卒業旅行というのは、今でこそみな海外に出かけますが、私達の頃には海外組はごく一部のブルジョア階級でした。私達の同期はマネージャーが3人、プレイヤーが6人と比較的大勢を卒業までキープしていました。「卒業旅行に行こうや」と言い出したのはキッカーをやっていた例のSでした。既に結婚が決まっていて、卒業式後、すぐに嫁に行ったマネージャーM、留年したセンターのK、流通関係に就職したため卒業式前に入社して、すでに仕事をしていたタックルのAの3人を除く男4人、女2人の卒業旅行が決行されたのは、3月末の土日でした。


私とSが車を出して、目指すは伊豆の天城高原でした。あいにくの空模様の中、湘南の海沿いの国道をひたすら西へ。時間の制約もなく、のんびりした旅行でした。熱海の先から伊豆スカイラインに入り、いのしし村などを見ながら旅の宿へ。待ってましたの飲み会はひたすら思い出話に花が咲き、いつ果てることもなく続いて、気がついたら6人が酒を飲みながら雑魚寝の状態で翌朝を迎えました。


今だったら確実にアルコール検査でひっかかり、酒気帯び運転で摘発されるような状態で私とSはハンドルを握り、水分を多めに摂取するので、トイレ休憩が1時間に1度はあるという、帰りものんびりとした道行きでした。


湯河原での休憩時のことです。食堂には今は見ることもないジュークボックスが置いてありました。まず、Sがそれに気づき、100円を投入、いくつか曲をセレクトして帰ってきました。続いて私がジュークボックスに向かい、曲を見ていると、私達の世代には嬉しいフォークソングやR&Bの洋楽のドーナツ盤(死語ですねえ)がセットされていました。私も100円を投入、そのときに一番好きだった曲をセレクトし、席に戻ってきました。曲はもちろん標題にある「ささやかなこの人生」です。


花びらが散った後の、桜がとても冷たくされるように

誰にも心の片隅に、見せたくはないものがあるよね

だけど人を愛したら、誰でも心の扉を閉め忘れては

傷つきそして傷つけて、引き返すことのできない人生に気がつく


優しかった恋人たちよ、振り返るのはやめよう

時の流れを背中で感じて、夕焼けに涙すればいい


1番だけでもジンとくる歌詞が店内に流れるとみんな口ずさみながら聞いています。

「いい曲選んだだろ」私は得意そうにみんなに言いました。するとSが「ばか、これは俺が選んだんだよ」と一言。なんのことはない、二人で同じ曲を選んでいたのでした。機械が利口なのかバカなのかわかりませんが、結局2回目の「ささやかなこの人生」はかからずに200円分の曲が終了しました。


今でも時々カラオケでこの曲を歌いますが、だいたい同じくらいの年齢の連中と行くカラオケですので、一人で最後まで歌えたことがありません。それくらい私達の世代にはインパクトのある曲でもありました。