「いらっしゃいませ…ってあゆみか。」
「ちょっと~、私だってお客なんだから。ちゃんと接客しなさいよね?」
「はいはい。お一人様ですね?こちらへどうぞ。」
「はーい。」
あゆみをテーブルに案内し、
「ご注文は?」
「じゃあ…メロンソーダで。」
「かしこまりました。」
普通に接客していると、
「くすっ、おっかしいー。」
「わ、笑うなよ。ちゃんと接客しろって言ったのはあゆみだろ?」
「ごめーん。やっぱりいつもの話し方がいいや。」
「それじゃメロンソーダ頼んでくるから、少し待っててくれ。」
「うん。」

俺は厨房の親父に注文を伝え、あゆみの元に戻った。
「ここの男性用の制服って初めて見るけど、似合ってるね?」
「そうか?」
「バッチシ。」
あゆみとしばらく話していると、
“3番のメロンソーダ出来たぞ。”
出来上がりを知らせる親父の声が聞こえた。
俺はそのメロンソーダを持って再びあゆみのテーブルへと戻った。
「はい、メロンソーダ。」
「このメロンソーダにメロンメロン…なんちゃって。」
(あゆみの最近のマイブームはこういうギャグを連発する事らしい。)
「えっと…聞かなかった事にしよう。」
「ひど~い、無視しないでよ。…恥ずかしいじゃない。」
あゆみは少し照れた様子で膨れた顔を見せ、一気にメロンソーダを飲み干してしまった。
(炭酸飲料一気飲み…?これだけのためにわざわざ来たのか?)
「ねぇ、直也のお父さんいる?」
「えっ?何か入ってたのか?」
「そ、そうじゃなくて、話したい事があるの。」
「話したい事?…どうせ俺の悪い噂でも流すんだろう?」
「どうしてそんな事をしなきゃいけないのよ?」
「それはそうだけど。」
「何か身に覚えがあるんじゃないの?」
「そんな事はないよ。」
「で、お父さんはどこにいるの?」
「向こうの厨房にいるよ。…で、話って何だよ?」
「すぐに分かるわよ。」
「はぁ?」
「それじゃあ、話してくるね。」
あゆみは厨房の中に入っていった。

15分くらい経ってあゆみがフロアへ戻ってきた。
「それじゃあ今日は帰るね。ジュース代いくら?」
「あ、あぁ…300円だけど。」
「はい、300円ね。バイバイ。」
あゆみはその場で俺に金を渡すと、さっさと出ていってしまった。
(おごって欲しくて来た訳じゃないなら本当に何をしに来たんだ?…親父と話をしに来たって事か?後で親父に話の内容を聞いてみるか。)

その後今日は少し暇な時に休憩を取る事にし、俺は厨房で軽い昼食を食べながら親父にあゆみとの話の事を聞く事にした。
「なぁ親父、今日ここに来た女の子と何を話したんだ?」
「『親父』じゃないだろ?」
「『オーナー』なんて呼びたくねぇよ。」
「すぐに分かるさ。それがどうかしたのか?」
「い、いや…ちょっとな?」
「これはもしかして、ぶつぶつ…」
ふと親父の方を見ると不可思議な笑みを浮かべ、何かを考えているようだった。
「何だよ…気持ち悪いなぁ。」
「ふん、こっちの事だ。…さて、飯食ったらさっさと戻れよ。給料減らすぞ?」
「まったく…めちゃくちゃだな。」
(親父も隠しやがって…一体何なんだ?)

休憩から戻ると、鈴音さんが俺を呼んだ。
「直也君、お友達が待ってるわよ?」
「へっ?」
「やっほー。ここだよ~ん。」
そこには相変わらずハイテンションな雅恵がいた。
「今は彼女以外、お客さんもいないから、私も休憩に行かせてもらうね。何か困ったら厨房にいるから。」
「はい。ゆっくりしていて下さい。」
「あら、余裕ね?」
「あっ、いや…そういう訳じゃないですけど…。」
「うふふ。冗談よ。じゃあ頑張って。」
「はい。」
俺は雅恵の待つテーブルへと向かった。

