「ねぇ…今から直也の家に行ってもいいかな?」
(?!)
「は、はぁ?!何だよいきなり…。」
「何だか昔の話をしてたらその頃の事が懐かしくなっちゃって…。久しぶりに直也の家にも行ってみたくなっちゃった。」

あまりの事にさすがに戸惑ったが、今日はあゆみの希望にとことん付き合う事を決めていた俺はあゆみを家に連れて行く事にした。

遊園地を出た後も、俺自身複雑な気持ちでいる上、あゆみもまだ何かを考えているようで、声をかけにくい状況が続いていたため電車に乗るまで俺達は言葉を交わさなかった。

そして電車の中で、あゆみは急に修司との別れ話について話し始めた。

「あのさ…私、おとといに修司と別れたじゃない?」
「…あぁ。」
(おいおい…こんな話して大丈夫なのか?こんなままじゃあゆみは余計に夏が嫌いになっちゃうんじゃないか…?)

「その時ね、こっちから一方的に話を切り出したから、修司には絶対怒られると思ってたの。」
「そっか…でも修司は怒らなかったんだな?」
「そうなの。…と言うより笑ってたの。」
「…。」
(本当に修司が4人の関係を崩さない為に身を引いたと言うのであれば、俺は自分の気持ちをあゆみに伝えなければいけない…。)
「直也、またボーっとしてる?」
「えっ?あ、あぁ…ほら、あいつは元々変な奴だから、きっとどこかが狂ってて…泣く場面なのに笑ってしまったんだよ。」
「あはは…ひどい言い方。でもホントに良かった。修司にその話をしたら、絶対に私達の関係も大きく変わっちゃうと思ってたから。」

俺はこの時、あゆみが修司と別れた日の朝のあゆみの言葉を思い出した。

「そう言えば…あの日、『昨日の事と関係が…』って言ってたよな?…武史の事とどういう関係があるんだ?」
「あの武史って人との事があった日、直也から久美子ちゃんって子の話を聞いて…改めて自分の気持ちを見つめ直してみたの。」
「…それで?」
「久美子ちゃんって子は自分の中で、あの武史って人より直也の存在が大きくなったから、正直に自分の気持ちを直也に…そして、その話を武史って人にも伝えたって事だよね?」
「…あぁ。」
「それを考えた時、私は修司に対してそんなに強い気持ちを持っていない事にすぐに気が付いたの。」
「…。」
(結構包み隠さずストレートに言い切るなぁ…。)
「夏祭りの日に私が『修司も悪くないんだけど…』って言った事覚えてる?」
「えーっと…?あぁ…そう言えば。」
「あの時、雅恵が隣にいたから口を滑らせちゃったんだけど…。」
(雅恵とは修司と別れたいって話をしていたらしいしな…。)
「だから、ホントはその後すぐに別れようって思ったんだけど、やっぱり怖くて。」
「もうあの時には修司にそんな気持ちが無かったのか…。」
「うん。…だけど…。」
「えっ?」

まだ言葉を続けるような言い方をしたあゆみだったが…、

「もう駅に着いちゃうから、続きは直也の家で話すわ。」
「あ、あぁ…。」

駅から俺の家へ向かう間も、プールで見せていた笑顔とは正反対の思い詰めた表情で無言のまま、俺の家に着いてしまった。

(…だからぁ、お互いに特別な休みをエンジョイしてるとは言えない状況だぜ?…これじゃ、いけないだろう?)
「な、なぁ…自分から聞いておいて悪いけど、さっきの話…無理に話す必要は…。」
「ううん…大丈夫。だから早く。」

昨日と同じように身体を押され、俺は強引に家の中へと押し入れられてしまった。

「お邪魔しま~す!」

あゆみのその声に、

“はいはい…どちら様?”
奥から俺のおふくろが姿を見せた。

(おぉ、ここに来て初登場…。マジメな場面でふざけたくは無いが、ここまで読んできて俺が複雑な家庭環境に育ったと思っていた人もいるかも知れないが、別にそういう訳では無いんだ。)
「お久し振りです。あゆみ…『柴原あゆみ』ですけど、覚えていらっしゃいますか?」
「はいはい、直也の幼なじみの…。もちろん、昔から内のバカ息子がお世話になって。」
「あ、あのなぁ…。」
「ふふ…とんでもない、私の方こそお世話になってます。」
「旦那から『ウチの店で働いてくれるようになって随分大人っぽくなった』って聞いてたけど、本当に綺麗になって…。」
「いえ…そんな…。」

あゆみは照れ笑いを浮かべていた。

「どうぞ、上がってください。」
「失礼します。」

靴を脱ぎ、あゆみは周りを見回していた。

「今日はオーナーは?」
「昼過ぎ位に『あの台が呼んでる』とか言ってまたパチンコに行っちゃったわ。」
(ラッキー!親父にこの状況を見られると厄介だと思ってたんだ。いちいち説明するのも面倒だし、散々いやみを言われるのも分かってるからな…。)

俺はあゆみを部屋へ連れて行き、エアコンのスイッチを入れた後、飲み物を取りに台所へ行くと、再びおふくろに呼び止められた。

「ねぇ直也、何があってウチに来たのかは聞かないけど、あゆみちゃんを泣かせちゃダメよ?」
「な、なんだよ…分かってるって…。」
(もちろん泣かせるつもりなんてないよ…。)

おふくろの言葉を耳に残したまま部屋へと戻った。

「…どうかしたの?」

複雑な気持ちが顔に出ていたのか、あゆみが心配そうに聞いてきた。

「いや、何でも…。こんなのしか無いけど…はい、オレンジジュース。」
(いろんな事を考える前に、今はあゆみの話をちゃんと聞かないとな…。)
「ありがとう。」

俺はあゆみの隣に座った。
するとあゆみはジュースを開け、一口だけ飲むとすぐに電車での話の続きを話し始めた。

「さっき直也が、『夏祭りの時には、もう修司に対する思いが無かった』って言ってたでしょ?」
「…あぁ。」
「でも、そうじゃないの。…この事は修司にはさすがに言えなかったんだけど、きっと私…最初からそんな気持ちは持って無かった…。」
(?!)
「だから、久美子ちゃんって子の話を聞いた時、頭の中が真っ白になって、『すぐに修司に話さないと…』って思ったの。」
「…。」
「これで、あの日と関係があるって言った理由、分かってもらえたかな?」
「あぁ。」

あゆみは深呼吸をして言葉を続ける。

「…で、もう1つ話があるの。」
「はぁ?」
「それだけだったら、わざわざこうして直也の家まで来る必要は無かったし…。」
「まぁ…確かに。」
「こっちの話がしたくて、ここまで来たの。」
「…。」
「聞いて…もらえる?」
「あぁ、もちろん…。」
「笑わないでね?」
「…わかった。」

あゆみはまたオレンジジュースを一口飲み、話を始めた。


[続く]