ふしぎなさびしさ
子どもの頃、つぎつぎと乳歯が
生え変わるとき
一本の歯がぐらつきだすと
それはもうどきどきとしたものだ。
口の中は違和感で
いっぱいになり、ぐらぐらした歯が
一本でもあるときは
気もそぞろだった記憶が
いまだにかなり残っている。
そして、動くようになった歯を
痛みへのいわく言い難い恐怖と
いったいいつ自分から
離れていくのかという
好奇心で舌の先で
触れずにはいられなかった。
もういよいよ抜けそうになると
母が歯に糸を巻きつけて結び
「いち、に、さん」で
スポッと抜いてくれ
脱脂綿をしばらく噛む。
出血が止まった
赤い小さな抜けたあとの穴を
鏡の前で口を開いて
しげしげと観察した。
最後のダメ押しで、またそっと舌先で
かつてあったものが
その存在を消した
居場所の名残りを
確かめたりした。
外国では妖精が取りに来るからと
子どもの枕の下に抜けた歯を
置くらしい。
親はそっと歯のかわりに
コインを置いておくとか。
または後ろ向きになって
屋根に放り上げるとか
面白い習慣があるものだ。
生え変わった永久歯は
損なわれればもうそのあとは
二度と生えてきてはくれない。
歯科医療は日進月歩で
今では不要の親しらずが無事ならば
自分の歯を欠損したところに
移植すらできるそうだ。
しかし、成功率や費用の問題
術後のケアなどが相当大変らしく
結局予防と手入れに勝るものは
ないのだろう。
とにかく目と歯は大切だと
骨身にしみた。
3回目の通院。
親しらずを抜歯した。
さすがに今日ばかりは
ご褒美のラーメン・・・を食べようという
気持ちすら起きず
そそくさと帰宅し、作っておいた
お粥をそっと食べ
今これを書いている。
幸い痛みも出血も
さほどではなく
先生に言われてちょっとビビっていた
歯茎の切開縫合もなかったので
やれやれ。
がらんとしたふしぎなさびしさ。
どうぞ良い週末を。