新世代の男性ジャズ・シンガーたち | 小川充オフィシャルブログ

新世代の男性ジャズ・シンガーたち

クラブ・ジャズにおけるシンガーの世界は

どうも女性上位というか

スポット・ライトを浴びるのは大体において女性シンガーです。

ジャズに限らず他の音楽をとってみても

特に最近はそうした傾向が強く

僕はかねがね何とかならないかな~

と思っていました。


もちろん女性シンガーは僕も好きですけど

今のシンガーはヴィジュアルとワンパッケージで

歌の実力のみで評価できる人は多くありません。

そうした傾向もあってか

むさ苦しい男性シンガーは

ますます敬遠される気がします。


例えばクラブ・ジャズで男性シンガーと言うと

いまだにMark Murphyとか

Jon Lucienといった人の名前があがります。

もちろん素晴らしいシンガーですが

Mark Murphyはもうおじいちゃんだし

Jon Lucienは故人となってしまいました。


いつまでも過去の偉人たちに頼るのではなく

我々の世代の中から新たな男性シンガーが登場して欲しいと

常々願っていたのですが

ここにきてようやく芯の通った男性ジャズ・シンガーが出てきました。


まずJose James。

NYブルックリンのシンガーで

この春にGilles Petersonのツアーで来日し

Yellowでミニ・ライヴを披露しました。

タイプとしてはMark MurphyやEddie Jeffersonのような

ヴォーカリーズ・スタイル(即興で歌詞をつけたり

ワードレスのスキャットを駆使する唄法)のシンガーで

バップからバラードまで幅広く歌います。

来年にはBrownswood / Trafficからアルバムを出しますが、

これが実に素晴らしい。

現在、これほどディープでスピリチュアルな表現力を持つシンガーは

他にいないのではないかと思います。




なお、アルバムには未収録の作品を収めた

限定10インチがDMRで発売中です。

ここにはColtraneの「Equinox」のヴォーカリーズ・カヴァーが収められてます。

僕は「Equinox」という曲が大好きで

自分のメールアドレスにも使っているくらいなのですが

このヴァージョンでのJoseの渋い歌は

僕の理想とする男性ジャズ・ヴォーカルを代弁していると言っていいでしょう。


なお、ブルーノートのカヴァー・アルバム

『Blue Note Street』が11/21にEMIからリリースされますが

その中で松浦俊夫さんがArt Blakey & The Jazz Messengersの

「A Night In Tunisia」をやっていて

そこでヴォーカルをとってるのもJoseです。


Joseから繊細さやストイックさを抜き

その分男性ならではの豪放な魅力を増したのが

イタリアのシシリー出身のMario Biondi。

彼のアルバム『Handful Of Soul』は

既にSchema / Columbiaからリリースされ

僕もライナーを書かせてもらってますが

白人でありながらまるで黒人のような

ソウルフルで黒いフィーリングを感じさせる人です。





曲によってはMark MurphyやOscar Brown Jr.

はたまたFrank Sinatraのような

セクシーな魅力を感じさせます。

彼のアルバムはFabrizio Bossoが加わる

High Five Quintetがバックの演奏を務めているのですが

今度12月14日と15日にブルーノート東京にて

来日公演が行われます。


この2人とはまたタイプが違いますが

オランダから登場したWouter Hamel。

彼はシンガー・ソングライター系のジャズ・シンガーで

プロデュースは個性派シンガー・ソングライターとして人気を集める

Benny Singsがやってます。

だからジャズと言ってもとてもポップなフィーリングに溢れていて

なおかつそのポップさも下品さとか通俗的な感覚とは無縁。

Steely DanのDonald Fagenのソロとかに近いジャジーでポップなセンスです。

声質は白人ならではの甘く爽やかなもので

ジャズとAORにヒップホップやソウルのフィーリングをまぶした

まるでクラブ世代のChet Bakerと呼びたくなるような

新感覚派のシンガーです。





アルバムもDox / P-Vineからリリースされ

そして来年2月にはBillboardで公演をやる模様。

彼の場合はマスクも甘い感じで

Jamie Cullumのように人気が出るのではないか

と勝手に予想をしているのですが・・・。


三者三様ですが

皆さんは誰がお好きでしょう?