「それじゃ、その帰りに事故に遭いかけたって事だな?」
「そういう事だ。」
「別の用事で学校にいたのに、帰りのその場に一緒に居たって事は2人は待ち合わせしてたのか?」
「いや、行きも帰りも別々に行動…と言うより学校にいる時は雅恵が学校に来てる事さえ知らなかったんだ。」
「偶然って事か?」
「校舎を出た所で『あれ?もしかして雅恵かな?』って感じた姿が見えて、確認しようと追いかけていたら、校門を出た所でバイクが暴走してきてさ、雅恵かどうか確認する余裕なんか無いまま必死で…。」
「それじゃ助けた時は雅恵だとは確信してなかったのか?」
「あぁ…ここで気が付いた時に『やっぱり雅恵だったんだ』ってな。」
「ほぉ~、たとえ雅恵じゃなかったとしても自分の身体を張る覚悟が修司にあったなんて驚きだな。」
「確かに…お前と出会って無ければ考えられない事だっただろうな。」
「…。」

俺は少し間を置いて修司に聞いた。

「…で、どうして全部の話に俺の名前がすぐ出てくるんだ?」
「…分かんねぇよ。」
「じゃあ俺も分かんねぇ。」
「それじゃあ私達も分かんなぁい。」

これまで黙って話を聞いていたあゆみと雅恵が絶妙なタイミングで声を合わせて入ってきた。

「コントやってるんじゃ無いんだから繰り返すなよ…。」
「…。」
「…。」

さすがに話す事も無くなり、しばらく沈黙が続いたため帰ろうかと思ったが、

(いや…ちょっと待てよ…。)
「なぁ雅恵…ちょっと良いか?」
「うん、何?」

俺は無言で外を指差し、雅恵を病室から少し離れた販売機近くの休憩所へと連れ出した。

「なぁ…雅恵にちょっと頼みたい事があるんだけど。」
「え?何かあったの?」
「いや…別に大した事じゃないんだけど、雅恵も知ってるように、あいつは普段相当贅沢な生活をしてるから…もしかしたら病院の食事を食べないかも知れないだろ?」
「あぁ…確かに。」
「だから『無理にでも食べろ!』って雅恵から言ってやってくれないか?」
「別に構わないけど…どうして私が?」
「それは…ほら、俺じゃ普段からくだらない言い合いをしてるから、あいつも聞く耳持たないからさ。」
「ふ~ん?まぁいいや、わかった。」
「じゃあ、そろそろ俺達帰るから…ちょっと今日は修司の事頼むな?」
「うん。なんか今日修司の親御さんまた海外にいるとかで、心配させたくないから連絡しないように修司が言ってたから…私が付いててあげようと思ってるんだ。」
「そっか…。」
「あ…そうだ。直也、昨日はどうだった?あゆみと楽しめた?」
(ドキッ。)
「…。」

病室へと戻りかけていた俺だったが、思わず立ち止まる程動揺してしまった。

「え?どうしたの?直也。」
「へ?あ、あぁ…まぁまぁ…。」
「…変なの。」
(何があったか…今はまだ言えねぇよ。…今日はもう帰った方が良いな。)

病室に戻った俺はあゆみを呼び出し、帰る前に修司に声を掛けた。

「じゃあな修司、始業式までには治せよ。」
「あぁ…こんな傷くらい何でもない。」
「わがまま言って看護士さん困らせるなよ?」
「そんな事する訳無いだろ?」
「…。」

無言で3人の疑いの目が修司に集中した。

「な、何だよお前ら…。」
(修司ほどからかい甲斐のある奴はいないな本当に。)
「はっはっは…じゃあな。」
「あぁ。」

あゆみと2人で病院から出ると、俺は切っていた携帯の電源を入れた。すると直後に電話が掛かって来た。

〔♪♪♪…〕

この前の事件の時に事情を説明した警察からだった。

〔ピッ〕
「もしもし…。」
“あぁ…良かった。なかなか連絡が取れなくて心配したよ。”
「すみません、今まで病院にいたものですから。」
“病院?もしかして痛井病院かい?”
「は、はい…。」
“それじゃ、やっぱり君達が被害に遭ったのかい?”
「えっ?どういう事ですか?」
“実は今日の夕方4時過ぎに、君達の高校の近くでこの前話してくれた『石森武史』って男がバイクで事故を起こしてね。そこの制服を着た生徒が男女1人ずつ痛井病院に搬送されたって報告があったから、てっきり君達かと…。”
(武史が起こした事故?!そんな…。)
「いえ、僕達では無いですが、2人共僕達の友人です。」
“そうだったのか…。で、その後2人は?”
「特に大きな怪我などはありません、意識もはっきりしていますし。」
“そう、良かった。それで石森と言う男はこちらで身柄を確保したから、もう安心して大丈夫だから。”
「そうですか。」
“君達も大変な目に遭って大変だったけど、もう今回の事はあまり考えないように…ね?”
「はい…わざわざありがとうございました。」
“はい、それじゃあ。”
〔ピッ〕

俺はそのままタクシー会社に電話をかけ、タクシーを待っている間にあゆみに今の話を伝えた。
あゆみは特に何も話さず病院を見つめていた。

(この前の武史の最後の言葉はこういう事だったのか…。あゆみの事を確信を持って襲ったと言う事は、今の俺の周囲の事をある程度調べていたと言う事だろう。となると雅恵も意識的に狙われたのか…?)
「まさか雅恵まで巻き込む事になるとは…。」

頭で色々考えながら無意識に言葉として漏れた一言だった。
すると、

「何言ってるの?!あまり考えないようにって今言われたんじゃないの?!…この前の私達、今日の雅恵も修司もみんな何事も無かったんだし、それで良いんじゃないの?!」
「あゆみ…。」

睨みつけるような鋭い視線で訴えるあゆみを見て俺は我に返った。

「…そうだな、あゆみの言う通りだよ。悪かった…。」
「ううん…。直也が弱音なんて似合わないから。」
「そんな事は無いけど…。さっき言ったようにもうすぐ始業式だしな。」
「そうそう。これからの事に頭を切り替えよう?」
「あぁ。」

あゆみの家の近くでタクシーを降り、それぞれの家へと帰った。
その後は特に何も無く1日を終えた。
そしてバイト最終日の28日、早めに『PIT・IN』へ向かった。


[続く]