三話


雨のしずくが哲夫の手に当たったのはその時である。

地面に黒い点が出来始めた。

洋子は哲夫の手を少し強く握る。


武雄さんは空を見上げ、町の遠影を顔をしかめるように見た。

「哲っちゃん、西からだな。結構強く降ると思う。」

武雄さんは長年スケーターをやっていて、海沿いで天気は変わりやすくとも、こうした雨を回避する勘は鋭かった。
哲夫と洋子を見て言う。

「今日、送ってこう。乗ってきな。」

「いいんですか?そんなに降らないと思うけど。」

「いや、降るね。洋子ちゃんも雨の中歩くのも大変だ。」

「ならば、お言葉に甘えて」

「そうそう!じゃぁ、ちょっとかぎ取ってくるね!先、車の所行ってて!」

「了解です!連れてきます!」

「洋子ちゃん、気をつけて!」

そう言うと武雄さんはボードを走らせ、広場の隅のコンクリートブロックのある場所までゴーッと音を立てて滑っていった。

「洋子、武雄さん車に乗せてくれるみたいだ。」

「うん。武雄さんやさしい。」

「あとでお礼言おうな」

「うん」

哲夫の胸が少し痛んだ。18と、普通ならば高校三年生で、小さな悪態でもついてよさそうな年頃でありながら、洋子はまるで子供のような受け答えしか知らない。世間の世知辛さから少し遠ざかっていることは、この少女にとって良い事なのか、悪いことなのか、哲夫は一つ年下でありながらも、少し不安を抱いていた。

「哲っちゃん!急いで!」

「はい!いきまーす!」

哲夫は洋子の手を引き、足元、洋子の歩く道を見て歩き始めた。






BGM:Last Days of April - will the violins be playing