『Eternal Memories』
 ~This is 運命~


[キーン コーン カーン コーン]
7月21日水曜日、学校中にいつもと同じように放課を知らせるチャイムが響き渡った。
しかし、今日はいつも以上に心地よい響きに聞こえた。そう、このチャイムは1学期の終了と共に、高校生活最後の夏休みの到来を告げるチャイムだったからだ。

(俺は『加賀直也』、高校3年生。しかし卒業後の進路が決められず、まだ大学へ進学するかどうか迷っている状態だ。親父が喫茶店『PIT・IN』を経営していて、この夏休みはそこでアルバイト…と言うよりは手伝いをさせられる事になっている。それと言うのも、親父はどうやら俺に店を継がせたいつもりらしいのだが、俺としてもそんな安易に将来を決める事も出来ないからな…。)

「おい、何ボーっとしてるんだよ?」
校門の前でそんな事を考えていると、背後から耳障りな男の声が聞こえた。
俺は振り返り、1人の男の姿を確認した。
「修司か…別に何でもねぇよ。」

(こいつは『高山修司』。高校に入ってから仲良くなったんだが、こいつの性格にはついていけない部分が沢山あるんだ。ある大手企業の社長の御曹司で金持ちだから、何事にも金にモノを言わせるタイプなんだ。…そういえばこの前、喧嘩も金で解決してたっけ。)

「直也、この夏休みはどう過ごすんだ?」
「そうだな…まぁ基本的にバイトの毎日だろうな。」
「ふん、まぁどうでもいいさ。俺にはあゆみがいるからな。」
「…。」

(あゆみ…『柴原あゆみ』は俺の幼なじみで、小さい頃は毎日と言っていいほどよく遊んでいた。小・中学は俺なんかとは違って附属学校へ通っていたんだけど、今は俺達と同じ高校に通う同級生だ。…でもいつからか、俺はあゆみの事を幼なじみとしては見れなくなっていた。だから俺は猛勉強をしてあゆみの希望校だと聞いたこの高校へなんとか入った訳だけど。今やあゆみは『校内No.1の美少女』と言う声まで飛び交う程だ。しかし、そんなあゆみが1年くらい前から、こんな修司なんかと付き合ってるんだ…。もちろん、このままじゃいけない事は分かってるんだけど…。)

「ところで直也、お前あゆみの幼なじみなんだろう?だったらあゆみが喜ぶような事とか教えてくれよ?」
「どうして俺がそんな事を教えないといけないんだよ?」
「そうだな…やっぱり本人に聞くべきだな。」
「当たり前だろ?」
「すまんすまん。…そういえば『PIT・OUT』だったっけ?店の名前。」
「出ちゃったよ?!入れよ?!」
あまりに低レベルなボケに驚き、某お笑いコンビ風のツッコミをしてしまった。
「ど、どうだ…な、なかなかのボケだっただろう?」
(ボケじゃなかったみたいだな…。)
「焦ってるじゃないか…ははぁーん、さては本気で間違えたな?」
「うるさいっ!も、もし店に行ったらサービスしてくれよな?」
修司は顔を赤くしてムキになっていた。
「いやだね。」
「ちっ…なんて奴だ。」
「おいおい、どっちがだよ?」
「ははは…。それじゃ俺は先に帰らせてもらうぜ?色々と夏休みの計画なんかも立てたいからな。」
修司は俺に何も言わさずに校外へ出ていってしまった。
「お、おい…。」
(言いたい事だけ言って行っちまいやがった…。)

修司が帰ってすぐ、俺の背後には2人の走ってくる足音が近づいてきた。
「な~おやっ!そんなトコで何してんの?」
「おぅ雅恵か。それにあゆみ…。」
「もぉ~あゆみ早く~、置いてっちゃうよ?」
「雅恵ったら…。だって走る事もないじゃない?」
「…。」

(あゆみと話をしている元気な女の子は『太田 雅恵』。雅恵はあゆみと同じ附属学校に通っていて、その頃からの親友らしく2人は一緒にいる事が多い。いつも明るい性格で、一緒にいるとこっちもすぐに明るくなれる。タイプは違うがあゆみと揃って男子には人気がある。そして修司を含めた俺達4人はよく一緒に行動しているんだ。)

「直也、どうしたの?明日から夏休みだって言うのに、そんな暗い顔してさ?」ずっと走って来ていたはずなのだが、2人は息切れ一つさえもしていない。
(この2人の身体はどうなってるんだ?)
「えっ?あ、あぁ…この夏休み、高校最後の夏休みだしな…何か起こるのかなと思ってな。」
「へぇ、でも直也が感傷的になってるのって珍しいね。」
「確かに雅恵の前じゃすぐに元気になれるからな。」
「えへへっ、それは私の元気を分けてあげてるからだよ。」
「コホン!いい雰囲気じゃない?お2人さん。」
「やだ~あゆみ、何言ってるのよ。」
「…。」
(あゆみは妬いてくれてるのか?…そんな訳無いよな。)
「そうそう…そういえば直也、『PIT・IN』でバイトするって言ってたよね?」
「あぁ、親父が『人が足りないから手伝ってくれ』ってさ。」
「お店は前にあゆみに連れてって貰った事があるけど、直也のお父さんって会った事って言うか見た事無いなぁ。」
「誰かさんとは違って渋くてカッコいいわよ。」
あゆみは不敵な笑みを浮かべて俺の方を見ている。
「ふん。どうせ俺はカッコ悪いですよ。」
「ふふふ…冗談よ、直也。」
「いい雰囲気ね、お2人さん。」
「もう…雅恵ったら…。」
「…。」
「どうしよっかな~、明日お店に行ってみよっかな~。あゆみはどうする?」
「私は明日は用事があるから。でも、そのうちに私もお店に顔出すね。」
「あぁ。遠慮なく来てくれよ。まぁ1回くらいならおごってやるよ。」
「えっ?本当?!」
絶妙なコンビネーションで2人は声を揃えた。
「何だよ?こんな時だけ声揃えるなって。」
「だって…ねぇ、あゆみ。」
「ねぇ。」
「…。」
顔を見合わせる2人に俺は声を失ってしまった。
「ははは…それじゃあ私達帰るね。そのうちにホントにお店には行くからよろしくね。」
「私も近いうちにお邪魔するね。」
「おぅ、じゃあな。」
「バイバーイ!」
2人は校外へ出ていった。
(ふぅ、あの元気に付いていくのも大変だな。さて、俺も帰ろう。)


こうして俺の夏休みは幕を開いた。
そして全ての始まりとなる7月22日木曜日の朝、朝に弱い俺は携帯のアラームで目を覚ました。


[続く]