「雅恵、いらっしゃい。何にする?」
「チョコレートパフェ!!」
雅恵の元気な声が俺の耳を突き抜ける。
「わ、わかったから…他に客がいなくても叫ばないでくれよ。」
「あっ…ごめ~ん。」
「チョコレートパフェ持ってくるから、ちょっと待っててくれよな。」
「うん、よろしく~。」
注文を親父に伝え、テーブルに戻った。

「その服カッコいーじゃん。」
「あゆみもそう言ってたけど、本当に似合ってるか?」
「あれ?あゆみはもう来てたんだ?なんで一緒に来ようって声かけてくれなかったんだろ?」
(俺にも何の連絡もなかったしな…。)
「…ま、いっか。そうそう、その服の話ね。ここの男の人用の制服って見た事無かったし、直也の学校の制服以外の姿ってあまり見ないから、なんか新鮮。」
「なるほど、そういう事か。」
雅恵と話をしているうちに、
“3番のチョコレートパフェ出来たぞ。”
チョコレートパフェを取りに行くと、そこには35センチくらいはある大きなパフェが用意されていた。
(うっ…なんだこりゃ?)

雅恵にパフェを持っていくと、
「わぁ~、おいしそ~う。」
(俺は甘い物苦手だからな…。)
「それじゃ、いただきま~す。」
チョコレートパフェを食べはじめた矢先、
「そうだ。ねぇ直也、ちょっと気が早いんだけど、この夏休みの終わりに4人でどっか行かない?」
「別に良いけど、俺は水曜と日曜しか空けれないぞ?」
「分かってる。だから25日にって思ってるんだけど。」
「25日って言うと…水曜だな。それならたぶん大丈夫だと思う。」
「良かった~。これでみんなOKね。詳しい事が決まったらまたここに来るね。」
「あぁ。それより、早く食べないと溶けちまうぞ?」「そうね。」

早々とパフェを食べ終わると雅恵は帰り支度を始めていた。
「ごちそうさま。美味しかったよ。」
「それは良かった。」
「ところで、仕事はどう?」
「まぁ、まだ探り探りだな。」
「そうだよね。…昨日来たら迷惑だろうと思って来なかったんだけど、正解だったみたいだね。」
「そうだったのか。…確かに昨日はもう何が何だかって感じだったからな…。気を遣ってくれてサンキュな。」
「ううん…んじゃあ、今日は帰るね。頑張ってね。」
「おぅ。じゃあ、財布を取ってくるからレジで待っててくれ。」

テーブルを片付け、更衣室へ財布を取りに行った後、雅恵と休憩から戻ってきた鈴音さんの待つレジへと向かった。

「チョコレートパフェは600円になります。」
「あっ、直也君のおごりなんだ。…はい、600円確かに。」
「それじゃあね、直也。」

「へぇ、直也君ってモテるんだ?」
「えっ?ち、違いますよ…そんなんじゃないですって。何を言ってるんですか鈴音さん。」
「そんなに慌てちゃって…余計に怪しいなぁ。」
「り、鈴音さん…。」
「うふふ…さぁ、残りの時間も頑張りましょ。」

2人が来てバタバタとしたが、その後は昨日に比べると余裕を持って仕事をこなすことが出来、そのまま閉店時間を迎えた。

閉店するとすぐに厨房から親父がフロアへと現れ、
「おぅ直也、鈴音君もちょっといいか。」
「オーナー、何か?」
「まぁ、大した事では無いんだが。明日の朝、この前と同じように少し早めに店に出てきてもらいたいんだ。」
「何かあるんですか?」
「明日になってのお楽しみさ。」
「また隠しやがって…。」
休憩の時の事もあり、思わず口が開いてしまった。
「『また』って事は…オーナーって隠し事が多い人なんですか?」
「こらっ!直也、余計な事を言うんじゃない!」
「それなら、隠さずに言えば良いだろ?」
別に親父に対して恨みがある訳ではないのだが、ここは一歩も引かずに口撃を続けた。
「まぁ、良いじゃないか。明日になればすべて納得するさ。」
「わかりました。それじゃ今日はお先に失礼します。」
「じゃあ、俺も帰ろう。」
「2人ともお疲れ様。」
その後、俺は店の掃除を終わらせ家に帰った。
そしてその翌日、約束通り『PIT・IN』に早めに行ってみると…。

[続く]