第7話で取り上げた『フラッテリ シャルドネFratelli Chardonnay』 (参考価格Rs. 850) には、上級キュヴェの『フラッテリ ヴィータイ シャルドネFratelli Vitae Chardonnay』(参考価格Rs. 1,600) というアイテムもある。こちらは、樽発酵、樽熟成により、バニラの香りがはっきりとワインに加わる。かといってバニラに圧倒されたワインというわけではなく、リンゴ主体の力強い果実味とうまくバランスが取れていて好印象。インドのシャルドネ品種では間違いなくトップクラスの品質だ。標準キュヴェの倍近い金額するので手が出辛いが、栽培、醸造、熟成に手間ひまが掛かっていることを思いながら、ゆっくりと味わいたい (86/100) 。

 歴史的なブランクがあったこともあり、インドの近代ワイン造りは各メーカーが栽培、醸造、熟成方法に試行錯誤を重ねていて毎年の変化が楽しい。今回はシャルドネ品種に積極的に取り組むフラッテリ・ワインズ Fratelli Winesからの一本を紹介したい。

 シャルドネ品種はフランスのブルゴーニュ地方で古くから栽培される。ワイン好きでなくとも口にする機会も多いシャブリに使用されている品種だ。フランス以外では、ヨーロッパは勿論、世界中の主なワイン生産地のほとんどで栽培される、世界で最も人気のある品種の一つ。日本では山梨県の中央葡萄酒(日本一の日照時間を誇る北杜市明野町で造るキュヴェ三澤は秀逸)、南は宮崎県の都農ワイン、菊鹿ブランドの熊本ワイン、などが素晴らしいシャルドネのワインをリリースしている。柑橘、リンゴなどの香りが主体的で、冷涼な気候の産地ではライム、レモンなどがより強く、温暖な気候の産地ではパイナップル、メロンなどの香りも表出する。

 インド産シャルドネのベンチマークとなるのが、『フラッテリ シャルドネ Fratelli Chardonnay』(参考価格Rs. 850)。2012 年ヴィンテージは、果実味の風味がおとなしく、正直なところ印象の薄いワインだったが、現在流通している2014 年ヴィンテージで大変身。りんご主体の果実味がパワフルに表出、樽熟成によりワインにバニラの香りが加わり、ふっくらとした仕上がりになっている尚、フラッテリは上級キュヴェの『フラッテリ ヴィータイ シャルドネ Fratelli Vitae Chardonnay』(参考価格Rs. 1,600)もリリースしており、コンディションが良ければ、インド最高峰のシャルドネの風味を楽しめる。

 『フラッテリ シャルドネ』には、ふっくらとした果実の風味がマッチしそうな、根菜の天ぷら、チキンのクリーム煮、そしてパニール・ティッカー(スパイスの効いたソースは控えめに)などを合わせたい。

 『グローヴァー・ザンパ シェネ Grover Zampa, Chene』。テンプラニーリョとシラーズの2 種類のブドウ品種のブレンドで造られる。インドでは、グローヴァー・ザンパ・ヴィンヤーズ Grover Zampa Vineyardsとシャロサ・ワイナリーズ Charosa Wineriesといった少数のワイナリーしかテンプラニーリョを手掛けていない (最近、最大手のスーラ・ヴィンヤーズ Sula Vineyardsがシャルドネとともにテンプラニーリョも植え始めたと聞く)

そして、このテンプラニーリョにシラーズをブレンドしているのは (それぞれ55%45%) 、インド国内ではグローヴァー・ザンパしか見ない。(オーストラリアなどで一部見られるが)海外のワインでもあまり聞かないブレンドなので、インドに行くチャンスがあればぜひ試したい。Grover Zampa Vineyardsのワインは日本で一部取り扱われているが、フラグシップ・ワインのCheneは入っていない。生産本数が限られている。

テンプラニーリョはスペイン原産でその名は「早熟」に由来、冷涼地でも完熟しやすい。ブレンドされているシラーズはフランスのローヌ地方が原産(通例、シラーと呼ばれる)、こちらはスパイシーなフレーバーを含むが、2 種類ともに親しみやすい果実味とタンニンが豊か、と言える。このブレンドは相互補完というより、ざっくり言ってしまうと強みに更に磨きをかける部類と言えよう。インドの太陽でしっかりと熟した果実味をたっぷりと楽しめる。タンニンがしっかりとワインに輪郭を与える。そしてフレンチ・オークで15 ヶ月超熟成させたことにより、バニラのフレーバーが上品に果実の風味に絡み合う。ある程度の熟成にも耐えそうだ。

LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン グループのワインズ&スピリッツ事業を担うモエ・ヘネシー・ディアジオは、シャンパーニュのみにとどまらず、ニューワールドでシャンドン (Chandon) ・ブランドをリリースする。

1959年アルゼンチン、1973年カリフォルニア、同年ブラジル、1986年オーストラリアに進出。そして2001年にモエ・ヘネシー・インドを設立、2013年よりシャンドン・ブリュット、シャンドン・ブリュット・ロゼをリリース。それぞれシュナン・ブラン、シャルドネ、ピノ・ノワールとシラーズ、ピノ・ノワールをブレンド。シュナン・ブランはインドの白ワインにもっとも多く使用されており、それのみでスパークリング・ワインも造られている。このシャンドンを含め、瓶内二次発酵のアイテムも複数リリースされている。

LVMHの社長Mr. Pratsもインドに数度、脚を運んだ彼は、42歳になり、新たなチャレンジをインドに求めた。ニュージーランドのCloudy Bayがインドにおけるワイン・メイキングの技術パートナーを務める。

最近では中国に進出、2014年に初リリースを迎えた。日本で流通しているオーストラリア産のものは、シャンドン・ブリュット、シャンドン・ブリュット・ロゼともにシャルドネ、ピノ・ノワールのブレンド。インド産のものはシュナン・ブラン由来の穏やかな蜜のような印象が心地よい (85/100) 。

インドを代表するワイン・メーカーの一つ、フラッテリ・ワインズの特徴はイタリアン・テイストがふんだんに織り込まれていることだ。フラッテリとはイタリア語で兄弟を意味するがその由来は、このワイナリーがトスカーナ出身の2名、インドデリー出身の2名、ワイナリーのあるソラプール出身の2名によって設立、イタリアとインドの共同作業に由来する。のちにトスカーナで豊富なワイン造りを経験したピエロ・マージを加える。プネから170kmほど離れた、周囲にワイナリーは見当たらない、アクルジ地区に240エーカーの畑を所有、12種類のブドウが植わる。

筆者は20166月の週末を利用して、プネから車で3時間走りワイナリーを訪問した。ガラス張りの醸造設備は外からも作業状況が見て取れる。地下にはカーヴがあり樽が整然と並ぶ。看板ワインのセッテが34年後のリリースを待ってフレンチオークの中でゆっくりと熟成させられながら、日々、静かに進化している。カーヴではあらかじめ伝えておいた7種類のワインを試飲させてもらった。

 そのうちの一つ、ヴィータイ・サンジョヴェーゼ (参考価格Rs. 1,600) は常夏のイメージを持たれるインドから造られたとは思えないエレガントな一本だ。グラスに注いでその色合いに驚き、一口飲んではその味わいに更に驚いた。少し黒みがかったクリアで鮮やかなルビー色をした液体は、ラズベリーなどの赤色ベリーやチェリーなどの陽気な果実香に微かなスミレ、ラベンダーの香りを携え、口の中では豊かな果実味をはっきりとした酸味がワインを心地よく引き締める。タンニンは軽やかでシルキーな口当たりで余韻は長い。一般的なインドワインが直線的で力強く、濃厚で、パンチが効いていて、アルコール感やタンニンの渋味が強く、いわゆるパワフルと言われる部類のものが多いが、このワインはそれらとは対極。軽やかで複雑な口当たり、タンニンの渋味は滑らかで、上品な余韻がゆったりと後を引く。

フラッテリのイタリア人メンバーのふるさとへの想い入れの強さか、インドでサンジョヴェーゼを手掛ける貴重なワイナリーだ。2007年の設立から試行錯誤を繰り返し、この品種の個性をより的確に表現する畑の区画にたどり着いた。単一畑と呼ばれる概念で、よりはっきりと個性を、そしてより良い品質を生みだす限られた区画のみのブドウを使用したものだ。

トマトソースを用いたイタリアンにはもちろん、甘辛の味付けや醤油・みりんベースの煮込みの和食などとの取り合わせも楽しみたい。

 インドワインを語るにあたって必ず説明が必要となるワイナリーの一つがスーラ・ヴィンヤーズだ。インド料理レストランで、ヒゲを生やした太陽マークのラベルのワインを見たことがある方もいるのではなかろうか。35を超えるアイテムをリリースし、マーケットシェアの60%を握る。ワインツーリズムにも力を入れており、ワイナリーにはプール付きのリゾートホテルを併設。2014年には20万人超がワイナリーを訪問した。疑いのない、インドワイン界の巨人だ。

