体育会系のクラブに入っていても、1~2年次に単位を取らなくてはならない体育の実技と講義には、ほとんどメリットはなく、出席しなければならない授業でした。まあ、実技に関しては、おてのものなので問題はないのですが、講義の方は期末に筆記試験があります。毎年同じような試験内容だったのですが、それでも暗記をしなければならないという作業を伴っていました。

私達経営学科は体育講義が後期の半年授業で、前期の終了後に履修届けを提出しなくてはなりません。
実は私はそれを失念していました。それでも生来の暢気な性格からか、授業に出ていれば単位はもらえるだろうとの考えで、授業にもそこそこ出席し、期末試験も受けました。

ネタとしては2つあって、まずはその試験の時のお話しから始めましょう。

全学で3000人しかいないとはいえ、一つの学科全員が履修しなければならない科目ですから、試験を受ける人数は200人ほどになります。そんな大教室は我が校にはありませんから、会場は講堂でした。試験官は教授が3人ほど。そのうちの一人は我が部の顧問でした。着席は自由でしたから、友人達と固まって試験を受けることにしました。

200人が入室しても、そこは試験会場ですから、静かに試験が開始されました。30分も経過した頃でしょうか。後ろに座った同じクラスの女子から「ねえ、2番の答なんだっけ?」という囁きが聞こえてきました。体育に関する設問で、だいたい理解していた私は、試験官が遠ざかるのを待って、身体を反らして解答を後ろに囁きました。

無理な体勢での囁きだったためか、彼女には聞こえなかったようです。「え?え?」と聞き返してきました。私はもう一度試験官の位置を確認し、大胆にも振り返って彼女に解答を教えだしました。

時間にしたら1~2分のことでした。ふと人の気配に顔を上げると、我が部の顧問が何も言わず、ニコニコと私を見ていました。首をすくめながら、頭を元の位置に戻したのでした。

我が校ではカンニングするとそれ以降の試験は受けられず、それまでに受けた試験も無効になります。1年の期末に試験結果が全て無効になったら、即留年です。試験時間の終了まで、まさに死刑執行を待つ死刑囚の心境でした。終了のベルが鳴り、私の横を通って退出する顧問の教授は、私を見つめ、ニッコリ笑って講堂を出ていかれました。

あの教授のおかげで、私は4年で卒業することができました。

続く