ワインコマンダリー博多誕生から遡ること半年前から有志でワインの勉強会をしておりました。
ソムリエ藤田忠邦さんの講義内容を記します。5000文字制約の為、第11回目の前半です。
 
第5章 世界のワイン(その他の国々)
 
アメリカ
1.概況
 ぶどう園面積 30万ha (内カリフォルニア26万ha その他4万ha) ワイン生産量 170万kℓ(世界6位)
 ワイン消費量のうち約24%が輸入品
 ワイナリーは全米で約1000 そのうち約600がカリフォルニア
 ワイン法 1983年に改正(産地、品種、収穫年などの表示の規定改正)
 
2.歴史
 1769年 布教のためカリフォルニアを訪れたジュニペロ・セロ神父の手による。
 1824年 商業用のぶどう園がカリフォルニアに設立。
 19C末フィロキセラによる大被害を受けたためカリフォルニア大学デーヴィス校にぶどう栽培醸造研究所を開設
 1920~1933年の禁酒法時代にも廃止をまぬがれ研究が続けられた。
 1950年代ようやくそれぞれの土地に適した品種の栽培法、醸造法が確立。特殊合金のタンクと冷却装置などの新技術を導入。
 1960年代後半 ヨーロッパ品種への移行が順調に進み品質向上。
 
3.主な産地
 (太平洋沿岸部)積算温度が低く、ボルドー、ブルゴーニュに似た気候
 ソノマ、ナパ、サンタクルーズ、モントレー、サンベ二トなど
 (内陸部) 積算温度が著しく高く、世界最大の乾ぶどう産地
 クルン、フレスノ、スタニスラウス、サンホーキン、サクラメントなど
 
4.主なぶどう品種
シャルドネ(ナパ、サンベニト)
シェナン・ブラン(メルシド、サンホーキン) 
ソーヴィニヨン・ブラン(ソノマ、ナパ)
セミヨン(アラメダ、ナパ)
ホワイト・リースリング(サンベニト、ナパ、ソノマ)
フレンチ・コロンバール(メルシド、フレスノ、ナパ、ソノマ)
バルベラ(サンホーキン、フレスノ)
カベルネ・ソーヴィニヨン(ナパ、ソノマ)
ガメー(ナパ、サンベニト)
ピノノワール(サンベニト、ナパ、ソノマ、モントレー)
ジンファンデル(サンホーキン、サンベルナルディノ、ナパ、ソノマ)
ロゼ
グルナッシュ(フレスノ、サンホーキン、スタニスラウス、サンベルナルディノ)
 
オーストリア
 ぶどう栽培の歴史は新しく、1788年 イギリスの商船団がシドニー港に入り、港のそばにぶどうのさし木をしたのがその始まり。
この国のぶどう栽培は南緯32度から38度に集中していて主な産地は20地区 そのほとんどがサウスオーストラリア州(S.A)ヴィクトリア州(V)ニューサウスウェールズ州(N.S.W)にある。栽培面積は約7万ha 南半球に位置するためぶどうの収穫期は2月頃から5月頃まで。また気温が高いため夜に収穫することも行なわれている。(ナイトピッキング)品質、収穫量は比較的安定している。この国のワインはアメリカと同様大衆的なジェネリックワイン(属名表示)と高級ワインであるヴァラエタルワイン(品種名表示)の二種に大別される。以前(10年ほど前)はスティルワインとフォーティファイドワインの比率は7:3程度であったが現在ではスティルワインがほぼ90%
を占めている。
主なぶどう品種は
白が マスカットゴールドブランコ(S.A中心)、サルタナ(S.A)、ドラディロ(S.A)、セミヨン(N.S.W)、リースリング(S.A)トレビアーノ(N.S.W)など。
赤では、シラーズ、グルナッシュ、カベルネソーヴィニヨンなどが多い。高級ワインの産地としてはハンターヴァレー(N.S.W)バロッサヴァレー(S.A)などが有名。
 