 しかし、現状に安住することなくスーラの挑戦は続く。最近新たにピノ・ノワール、テンプラニーリョ、シャルドネを植えた。ピノ・ノワールはスパークリング・ワインにブレンドされることと推測されるが、テンプラニーリョ、シャルドネをどのようにアイテムに組み入れるのかが楽しみだ。テンプラニーリョは大手ではグローバー・ザンパがフラグシップ・ワインのシェネ (Chene) にブレンドするほか、ブティックワイナリー規模ではシャロサ・ワイナリーが品質の個性を忠実かつ魅力的に表現する。シャルドネは大手ではフラッテリがRs. 1,000以下で安定感のあるアイテムに加えて高価格帯 (Rs. 1,600) のヴィータイ・シャルドネ (Vitae Chardonnay) は樽発酵・樽醸造でたっぷりとバニラ香をまとわせてリッチな仕上がり。また、ブティックワイナリー規模ではヴィンテージ・ワインズ (ワインをリヴェイロという名でリリース) といった造り手が成功を収めている。いずれも多くの造り手が手掛けているわけではないものの、これまでマーケットをリードしてきたスーラが、他社が先行して成功している品種を後追いで手掛けるということで飲み手の期待値はいやがおうにも高い。失敗が許されない中、必ずや期待に沿った、いや期待を超えるアイテムを生み出すものと信じている。

さて、2015年ヴィンテージに話を移すと、シュナン・ブラン・レゼルヴ、リースリングに自信ありとのこと。シュナン・ブランはインドでほとんどのワイン・メーカーが手掛ける。フランス・ロワール地方やアメリカ・カリフォルニアなど各地で手掛けられ、多様な個性を持ち、甘口から辛口までヴァラエティ豊かなワインを生み出す。通常クラスの“ スーラ シュナン・ブラン”(参考価格Rs.550)の新ヴィンテージ2015 のレベルアップは素晴らしく普段飲みには欠かせないが、ディンドリ区域からの選りすぐりの葡萄のみを使用した限定品、“ スーラ シュナン・ブラン・レゼルヴ”(参考価格Rs.750)を一度試すとその味わいは二度と忘れられない。グラスに注いでみると色調はクリアなイエロー。香りにはパイナップル、グアバなどたっぷりのトロピカルフルーツに加え、メロン、白桃が立ち上がる。軽やかにハチミツも。こういった香りのワインを口にすると、ねっとりとした甘みが支配的で単調なものも多いが、このワインは爽快で繊細さすら感じる酸が余韻に抜けていき、つい、次のグラスが進んでしまう。

 溢れる果実味の手綱となるこのような魅力的な酸にとって、インドの直射日光、高温は大敵だ。丹精込めて作ったワインを簡単につまらない飲みものにしてしまう。この随一の酸を守るためにインドワイン界の巨人は蔵元で丁寧にボトルを眠らせている (インドでは小売店での店頭販売はしていない) 。スーラのワイナリー施設はムンバイから車で3~4 時間掛かるが、この酸に出会うためにワイナリーを訪れる価値はある。

(ワイナリー情報についてはSommelier India October – November, 2015も参照)

 1991年に最初のワインをリリースしたバンガロールに位置するGrover Zampa Vineyardsはインドで2番目に古いワイナリー (1番目は会社清算したChateau Indage) 、経営を存続しているワイナリーでは最も古い。

航空、防衛関連の機材を取り扱っていたビジネスマン、カンワル・グローヴァー (Kanwal Grover2011年死去) は、取引先のフランスに出張を重ねるたび、ワインに魅せられる。

 1994年には世界中から引く手あまたのワインメイキング・コンサルタント、ミッシェル・ロランを自社の醸造指導に引き入れることに成功。カンワルの後を引き継いだのは息子のカピル (Kapil) は父と同様に機械貿易に携わりつつも、理想のワインを生み出すべく、ブドウ畑、醸造所でたっぷりと時間を費やした。現在は、カピルの娘カリシュマ (Karishma) がワイン・メイキングを手伝う。2012年にはナシックに拠点を置いていたVallee de Vinと合併し、旧名のGrover Vineyardsから、Grover Zampa Vineyardsに改名、インドの2大ワイン産地のナシックとバンガロールを抱えるに至った。表現したい個性に応じて産地を使い分けられる大きな強みを持つ、唯一のインドのワイナリーだ。

