痛井病院に着いた俺達は早速雅恵の姿を探した。
すると白衣を着た1人の男性が俺達に話しかけてきた。

「君達はさっきの…『高山修司』君の友達かい?」
「あ、はい…。修司の検査と言うのは…?」
「あぁ、心配いらないよ。検査はもう終わって今は病室にいるよ。頭部に傷があるようだったから念のために検査をしただけだから。結局何も異常は無かったよ。」
「そうですか…。」
「今日のところは一応病院で静養してもらうつもりだけどね。あと一緒に運ばれてきた雅恵ちゃんって女の子には傷1つ無かったよ。きっと恐怖で気を失っていたんだろう。今は修司君と一緒にでもいるんじゃないかな。」
「良かった大きい怪我じゃなくて…。ありがとうございました先生。」

隣にいたあゆみも胸を撫で下ろした様子だった。俺達は先生に修司のいる病室を聞き早速向かった。
病室の前まで来たところで俺は立ち止まり、個室である事を確認すると小声であゆみに相談した。

“ここはやっぱり明るく振る舞うべきだよな?”
“うん…でもどうやって?”
“任せとけって。…………こういうのはどうだ?”
“うん、いいかも。”

あゆみはクスクスと小さく笑い、俺のアイディアに賛同してくれた。

“じゃあ行くぞ。”
〔コンコン〕
“はい?”
〔ガチャ〕

病室のドアをノックし、声が聞こえると同時にドアを全開し修司の姿を確認した所で、

「すみません…部屋を間違えました。」

とドアを閉めようとすると、

「おいおい!お前達何やってるんだ?」

修司は本気で反応した。

「何っ?!俺の事が分かるのか?」
「あのなぁ…お前は『加賀直也』、俺と同じ高校に通っている3年生…だろうが?」
「あれ、おかしいな…。確か先生から『頭を強く打って記憶喪失になっている』って聞いて来たんだけど…。なぁ、あゆみ?」
「えぇ、『完治するまでは相当時間がかかりそうだ。』って言ってたわ。」
「う、嘘だろ?!頭のちょっとぶつけた所がほんの少し痛むだけだぜ?たぶん明日くらいには退院出来るんじゃ…。」
「とんでもない!『下手すれば命に関わってくる危険な状況だ』って言ってたぞ?」
「…。」

みるみる修司の顔は青ざめ、黙り込んでしまった。
話の内容がエスカレートし過ぎていると感じたのか、あゆみが小声で話し掛けてきた。

“ねぇ直也、ちょっとやり過ぎじゃない?”
“そうか?”

俺はまだ愕然としている修司に本当の事を話した。

「…………とまぁ、明るく行こうって2人で決めて冗談を言ってみただけなんだよ。」
「お前らなぁ…直也だけならすぐに嘘だと思うけど、まさかあゆみまで…。」

さっきまで青ざめていた修司の顔が一転し赤くなった。

「えへっ。…ところで雅恵はどうしたの?」
「喉が渇いたって言ってたから、休憩所の販売機に飲み物を買いにでも行ったんじゃないかな。」
「そう。」

そこにタイミングよく雅恵が病室に入って来た。

「あっ…あゆみ達来てたんだ?」
「おぅ。だけど雅恵…災難だったな?」
「うん。でも修司が助けてくれたから…。」

雅恵の顔が少しだけ赤くなったように見えた。

「けど…まさか修司がなぁ…そんな事するようなタイプだったか?」
「…直也に影響されたのかもな。」
「はぁ?俺に?」
「あぁ…確かに直也は知能では俺に遠く及ばないが…。」
「おい、殴るぞ?」
「ま、待て!話を最後まで聞け!それにおれは病人だぜ?」
「ちっ…分かったよ。」
(病人じゃなくてケガ人だろう?まぁ思考回路が狂ってるのは前からか…気にする事も無いか。)

あゆみと雅恵はどこにいても変わらない俺達のやりとりを見て笑っていた。

「直也を見てたらな…今までの俺には無かった大事な物を持ってる事が分かったんだ。」
「はぁ?」
「何と言えば良いか難しいけど…[人に対する優しさ]とでもいうのか?」
「何を言ってるんだ?もっと分かりやすく話せよ?」
「だから…お前の優しさだよ。」
「俺は別に優しくねぇよ。…でもそれがどうしたって言うんだよ?」
「俺はこれまでずっと誰かに守られてきた。俺はその事に自分がずっと偉い男だと思っていたんだ。…でも、それが間違いだったと言う事を気付かせてくれたのが直也だったんだよ。」
(???)

全然理解出来ない修司の話に俺の頭はパニックになろうとしていた。

「俺は人間として大切な事を分かっていなかった。」
「何の事だよ?」
「[金さえあれば幸せになれる]なんてずっと思ってたけど、むしろ[金なんか無くてもお互いに助け合う事の方が幸せ]なんだって事を直也に教えられた気がするよ。」
(まったく…訳の分からない話をする奴だ。…やっぱり重症なんじゃないか?可哀想な奴…とは全然感じないけど。)

俺は雅恵の方に身体の向きを変え話を続ける。

「でもさ…どうして今日2人は学校なんか行ってたんだ?」
「私は部活の後輩に会いに行ってたの。」
「俺は…。」
「そうかそうか。」

俺は強引に修司の話を断ち切った。

「まだ何も言ってねぇよ。」
「それでさ、雅恵…。」

俺はとにかく修司の言葉を無視していると、

「俺を無視するな~っ!」

急に修司が大声を上げた。

「お前、ここは病院だぜ?大声出すなよ。」

修司の声を聞いたのであろう看護師さんが慌てて病室へ入ってきた。

「な、何かありましたか?」

修司が口を開きそうなのを見た俺は、瞬時に修司の口を塞ぎ代わりに返事をした。

「すみません、ちょっと精神的に不安定な所がありまして。自分達がなんとか落ち着かせますので大丈夫です。ありがとうございます。」
「そうですか。でしたら個室ではありますが近くの病室の方にも一応注意を呼び掛けておきますね。」
「あっ…はい。お手数おかけして申し訳ありません。」
「いえいえ。それではお大事に。」

看護師さんが出ていくと、俺はすぐに修司の口を塞いでいる手を取ってやった。

「あはは…おもしろ~い。」

あゆみと雅恵は笑いをこらえていたのか急に笑いだした。

「お前らなぁ…笑い事じゃないだろ?直也、口を押さえるのはやめろ。本当に死ぬかと思っただろう?」
「修司が急に大声なんか出すからだろう?」
「直也が無視なんかするからだ。」
「どうせ大した理由じゃないだろうし、その前に修司がずっと訳の分からない話をしてるからだ。」
「ちっ…やっぱりあんな話お前に直接するべきじゃ無かったな…。」
「ふん…そんな事知らねぇよ。…それで修司は何のために学校に行ってたんだ?」
「俺は屋上で考え事をしてたんだ。」
「やっぱり大した理由じゃ無いじゃねぇか?」
「…どうしてお前は俺に対してそんなに反抗的なんだ?」

俺は戸惑う事も無く即答した。

「嫌いだからに決まってるだろう。」
「そ、そんなストレートに言い切るなよ。」
「そうは言われても嘘はいけないだろう?」
「そ、そういう問題なのか?」
「問題は事故についてだろ?」
「そっか…。…って、ん?何か話をうまく逸らされた気がするぞ?」
「気のせいだろ?」
「まぁいいか。そういう事にしておいてやるよ。」
(なんて単純な奴なんだ…。)

俺は話を元に戻し、事故の話を聞く事にした。

[続く]