正岡子規(式)ダイエット | ご飯、ときどき雑記

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読むだけで痩せる?


嵐山光三郎氏は私が大好きな作家のおひとり。
作家より尊敬をこめて
「ものかき」「もの書くひと」とお呼びしたい
自称文庫本絶版王(笑)(事実とのことです)


ご自身の創作活動に専念する以前は
食通、博学の名編集人でもいらしたので
そのときの経験とエピソードを書いたエッセイなども
おしなべてすべて本当に面白い。

「文人悪食(ぶんじんあくじき)」は、
何度も繰り返して読んでいる。
この一作が書かれるきっかけとなったのが
ホトトギス派の俳人正岡子規の
「仰臥慢録(ぎょうがまんろく)」だったそうだ。


正岡子規は、病に伏せながら
表の日記「病床六尺」と、裏日記「仰臥慢録」を
残した。
仰臥慢録には
あれこれとたべものを親の敵のように詰め込み、
句を詠み、闘病する様子が綴られている。


食事の内容、訪ねてきた人、句、描いた絵など。
やはり印象に強いのは淡々と
食べたものをひたすら列挙しているくだり。
歯茎は腫れあがり、その膿を自分で押し出して
脱脂綿でぬぐいながら

食べ物を噛みくだき、食む痛みもものともせず。
食べたものは当然、排出しなければ
ならないが、寝たきりだったために
それも大変な苦行だった様子も書かれている。


その凄惨な食べっぷりにショックを受けた嵐山氏は
読後に半ば拒食症になってしまい、
一カ月に6キロもやせて、周囲を心配させたそうだ。
そして名作「文人悪食」が誕生した。

その衝撃度がどれくらいすごいものか
まんじゅう怖いではないが
実際に試してみようかと兼ねてから思っていたので
一興、年末年始の読書の一冊に
加えてみた。


効果はひとによって違うだろうが
かなり「来る」かもしれない。
私は普通にご飯を食べつつ、読後には

2キロほど落ちていた。
食べること自体に苦痛や罪悪感、嫌悪感を
催させるすさまじさが
仰臥慢録にはある。
おそるべし正岡子規(式?)ダイエット。


教科書で読まされた子規の名句の数々も
いまや違って見えてくる。


柿くへば鐘がなるなり法隆寺


以前なら柿とは夕刻に照り映える枝ののこり柿という

イメージと、ごぉ~んという鐘の余韻漂う静かさや

のどかな風景の趣だったが、果たして子規は

「あの柿はうまそうだからカラスにやるには惜しい」とか

熟考一考の熟柿だったかもしれないのだ。


食はヒトなりというならば
背筋が寒くなる内容の一冊に
間違いなく
う~ん参った。


ひたすらじっと、仰臥しているほかない俳人は
とんでもない量の食べ物をがつがつと、

むさぼり自分に詰め込み
食べ過ぎに苦しみ、のたうちまわりながら
決して食べることを
あきらめない。


食べても食べても、手足は枯れ枝のようにやせ細り
地獄絵図の餓鬼のようであったというから
最後の生命線が、尋常ならざる食べ物の
摂取という執念によって保たれていたのだろうか。

精神のバランスを過剰な食事によって

ただそうとしていたのか。


看病をしていた家族、母親と実の妹への
複雑な感情も赤裸々に書かれている。

その憎しみは、さらに食欲へと暴発して

ぶちまけられるのだ。

とある日に自らの命を断とうと試みるの記は

一行一行を追うのもつらい。


病状が進むにつれ、記録もままならなくなり
あまりの苦痛に錯乱して、やがては薬の服用の
記録になり、句を選ぶ○の記述が並び
最後は、口吟が記録されて断筆となる。


ご参照に、子規本人が食欲がないとボヤいた一日の記。


1901年(明治34年)10月18日 正岡子規このとき35歳
風雨
精神やや静まる されど食気なし


朝飯遅く食ふ 小豆粥2椀 つくだ煮 昨日の支那料理の残り
牛乳 西洋菓子
午飯 さしみ 飯1わん つくだ煮 焼茄子 梨 ぶだう
牛乳 西洋菓子 しほせんべい
便通とほーたい(包帯の交換)
晩飯 さしみ三、四切れ 粥1椀 ふじ豆 梨 ぶだう レモン
来客なし



ざっとカロリーを総計するだけでも、当時にしては
豊かすぎる食生活だと推定できる。
食が進んだ日の一日は、ご想像におまかせしたい大盛り具合。
正岡家の家計簿も本人自らの筆で記録されているので
エンゲル係数まではじき出せる。

(毎日おさしみ・・・菓子パン、和菓子もたっぷり)
明治の時代に、牛乳に紅茶やココアを入れて毎日飲み、
多い日は、いちどきに5合(約1リットル)を飲みほしている。
しかし、家族はご飯に香のものわずかばかりという
貧相極まりない食生活だったという。


七つの大罪のひとつに「大食いの罪」が入っているが
子規はまごうことなき、大罪人にして
貪欲に病と作句の日々を生き抜いた勇猛の人だった。




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