私……、ある人を真剣に憎んだんですの。死ねばいいとさえ思っていました。
顔すら見せない、なぞの女性が、神秘のベールをはぐ。月光に照らされた2人は何を思うのだろうか?

第五話 なぞの女性
「……トンヌラ殿。私、貴方のこと、少し、信頼できるようになりましたわ。今なら、私が誰を恨んでたか、言えます」
「……よろしいのですか?」
「ええ。ドラきち殿も……」
「にゃ。でも、おいらには少し分かる気がするにゃ」
「……さすが、もう何百年も生きているだけはある」
「アベル殿と、ヘンリー殿。そして……」
「マリア様にゃ?」
「そう。我々が、必死に奴隷として、働いていたとき、彼ら、彼女らは、しゃあしゃあと……」
「でも、死んだことになってたんじゃ?」
思わず、トンヌラが叫ぶ。自分の祖父をそういわれて、腹が立ったのだ。
「ごめんなさいね。トンヌラ殿。でも、貴方には分からない。貴方は王子様。私は、幼少期を、あの大神殿で過ごしたのですから」
大神殿……後に、マーサと偽った魔物が、教団の教えを説いていた、神殿。
その構造過程には、多くの奴隷が使われた。アベル、祖父も、そこで10年間、働いていたのだ。
「……いえ。いいんです。続けてください」
「すみませんね。死んだことに、なっていたけど、私は、聞いてしまったのです」
「何を!?」
「アベル殿は、樽の中にはいって、滝から落ちて脱出しました。そのとき、牢獄がすぐ近くにあったのです。そこにいた、格闘家が、言ってました」
「なるほど……心中、お察しします」
気を使ってそういった……つもりではあった。
「ふざけないでっ! 貴方なんかに、何が分かるって言うのよ!」
「そんな! そんな起こる事……」
「いい加減にして! 【メラミ 火球呪文】!」
そういうと、火の玉が飛んできた。すかさず、ドラきちが間に入る。
「【フバーハ 光衣呪文】!」
フバーハは、炎、水系統の呪文をはじく呪文だ。
「くっ」
フバーハはあるとはいえ、熱い。だが、その苦しみもすぐ治まった。そして
「ごめんなさい。つい、あの時のことを思い出してしまって。あの辛い思い出を……」