クロスオーヴァー3原則 | 小川充オフィシャルブログ

クロスオーヴァー3原則

来月放送用のUSENのミックス音源を制作していたのですが

久々にOrganLanguageをかけました。



Organ Language EP1


これは今から6年前の作品。

CALMが様々なミュージシャンとセッションし、

多様なリズムを展開したユニット、

それがOrganLanguageなのです。

吉澤はじめさんも参加してますね。


この時のリリパは新宿時代のLiquid Roomで行われたのですが

今も鮮明に思い出されるくらい、

素晴らしいステージでした。

演奏者のテンションや熱気がビシバシ伝わってきて、

またどこから何が飛び出すかわからないスリルと緊張感もあり、

いい意味で殺気の感じられるステージでした。


さて、何で今回この曲を使ったのかというと、

前回のブログでも書いたのですが

マイ・ブームのアフロをモチーフとした選曲パートがあり、

その流れで繋がったことと、

自分の中で『クロスオーヴァー』

という言葉を考え直していて

そんな中から閃いたからです。


この先、ちょっと長くなりますので、

興味のある人だけお付き合い下さい。

今回は音楽理論についてです。


今月末に出るremix誌でクロスオーヴァー特集があり、

クロスオーヴァーの定義について寄稿しています。

そこで『クロスオーヴァー3原則』

というものを自分なりに立てています。

そもそも1970年代前半にこのネーミングは登場していますが、

その頃の音楽界の状況と

現在の音楽界の状況を比較した上で、

次のように定義しています。

1) 音楽の融合が行われていること

2) 新しいものであること

3) 一般化されたものであること


補足説明しますが

1)の融合は主にジャズを媒介とします。

ジャズ自体が様々な音楽的要素から進化してきた音楽であり、

またそうした融合を可能とする豊潤なリズムや楽器編成があるからです。


2)が一番肝心ですが

その融合は新しい価値観を引き起こすものでなくてはなりません。

つまり単純にパーツ、パーツの組み合わせではなく

その交配によってどこにもジャンル分け出来ない音楽が生み出されること

それがクロスオーヴァーなのです。

逆に言えば今までの言葉では定義付けられないような音楽が

クロスオーヴァーということになります。


3)の一般化。

これは難解な実験に終わるのではなく

リスナーに分かるものでなくてはなりません。

しかし、ポピュラー化という訳ではありません。

あくまでも実験性が無ければ単なるポップスです。

OrganLanguageの例にならえば

実験的でありつつも

ダンス・ミュージックであるという一般化が為されている訳です。


翻って現在

クロスオーヴァーという言葉をよく見掛けます。

猫も杓子もクロスオーヴァー

そんな状況です。

しかし、この3原則を全て兼ね備えたものは

一体どれくらいあるのでしょう?

何だかカッコいいから

流行ってそうだから

そんな感じでクロスオーヴァーと言ってる音楽

多くないですか?


僕から言わせると

それ、ハウスじゃない

テクノじゃない

ヒップホップじゃない

ポップスじゃない

そういったのが多いのです。

それは単純にハウス、テクノ、ヒップホップ、ポップス

と言えばいい話だと思うのです。


ジャズにしても色んなネーミングがあります。

ニュー・ジャズ、クラブ・ジャズ、生音ジャズ・・・。

僕も便宜的にこれらのネーミングを使ってますが、

逆に色々あり過ぎて

時に本質を分からなくしてしまっていることも感じます。

クロスオーヴァーって無理矢理こじつけてるものもありますが

クロスオーヴァー3原則から言うと

ジャズ=クロスオーヴァーでもありません。

そうしたジャズはシンプルにジャズと言えばいいと思うのです。

(クラブ・ジャズについては沖野修也さんが現在本を執筆中なので

そこで何らかの定義付けが為されることと思いますが

ジャズとクラブ・ジャズの間には境界線が存在します)


僕もついつい

便利なのでクロスオーヴァーという言葉を使いますが

今回この3原則を作ってみて

クロスオーヴァーって音楽は

とてもハードルが高いものなのだなと思いました。

本当にクロスオーヴァーというものを目指す音楽家は

ちょっとやそっとじゃ曲は作れないと思います。


ただ、こうしたネーミングを解析する意味とは

別に音楽のジャンル分けをすることではなく

その音楽の本質をリスナーに分かり易くすることだと思います。

そして、たまたまクロスオーヴァーの定義付けをしてみて思ったのは

これっていい音楽の条件じゃないか

ってことです。


この3原則を備えていれば、

恐らくそれは10年後、20年後に聴いても

全然古くなっていないでしょう。


僕の大好きなアーティストに

ブラジルのAzymuthがあります。

Azymuthはこの3原則に見事に当てはまります。

だから、1970年代に作られたAzymuthの作品も

僕にとっては今だもって新鮮な訳です。


そう言えば、

僕のブログの括り

CROSSOVER JAZZ

でしたね・・・。