〔♪♪♪…〕

修司からだった。

(まったく…朝から何だよ…?)
〔ピッ〕
「もしもし?…ふぁ~。」
“もしかして今まで寝てたのか?直也、よっぽど暇なんだな?”
「そうじゃねぇよ…俺はバイトで疲れてんだよ。」
“ははは…まぁ怒るなよ。”
「それで何の用なんだよ?」
“そうそう。急で悪いけど俺、今日の夏祭り行けなくなったんだ。”
「ど、どうしてだよ?」
“父さんの仕事の用事で、これからアメリカに一緒に行く事になってな。”
「はいはい…金持ちはいいよなぁ。」
“まぁな。”
(ちぇっ、少しは謙遜くらいしろよな…まったく。)
“じゃあ、そういう事だから。あゆみと雅恵にはもう言ってあるからな。”
「そっか。まぁ仕方ないな。」
“すまないな。3人で楽しんで来てくれよな。”
「あぁ、じゃあな。」
〔ピッ〕
(はぁ…修司は来ないのか。)

そして夜、神社へ行くと既に浴衣姿のあゆみと雅恵が待っていた。

「直也~。こっち、こっち。」
「おぅ。雅恵も浴衣で来たのか。」
「うん。今日の朝あゆみから『今日、浴衣で行こう』って。」
「似合ってるぜ。」
「えへっ。慣れてない恰好でちょっとだけ恥ずかしいんだけどね。」

俺は初めて見る雅恵の浴衣姿に瞬時、目を奪われていた。

「直也、私は?」
「ん?」
「私だって浴衣着てるんだから、何か言ってよ?!」

急にあゆみが大声を発した。

「な、何を怒ってるんだよ?似合ってるよ、ものすごく。」
(なんだ?あゆみが周りを考えずに大声を出すなんて…。)
「ど、どうしたの…あゆみ?何かあったの?」
「…ごめん。何でもない…。」
「…。」
(あゆみに一体何があったと言うんだ…?)
「そ、そろそろ行こう?」
雅恵に誘われるがまま境内に進むと、多数の露店が並んでいた。
俺達は童心へ返り、しばらく射的などで楽しんだ後、ベンチで一休みしていると雅恵が去年の夏祭りの事を話し始めた。

「でも修司がいないとちょっとつまらないね。そういえば去年、直也と修司ったら金魚すくいで本気で勝負してたんだよね?」
「そうそう。あれ楽しかったね。」
「あぁ…あれは燃えたぜ。」
「確かあの時2人共結構すくってたよね?」
「俺が25匹で修司が20匹だったかな。修司もなかなかだったが、俺から言えばまだまだだな。」

大した事で無いにも関わらず、俺は得意気に言った。
「2人があまりに真剣だったから…見てるだけでもめちゃくちゃ楽しかった。」
「小っちゃい子供達もすごい集まってきて…店の人もビックリしてたよね?」
「だけどいらないから、全部その子供達にあげたんだ。」

その後、去年の事を思い出していたのか沈黙が続いたが、またも沈黙を嫌う雅恵が口を開いた。

「ねぇ、御神籤を引いてみない?」
「あぁ、いいぜ。」

早速3人で御神籤を引きに行った。

(賽銭箱に100円を入れてと…えーっと?げっ…『凶』かよ?!なになに…『恋愛運…急がば回れ』か、焦りは禁物ってか…。)

「直也、どうだった?」

雅恵が興味津々そうに聞いて来た。

「…聞いて驚くなよ?」
「大吉だったの?」
「はっはっは!俺は…『凶』だ…。」
「うっそー?!」
「本当に?直也。」

雅恵もあゆみも目を大きく見開き、信じられないと言いたそうな表情で俺の顔を見ていた。

「俺って本当に運無いからな…。雅恵はどうだった?」
「私は『中吉』。あゆみは?」
「私?私は『大吉』。」
「いーじゃない。」

『大吉』と書かれてあるらしい御神籤を見ながらあゆみがつぶやいた。

「でも御神籤なんて…いまいちあてにならないしね。」
「まぁ、その日何が起こるかなんて誰にも分からないし、先が見えてる人生なんてちっとも楽しくないだろうからな。…けど、やっぱり良い事があるって思ってる方が良いよな。」
「うん。」

2人は珍しく俺の意見にうなずいてくれた。

「でも…さすがに『凶』は無いだろう?こんな人が多く集まる日くらい無くせば良いのに。」
「ははは…直也らしいね。」

そんな話をしているうちに、多くの露店が片付けを始めていた。

「そろそろ終わりみたいだな。」
「そうね。今日は楽しかった。」
「『大吉』は全くのハズレじゃなかったようね?あゆみ。」
「でも1日だけじゃ…。ずっと幸せにしてくれる人いないかな?」

この会話に入る事が出来無いと、すぐに感付いた俺は2人から少し距離を置いて歩く事にした。

「あれ?修司じゃダメなの?」
「修司も悪くないんだけど…だって今日も勝手にアメリカなんかに行っちゃってさ…。」
「あゆみはアメリカが嫌いなの?」
「ううん、そういうわけじゃないの。生まれ育ったこの街が好きなだけ。」

あゆみは爽やかな笑顔を浮かべ、空を眺めながら1つため息をついた。

「あ~っ!!ゴメン私、大事な用事を忘れてた!先に帰るね、バイバイ。」
「えっ?雅恵…ちょっと…。」

雅恵はあっという間に俺達の視界からいなくなってしまった。あゆみと俺は呆気に取られていた。

「一体何だったんだ?雅恵…着慣れないって言ってた浴衣を着てるのに…どうしてあんなに速く走れるんだ?」
「ある意味すごいよね…。」
「まぁな…。俺達も帰るか?」
「うん。」
「送って行くよ。」

帰る途中、あゆみがそっと口を開いた。

「ねぇ直也、来年もこうやって一緒に夏祭り来られるのかな?」
「うーん、今はまだ何とも言えないな。」
「来れれば良いね。」
「…あぁ。」
(どういう意味で言ってるんだ…?)
「じゃあ直也、ありがとう送ってくれて。」

気が付くとあゆみの家の近くまで戻ってきていた。

「礼なんか良いよ。」
「でも、ちゃんと気持ちは素直に伝えなきゃ…。」
「そうか…。」
(気持ちは素直に…か。)
「おやすみ直也、また明日ね。」
「あぁ、おやすみ。」

あゆみは小走りで家に向かって帰っていった。

(来年か…俺はどうなってるんだろうか…。まぁ今はそんな事を考えても仕方ないか。明日もバイトがあるし…今日は早く帰って寝るか。)

そしてその後1週間、またいつも通りアルバイトをこなしたが、あゆみはその間も特に変わった様子は無いように見えた。

しかし休日の22日、それは起こった…。

[続く]