(なんか…ぐっすり寝たな。だけど今日、いつものようにあゆみと話せるのかな…?はっきり言って自信無いけど…。あ~っ!!こんな事でどうするんだ?あれは夢だったんだ…。今日あゆみと顔を合わせればいつも通りに話せるさ…たぶん。)

とにかく時間通りに『PIT・IN』に行くと、既に鈴音さんが先に来ていた。

「おはよう、直也君。」
「あっ…おはようございます…です。」
「えっ?何…その変な挨拶は…?」
「あ…いえ、別に…。」
「変な直也君…。」

俺は着替えを済ませあゆみを待っていた。すると時間ギリギリにあゆみがやって来た。

「おっはよー直也!あっ…鈴音さん…。」
「ど、どうしたの?!朝からテンション高くない?」
(やっぱりあんな事を言ってたけど、あゆみもさすがにいつも通りとはいかないみたいだな。)
「い、いえ…別に。じゃあ私は着替えに…。」

あゆみは鈴音さんから逃げるように更衣室へと入っていった。
鈴音さんは不思議そうな顔で先に厨房へ入り、俺は着替えを済ませたあゆみと共に厨房へと入った。

「ギリギリになってすみません。」
「うんうん。今日も頑張ってね。」

謝るあゆみに対して笑顔で鼻の下を伸ばす親父に呆れていると、鈴音さんも大きく溜め息をついていた。

その後開店し、仕事自体に問題は無かったのだが、やはりお互いに相手を、加えて鈴音さんの視線や存在を意識し過ぎたのか、あゆみとほとんど言葉を交わさずに仕事を終えた。
そしてあゆみがそそくさと着替えに更衣室に入って行くと、なぜか不機嫌そうな顔をした鈴音さんが俺の方へと歩み寄って来た。

「ちょっと直也君!朝、厨房に来る前にあゆみちゃんとケンカでもしたの?」
「えっ?どうしてですか?」
「だって朝、あんなに元気に直也君に挨拶をしてたあゆみちゃんと全っ然話してなかったじゃない?」
「そ、それは別に…何でも無いですよ…。」
「…何なの?私には話したくないって事?」

ますます不機嫌そうな顔をする鈴音さんに俺はたまらず、

「とんでもない!鈴音さんにはいろいろお世話になって…。」

とフォローすると鈴音さんは急に笑顔に変わり、

「まぁケンカじゃないなら良いわ。あゆみちゃんの方に聞いてみよ。」

と更衣室へ入り、しばらくすると着替えを終えた2人が揃って戻って来た。

「ねぇ2人共、どうして何も無いのに急に話をしなくなっちゃったの?」
「だからそれは…ねぇ?直也…。」
「えっ?あっ…その…。」
「あぁ!…なんだ、そういう事かぁ…。」

お互いに言葉に詰まり、視線で合図を送り合う俺達の様子を見て、鈴音さんは何かを感付いたらしい。

「り、鈴音さん?!」

動揺を抑え切れず、声が裏返ってしまった。

「あはは…直也君ったら無理するといつもそうなるんだから。」
「…。」

あゆみは恥ずかしそうに下を向いたまま固まってしまっている。

「あゆみちゃんも照れちゃって…可愛い。…でも2人共まだ安心しちゃダメよ?…まぁ2人共に恋愛に奥手なピュアなハートの持ち主だから大丈夫かな。」
「…。」
「じゃあ私は邪魔だから帰るわね。バイバーイ。」
「そ、そんな…鈴音さん?」
〔ガチャ〕

鈴音さんは優しい笑顔を浮かべ、さっさと店を出ていってしまった。

「…鈴音さんって鋭いなぁ…。」
「ホント。私なんてここでのバイトの初日に『直也君の事どう思ってるの?…正直好きでしょ?』って…。」
「へぇ…。」
(あれ…俺にも同じ事を聞いてたような?『他人の恋愛をどうこう言うつもりは無い』って言ってたのに…。でも、おそらく俺達2人が共に鈴音さんに相談に乗ってもらって、鈴音さんが自らパイプ役を買ってくれたんだろうな…。またきちんとお礼を言っておかないといけないな。)

そしてここでも、鈴音さんのおかげであゆみと普通に話を出来るようになっている事に気が付いた。

「おーい、直也!あゆみちゃんも来てくれないか?」
厨房から親父の呼ぶ声が聞こえた。
厨房に入ると親父はなぜか笑顔で立っていた。

「何だ?」
「2人共、一応明後日で終わりだけど気は抜かないように頼むぞ?」
「分かってるさ。俺はどんな事にも力は抜かない。」
「私もです。」
「そうか…それを聞いて安心したよ。じゃあ、今日もお疲れ様。」
「じゃあ直也、今日も掃除して一緒に帰ろう。」
「よし!やるか。」

気合いを入れてフロアに戻ろうとする時、親父の方を見ると俺達を交互に見ては白々しい笑みを浮かべていた。

(何だよ親父の奴…まさか俺達の事…?でもどうして…鈴音さん?…いや違う、おふくろに違いない…。)

俺は気付かないフリをしてフロアに戻り、2人で掃除を済ませ店を出た。
するとその直後…

〔♪♪♪…〕

あゆみの携帯が鳴り出した。

「公衆電話だって…誰かな?…ちょっとゴメンね。」
「あぁ。」
〔ピッ〕
「もしもし…?」
“…………。”
「なんだ雅恵かぁ。どうかしたの公衆電話でなんて…?」

どうやら電話をかけてきたのは雅恵のようだった。

“…………。”
「えっ?!痛井病院から?」
(…?)
“…………。”
「うん、わかった。すぐに行くわ。…後でね。」
〔ピッ〕

電話を切るとあゆみは雅恵からの電話の内容を話し始めた。

「雅恵が病院からかけてきたんだけど、4時くらいに学校の校門の近くでバイクが暴走してて、そのバイクが雅恵の方に向かって来て、一緒にいた修司が雅恵を庇って助けたらしいんだけど、雅恵はその時に恐怖で気を失ったらしくて、今気が付いたら痛井病院にいて、どうも今修司が検査を受けてるらしいの。」
「修司が…?!」
「バイクと接触はしてないらしいけど、頭を打って気を失ったらしくて、雅恵と2人で救急車で運ばれたみたい。…それで検査をしてるみたい。」
「…とにかく痛井病院へ向かおう。」
「うん。」

俺達は店の中へと戻り、親父にタクシー会社の電話番号を教えてもらい、タクシーで痛井病院へと向かった。


[続く]