)
13)気に入ったワインであればエチケットをはがして貰う
 (どうしてもはがれない場合もあるのでその時はあきらめる)
 
2. 料理との組合せ
 (原則的組合せ)
1) 白ワインと赤ワインを出すときは白ワインが先
2) 赤ワインを二種類以上出すときは若い方または軽い方を先に出す
3) ソース・煮込みでワインを使った場合はそれと同じ又は上回るワインを
4) 軽い舌ざわりの料理には軽いワインを
5) 濃い味付けの料理にはコクのあるワインを
6) 魚・貝・海老などには白ワイン
7) 肉料理には赤ワイン ただし鶏や仔牛などは白も可
8) 白いソースの料理には白ワイン
9) 酢を使った料理にはワインは合わない 飲むなら水
10) 卵料理も原則的にはワインは合わない
 
 (代表的組合せ)
1) 生牡蠣には シャブリ ミュスカデ サンセール
2) フォアグラには ソーテルヌ 又は ムルソー
3) キャビアには シャンパン 又は ウォッカ
4) ステーキには ムーラン・ナ・ヴァン
5) カマンベールには あまりコクの強くない赤
6) ロックフォールには シャトー・ヌフ・デュ・パープ
 
 (創造的組合せ) 今思えば、これがワインコマンダリー博多発祥の原点なのだ・・
1) しめさばには プイィフュッセ(開高健)
2) いわしの塩焼きには
3) おでんには
4) とんかつには
5) 豚の角煮には
6) すき焼きには
7) ホルモンには
 
第3章 ワインのかたちの変遷
 
1. ワインの多様性
1) 原料ぶどうの品種の多さ
2) 新しい技術によってきまるかたち
 シャンパンやポートは限定された地域の特産品であるがその地域の自然の条件が生み出した独特さではない。その土地に伝わる独特の醸造法がそれらのかたちを生み出し特産品になったもの
 
 ワインの本源的なかたち・・・・・古典的で単純な醸造法によるドライな新酒(ここでは技術はほとんど介在しない)
 
2. かたちが分化する技術
1) シャプタリザシオン (フランス人の知恵) 補糖
2) フォティフィケーション (イギリス人の才覚) 補強
 1800年~1850年のイギリス アダルタレーション(偽和)の横行した時代
 1826年ロバート・スタインによって連続式蒸留機が考案され粗悪なスピリッツが大量に生産された。この行き詰まりや反省から生まれたのがブレンデッドスコッチ
 フランスでは新技術の応用を偽和とならぬ方向に制御した(ブルゴーニュ)
 
3. シェリーやポートを育てたもの
 スピリッツ類が手に入ってもすぐに シェリーやポートが出来上がったものではない。いろいろ偽和が行なわれその中から選びぬかれ残ったものがシェリーやポート この淘汰をしたのがイギリス人の食文化(飲み手の側におけるスノッブスから目利き(カンサー)への成熟)
 
4. ワインの不安定性
 ワインは変化しやすい
 ①防腐性を高める・・・・・ポート、ベルモット
 ②人工的に変化させる・・・・シェリー、マディラ
 ワインの本質は不易であるが、かたちは流行する。
 日本でも飲み手の成長が待たれるところ
 
第4章 ワインと食文化
 
1. テーブルワイン
 table wine,  vin de table,  tafelwein
  ワインを常用してきた民族の意識に浮かぶ言葉ではない。
 それぞれの国民ではこの言葉にニュアンスの差がある。
 テーブルワイン・・・ハレの日のワイン(食事を飾る)
 ヴァン・ドゥ・ターブル・・・ケの日のワイン(日常消費用)
 
 vin ordinaire,  ordinary wine
 ワインを日常の飲み物としている国々では毎日の食卓の上にある。
 この日用ワインの本来の姿は自給自足型の産物
 これらは鑑賞の対象となるべきワインではない。
 (われわらは常に嗜好品としての価値を考える)
 
 ordinary wine,  quality wine
 フランス、イタリアなどのワイン常飲国では格付が明確化している。
 アメリカ、日本のようなワイン文化の伝統を持たずしかも生活水準の高い新興マーケットでは酒質の向上が消 費の拡大策と見てordinary wine を quality wine の品質レベルに引き上げようとする。
 後発のワイン生産国ではある特定の地域のワインを quality wine と格付する確かな根拠をまだ持っていない。
 ヨーロッパでは食文化の歴史の長い時間の中でordinary wine と quality wine を選り分けた。 アメリカや日本ではordinary wine を必要としない食文化の中へマーケト開拓する必要から必然的に生産そのものが quality wine を志向することになる。
 