 同ワイナリーの『ラ・レゼルヴ』 (参考価格Rs. 750) は同名でこれまでも利用可能だったが、この度エチケットを一新し、20166月頃より流通が始まった。オーストラリアなどでも見かけるブレンド、カベルネ・ソーヴィニョン、シラーズの2品種をそれぞれ80%20%使用。グラスに注ぐと熟したプラムや粘度のある甘味を伴ったブルーベリージャムなどが豊かに香る。微かに金属的なニュアンス、香りの奥にメントールも。主張しすぎない樽のバニラ香が心地よい。口に含むと果実味の力強さを持ちつつ口当たりは非常に滑らか、中後半からタンニンがじんわりと染み長い余韻を構成。穏やかだがワインをきれいにまとめる酸味。風味の輪郭がぼやけないように少しだけ冷やして楽しみたい。インドではよく見る2品種のブレンドだが、こちらは最も洗練されたアイテムの一つ。ワインの果実味と穏やかな酸味が甘辛の照り焼きソースとマッチ。ワインが含む少し土っぽいニュアンスは、鰻の蒲焼きの風味の繋ぎになりしっかりとマッチした。

ワイン評論界の巨匠、ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン共著の『世界のワイン図鑑』はこのワインに“ボルドーのワイン商のテースティング台に載せてもそれほど場違いではない赤ワイン”と、一定の評価を与えている (微妙な言い回しながらこの図鑑で取り上げられた数少ないワインだ) 。また、ワイン価格を左右するほどの絶大な影響力を持つパーカー・ポイントでは20072008ヴィンテージでそれぞれ、8789点を獲得している。果たして最新ヴィンテージ2013には何点がつくだろうか。世界で認められるインドワインが増えつつある。

 

KRSMA Estates (クリスマ・エステイツ) は人並み外れた探究心を持つクリシュナ、ウマ夫婦により運営されている。

夫婦の元々の本業は製薬業の会社経営。本業の傍らでランニングに楽しみを見出し、2010年には夫婦で南極、北極を含む7大陸のマラソンを走破するほど、二人の探究心は並外れている (私もランニングを楽しむが、現在は金曜の深酒による体内のアセトアルデヒド退治のために土曜の朝に走る程度で、7大陸走破なんて崇高すぎる) 。そして、マラソンに続いて夫婦を魅了したのはワイン・メイキングだった。目標は明確、並外れたクオリティのワインを造り、インドワインを世界のワイン地図に認めさせる、というもの。

ワインの風味を大きく左右する土壌選びは慎重且つ大胆だった。石灰岩層に加えて鉄分など、ミネラル豊かな土壌に確かな品質を生みだすと確信したのは、世界遺産近傍のHampi Hills。半径200kmにはワイナリーは存在せず、周囲は業界経験のない二人の決断を訝しんだ。ワイン・メイキングの最低限のインフラ確保にも一苦労、電気は自家発電で賄い、乾燥地帯のために水は2.5キロ先から引き込む。

黒ブドウは、メルロー、ネロ・ダーヴォラ、ピノ・ノワールなどを試行錯誤、カベルネ・ソーヴィニョン、サンジョヴェーで手応えをつかんだ。インドではほとんどの生産者が手掛けるシラーズには、更なる改善の余地を感じている。

白ブドウはマスカット、グリッロでは壁にぶつかったが、ソーヴィニョン・ブラン、シャルドネの出来栄えには自信を得た。

インドにおけるワイン用ブドウの収穫は1月から3月が一般的だが、クリスマ・エステイツでは1月頭に始め同月20日頃には終える。ブドウが過熟するのを防ぎ、酸をしっかりと残すのが意図だ。また、ブドウが太陽の熱で傷むのを防ぐべく、夜明けから午前10時前には収穫を終える。

2007年設立、2010年にはブドウを収穫するに至ったが、品質に妥協を許さず熟成をさせながら商品リリースを見送り続け、ようやく2014年に自社のワインを世に送り出した。品質への固執は、2013年ヴィンテージのカベルネ・ソーヴィニョンの品質に納得がいかず、セカンド・ラベルのK2としてリリースしたことにも見て取れる。

インドで最もクリーンでピュアな果実味を楽しめるシャルドネは、クリシュナ夫婦の妥協なきワイン・メイキングによる産物だ。フレッシュなリンゴの香りに心地よいバニラが絡み、上品な余韻は素晴らしく長い (88/100)。

(造り手の情報については、Sommelier India Volume 11及び公式ホームページも参照)