『秋想』(再) | spica's blog

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♥水越けいこさんの作品と歌を語るフォーラム

 


『秋想』(詞・曲:水越恵子/編曲:大村雅朗)<#3 "Aquarius" (1979/12)

 ♥水越恵子さんがソロデビュー後まもなく書いた作品。

 タイトルにある「秋」の文字は詞の中にはまったく現れない。歌われている季節が秋であることを示唆する詩句もない。実際、季節は秋ではないかもしれない。しかし聴き手はこの曲調から秋を感じ取る。これは紛れもなく秋の、それも晩秋の歌であり、その他のいずれの季節の歌でもない。

 

 

 

 

♬ ♥『秋想』(詞・曲:水越恵子)

 

(原サイト投稿者:hymer89さん/Published on Apr 23, 2014)

 


 筆者は♥けいこファンになりたての約4年前の今頃、この作品について感想を書いた。いや、書き始めて途中で止めた。書き続けられなかったから。初めてこの曲を聴いたときから抱いていた疑問に自分で答を見いだせなかったことが、上の感想文をまとめられなかった一番大きな理由だった。

 4年前にこう自問した。深くいたわってくれる彼がいて、♪「誰より幸せなのに」(詞:水越恵子。以下特記ないものは同じ)、主人公は♪「行く先告げず」遠く離れたこの♪「レンガのホテル」で一夜を明かす。別な男性(ひと)と逢うわけではない。♪「たぶん誰より幸せな」はずの女主人公がなぜ。 (注1)
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(注1) 2013-10-19付け記事「『秋想』(未完) 」

 


 詩句の中にヒントはある。彼女は♪「心のすき間がかくせなくて/何かをせずにいられなかった」のだ。その何かが突然の一人旅・外泊だった。「心にすきま風が吹く」という言い方は、♥恵子作品を離れても、普通一般にある。「夫婦の間にすきま風が吹く」と言えば、それまでしっくりいっていたふたりの関係にわだかまりができたことを意味する。

 ♥恵子作品には心のすき間に似てはいるが、若干ニュアンスの違う別の表現もある。主人公が♪「時のすき間 うずめようと」(注2)して♪「幾つかの出会い」(注2)を持ったことを告白する詞がそれだ。その彼女もまた現状に決して不満なわけではなく、形のないものだけど愛を♪「あなただけに捧げてる」(注2)のだ。

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(注2)出所:いずれも『愛を信じて』(詞・曲:水越恵子/編曲:坂下秀実)<#9 "KAREN・NA・Kiss"(1983/06)

 


 以上は大部分、4年前に書きかけたことの復習だが、今回掲題曲についてもう一度書く気になったのはほかでもない。その後少しだけ知恵がついたのだろうか。今では自分の疑問をしゃにむに解決しようと焦ったことは間違いだったと思っている。突然彼女が彼の許を一時離れたくなった理由を、まるで方程式の解を求めるような厳密さで見つけようとしても、この作品の理解に裨益するところは何もないことに、今ごろ気づいたのだ。

 この曲はこう考えて聴けばよいのではないか。つまり女には、幸せにくるまれているときでさえ、最愛のひとからも離れ、しばらく一人きりでいたいというすきま風が心に吹く瞬間があるのだろう。それは自分と向き合い、自分を見つめ直す時間を持ちたい(そんなわがままをしても、いずれ戻れば彼は以前と同じように優しく包み込んでくれるという自信がその背景にある)からに違いない。

 別な考え方としては、♪「髪の先までしみてる」彼のいたわりにさえ、女は一瞬の疑念を抱くことがあり、我が心に吹いたそのすきま風を彼に悟られないように、彼女は不意に姿を消すのかもしれない。

 繰り返すが、理由を突き詰める必要はない。ただそういうものだと思うだけでよいのだ。そして二十四、五歳という若さで、女心の機微をこれほど見事に描き出せる♥恵子さんの凄さにあらためて感動すればそれでよい。