カンニングをなんとかお咎めなしで済ませた私達でしたが、履修届けを出していないという問題が私には残っていました。

残りの試験も「無事」終わり、長い春休みに入って、私自身はそんなことなど忘れていました。成績発表は3月中旬です。その頃には練習が始まっていますから、毎日学校には行っています。


いよいよ成績発表の当日を迎えました。経済学部の教務課がある1号館1階事務室前の掲示板には「試験で不正があり、以下の者の取得単位を抹消する」という掲示や「以下の者は次年次への進級を不可とする」などの縁起でもない通知が貼られています。春休み中に呼び出しなどがなかったので、私は幸いにもそれらには該当していません。窓口は午前10時だというのに、成績表をもらう学生で結構混雑していました。


「経営学科、497○○です」学生証を窓口に提示しながら学籍番号を申告し、成績表を受け取りました。人前で見るようなものではないのですが、やはり気になるので、その場で開封。当時の成績はA(優)、B(良)、C(可)とここまでが単位取得OKの成績で、D(不可)がわざわざ赤いはんこで押されていて単位取得ができていないことがわかります。


実は経営学科の必修科目である「簿記原理」の試験当日、E古田駅に降り立ってすぐに同級生から麻雀に誘われ、そのまま試験を受けなかったということもあり、「簿記原理」にDがついているのはわかっていました。しかし、気になるのは「体育講義」の採点です。順に成績表を追っていくと・・・・・・・なんと評価の項目は空欄でした。


予想はしていたのですが、窓口の男性職員に「すみません、体育講義は授業も出てましたし、試験も受けたんですが」と聞くと、「ちょっと待ってね」と履修表を確認しています。「ああ、あなたは履修届け出してないですねえ。試験受けても成績はつきませんよ」とニベもなく言われました。事務方の職員に文句を言っても始まりません。「そうですか、わかりました」とここは引き下がることにしました。


ここからは私のセコい性格が如何なく発揮されることになります。体育講義の担当は幸いにも私の体育実技の担当教授でした。その昔「びっくり日本新記録」という日テレ系の番組で解説もされていた先生です。春休み中なので、失礼は百も承知でご自宅に電話をしました。私のことは覚えていてくださり、事情を説明すると「そうか、アメフトも今度連盟に加盟するからいろいろ大変だよなあ。わかった、できるかどうかわからないが、事務方と話してみるよ」と気さくに言っていただきました。


2週間ほど後のことです。教務課から私に呼び出しがありました。なんだろうと思い、窓口に行くと、先日成績の話をした男性職員が苦笑いして待っていました。

「先生から連絡をいただきました。こういう措置は前代未聞なのですが、特別にあなたの『体育講義』の成績を認めることにします」との説明でした。しかもついた成績は「A」でした。もちろん「他言無用ですよ」と釘を刺されました。


早速、先生には洋酒を贈っておきました。それ以降、卒業するまでこの先生には、なにかにつけて声をかけてもらい、私は印象深い生徒の一人になったようでした。