ずいぶん前から、動画サブスクとしてAmazon Primeを利用している。
映画、アニメ、ドラマと、無料ラインナップは若干狭まっているものの、通勤時間などには丁度良いので、便利に使っている。
最近、「ケネディ家の人びと」が面白い。

元々、アメリカにおける”ロイヤル・ファミリー”としてのケネディ家、ブーヴィエ家には興味があったので、ケネディ関連の映画やドラマは、目に入る限り観てきた。
その中でも、今回のドラマはかなり良作だという感触を持っている。
そのドラマの中で、個人的に非常に刺さる登場人物がいる.
それが、レティシア・”ティッシュ”・ボルドリッジ、その人である。
日本では馴染みがない方も(もしかしたら)いるかもしれないので、ざっと経歴を紹介すると・・・・
Letitia "Tish" Baldrige は1926年生まれ。
ネブラスカ州の共和党議員の末子として生まれた。
ミス・ポーターズ・スクール在学中に、後のケネディ大統領夫人ジャクリーン・ブーヴィエと知り合っている。
その後、ジャクリーンと共に進学したアメリカの名門女子大学であるヴァッサー大で心理学を学んだ。
大学卒業後は米国国務省(CIA)の分析オフィサーを経て、駐イタリア大使のクレア・ブース・ルースの秘書官に任命された。
実は、このタイミングで、70年代に米国版ヴォーグの編集長を務めたグレース・ミラベラと出会っている。彼女らは程なくしてルームシェアで共に過ごすことになる。その頃のティッシュのことをミラベラは著書でこう語っている。
「ただ、そのころ彼女は単なるティッシュで、それだけで十分な大物だった。身長185センチ、20代でワシントンの名家出身、フランス語を流暢に話し、イタリア語を陽気にあやつった。すでにその頃からアメリカ人の粗野な面をこてんぱんに批判することにかけて抜ん出た才能を発揮していた。(中略) 1年間ジェノヴァで勉強し、21歳になる前にイギリスの宮廷で王室に拝謁を賜った。(中略) ティッシュは軽んずることのできない人物だった」(「ヴォーグで見たヴォーグ」グレース・ミラベラ著 実川元子訳 文春文庫 1997年刊)
その後、ティファニーの広報部長に女性初の抜擢をされ、ケネディ政権では主にジャクリーン夫人の広報を担うことになる。
この時のレティシアの姿が、この「ケネディ家の人びと」のドラマでは垣間見れるが、非常に有能で、美しく、洗練された話法を駆使する秘書官として描かれている。
字幕では尋常な訳となっているが、英語の音声を聞いていると、英国で言うPOSHな言い回しで面白い。
それもそのはずで、実は彼女はアメリカの働く女性対してカリスマ的影響力を今なお保持する、マナー、礼儀、プロトコルの大家なのである。
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彼女が草した著作は20作以上、伝説的な「ボルドリッジ・エグゼクティブ・マナーズ」は日本語にも翻訳され、今なおマナーのバイブルとして輝きを放っている。

私がこの女性に惹かれるのは、マナーの大家である彼女がもつ貴族性、生まれと人脈に磨かれたセンスと鋭さ。そしてチャーミングさである。グレース・ミラベラの著書には、彼女の若いころのエピソードや様子が生き生きと描きだされているが、率直でおおらかで、傲慢な面と素直な面がとても魅力的に混ざり合ったキャラクターである。
アメリカ合衆国という国は矛盾をはらむ国である。
新しい歴史しか持たない国でありながら、もしくはそれゆえに、”伝統”や”レガシー”を殊の外大事にする。古典的な文化、教養に対して強烈な憧れをもちながら、ある種のフランクさやラフさ、単純さをアメリカらしい文化として保持し続ける。自由、平等を国是としながら、厳格な階級社会を構成しており、上流の階級意識と自意識は強烈の一言に尽きる。
これは、古代からの歴史と神話を持っている我々日本人には、とうてい理解しえない複雑さなのである。
彼女は、そういう意味で、最もアメリカのアメリカらしい面の権威なのである。
そして、そういう人物が、例えば「ザ・ホワイトハウス」のような群像劇、ではない「ケネディ家の人びと」で省略されずに、一定の存在感をもって登場することに、このドラマのディテールへのこだわりや、脚本家の教養、そしてレティシア・ボルドリッジという人物のアメリカ社会におけるインパクトを感じる。
こういうディテールが、私はぞくぞくするほど面白い。