2. 世界のワイン需給
 (年間量)
 生産量 約3000万kℓ
 消費量 約3000万kℓ
 在庫量 約2000万kℓ
 国際間流通量 約400万kℓ
 (毎年生産されるワインの3分の2以上は一年以内に消費されている)
 
3. 食生活の変容
 食事 それは生理的行動であると共に文化的行為である。
 ラテン系民族の食事観と日本人の食事観
 日本における食生活
 和洋折衷型(明治、大正)・・・西洋の食文化を緩やかに同化
 和洋混淆型(第二次大戦後)・・・欧米の食文化の断片を受け入れ
現代は家庭における食生活の伝統性が失われ「おふくろの味」が売り物となっている。
 
乾燥地帯の食文化がワインを生みその文化の特色が肉食である(前述)
食べることと飲むことが肉食とワインにおいて一体視されるのは歴史的事実
 では、日本において肉食が増え西洋風の食事が普及すればワインの消費量が増えるか
ワインと肉食の相互依存はは肉食の内容の変化により薄れていく
 
4. 肉食文化とワイン文化のゆくえ
 肉食文化が成立するのは食用家畜の飼育が農耕による食料生産より有利な風土的情況に人間がおかれた場合である。肉類消費の多寡ではない。
ヨーロッパにおいて概して牧畜文化が先行しワイン文化が後を追うかたちになっているが歴史の最初から一貫してこれを営んだのがラテン民族。
 
肉類の消費量とワイン消費量の関連
(レヴィ・ストロースの所説による自然と文化の対比)
 a.ナマ   b.焼く   c.煮る/蒸す/いぶす  (料理の三角形 角a,b,cとして) 
 
ぶどう栽培が出来ない北の地方ではワイン抜きの肉食が多様な素材や調理技術を生み出しより多くの肉を消費する食生活をつくり上げた。
この情況は当然ラテン系諸国の食文化に求められ特にフランスが自然の状態からいち早く抜け出した。 
 
時代により洗練された品質のワインを要求し、またワイン自身、肉食生活を維持するための飲み物ではなく、固有の旨さを主張し始める。(食との一体化を保持しつつより嗜好的なもの)
 
(藤田忠邦氏 1988年2月11日(木)講義資料 ワイン通論 2-9.2-10.2-11.2-12 ワイン文化論3-5.3-6.3-7より)
 
第5回目 テースティング
①シャトー・メルシャン・スペリュール(白)1981(日本・三楽酒造)
 ジュース味の(薄い方)アルコール飲料の感。 コクはあまろ感じられず。 飲み易い。
②ソーヴィニヨンブラン(白)(南ア)
 辛い苦いというより塩気があるという感覚
③サザンクロスロゼ(オーストラリア)サントリー
 すこし発泡性のあるもの、舌にさすのが印象的、甘口。
④カシンロ・デル・ディアブロ(赤)1981(チリ)
 さっぱりしているがあと味が中国漢方の酒かなにかみたいに残る。辛い濃い料理に良さそう。麻婆豆腐など
⑤カベルネソーヴィニヨン(赤)1982(アメリカ)
 コクのある重いワイン。アルコール揮発もおさえられ(熟成のため)甘さもほどよい。
⑥サンテミリオン(赤)(フランス・ボルドー)キッコーマン
 若いメルロ。
⑦シャトー・ラグランジュ(赤)1983(フランス・ボルドー)
 まろやかで、ばりうま。
⑧ジュヴレシャンベルタン(赤)1979(ブルゴーニュ)
 アロマティック。
⑨ピースポーター・ゴールド・トロッケン(白)1975(ドイツ)
 食後酒最高のワイン1975年 しっかりとした風味
 
修了証書をいただきました。
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