アルゼンチン
 世界のワインの約10%が南米でせいさんされるが、その中で最大の生産量を誇るのがこの国で、33万haの面積から250万kℓ前後の生産をしている。(南米全体の約75% 世界で第5位の生産量)
しかし歴史は新しく19世紀初頭フランス、スペイン、イタリアなどの移民団によってぶどう栽培とワインづくりが始まったもの。
主な生産地は北部のメンドーサ(同国の約70%)、サンファン、やや南のリオネグロの3地区。
ぶどうの栽培品種は77種で雑種は禁じられている。
主な品種は
赤が、マルベック、カベルネ、ピノノワール、ガメイ、バルベラなど
白は、クリオラ、ピノブラン、リースリング、セミヨン、パラミノ、ペドロヒメネス。
I.N.V(アルゼンチン政府ぶどう栽培醸造庁)がワイン法に従って管理し補糖や添加物は禁じられている。
 
チリ
 16世紀初頭 チリはスペイン占領下におかれキリスト教の布教とともにミサ用のワインづくりが始まった。当初より積極的にヨーロッパ品種の導入につとめ19世紀中ごろには完全に完了したことから19世紀後半のフィロキセラの害をまぬがれ現在でも世界で唯一自根による栽培が行なわれている。栽培面積は約12万ha 生産量は55万kℓで南米地域の17%にあたる。 標高が高く恵まれた風土から品質的には南米では最も上質のワインを生み出している。
栽培地区は北部、中央、南部の三地区に分かれ、北部は主にマスカット種からシェリーやポートタイプの甘味ワイン 、南部はマルベック、メルロー、セミヨンなどからの並ワインが作られている。サンチャゴ市周辺の中央部約4万haが良質ワインの産地で品種は、カベルネソーヴィニヨン、カベルネフラン、メルロ、マルベック、ピノノワール、セミヨン、ソーヴィニヨンブラン、シャルドネ、リースリングなど
 
ブラジル
 ブラジルのワイン生産は今世紀に入ってからドイツの移民団によって始められエンブラッパ(農牧研究公団)がワインの品質管理を行なっている。生産量は25万kℓ前後
 
ニュージーランド
 19世紀末からワインづくりを始めたがスティルワインを大量に生産するようになったのはここ十数年のこと。
主な品種は白がリースリングシルヴァーナ(ドイツのミューラトゥルガウと同じもの)、赤がカベルネソーヴィニヨン
この国では圧倒的に白ワイン嗜好が強くカリフォルニアとドイツに専門知識を求めている。生産量はまだ少なく4万kℓ前後
 
南アフリカ連邦 
 英国植民地時代以来300年の歴史を持ち、近時は質の高いことで世界的にも人気を呼んでいる。大規模な協同組合KWVによって独占的にワイン産業が運営されている。生産量は50万~60万kℓ
輸出量はあまり多くなくイギリス、カナダなどの旧英連邦が大部分。生産地はケープワインで知られるケープ州を中心とするコスタベルトと呼ばれる沿岸地帯とリトルカールと呼ばれる内陸部の二地域
コスタベルトでは気候条件が安定していてテーブルワインからポートシェリータイプのワイン、スパークリングワインの良質なものが生産される。リトルカールは主にデザートワインが主力。品種はヨーロッパ種と南ア独自の品種を栽培している。
 
北アフリカ地域
 北アフリカ諸国はフランス植民地時代からもっぱらブレンド用としてフランス向けのワインを生産していたが独立後最大の市場を失いまた回教国のため国内需要は期待出来ず現在大きな試練に直面している。
技術面にもフランス資本が撤退後はぶどう園が荒廃しているところが多くこんごに問題を残している。
生産量としてはアルジェリアが最も多く40万kℓ強、次いでチュニジア、モロッコなど。
 
日本
 フランス、イタリア、スペインなどの諸国はその気候風土がぶどう栽培に適しており伝統的手法で良質のワインを作り得るがドイツや日本ではぶどう栽培に適した気候風土とは言い難く新しい技術と研究が必要とされる。特に日本では降雨量が多く湿度が高いため栽培される品種が限定されこれからの新品種の開発が待たれるところ。
日本のワイン消費量は近年少しずつ増加しているものの世界的に見れば微々たるものであり、また消費量の80%が白ワインという傾向を示している。
 
(藤田忠邦氏 1988年2月11日(木)講義資料 ワイン概論 1-27.1-28.1-29.1-30より)