Kenny Garrett 『Beyond The Wall』 | 小川充オフィシャルブログ

Kenny Garrett 『Beyond The Wall』

今この時期は

お盆と並んで1年で音楽業界が最も静かな時期です。

リリースも殆どありません。

(でも、JazztronikやDJ Kawasakiの例もあるから

最近は変わってきてますが)

届くプロモなども非常に少ないです。

でも、雑誌などには新譜情報を載せないといけないので

この時期は結構困りものです。


本日は次のremixのレヴューの締め切りで

シングルは何とか絞り出したものの

アルバムが全然無い。

で、仕方なく昨年リリースされたもので

まだ紹介されていないものをピックアップ。


1枚がThe Heritage Orchestraのデビュー・アルバム。


Heritage Orchestra
The Heritage Orchestra

もう1枚がKenny Garrettの『Beyond The Wall』。


Kenny Garrett
Beyond the Wall

実は、どちらもremix誌の同月号で

2006年のマイ・パーソナル・ベスト・アルバムに挙げたもの。

でも、何故か国内盤がリリースされないという、

ちょっと、それはないだろうという状況が続いていたのです。


Heritage Orchestraの方は

Gilles PetersonのBrownswoodからのリリースなので

そこそこ話題には上がったりもしていたのですが、

Kenny Garrettの方はCDショップでもひっそりと置かれる

そんな感じでした。


1960年にデトロイトで生まれたアルト奏者のGarrettは、

Miles DavisのバンドでMilesの死の直前まで一緒にプレイし、

またPat Methenyと一緒にColtraneのカヴァー集も出してます。

クラブ・ファンにはJazzmatazzへの参加で知られる人でもあります。

また、日本公演も何度か行っていて、大の日本好き。

コンサートとは別に、日本語を勉強する為に

滞在していたこともあるそう。


今回のアルバムは3年振りの新作で

Pharoah Sanders、Bobby Hutchersonも参加しています。

ジャケが万里の長城の写真ですが、

中国にテーマを求め、胡弓などを交えた面白い演奏も披露。

女性ヴォーカルやコーラスをフィーチャーした曲もあり、

全体に東洋ムードの漂うモーダルな楽曲が多いです。


例えばDusko Goykovichの『Swinging Macedonia』とかに近い

アジアとヨーロッパが交錯するようなエキゾティシズムも感じさせ、

往年のPharoah作品のようなスピリチュアル・ジャズの要素も感じさせ、

僕としては非常に素晴らしいジャズ・ミーツ・民族音楽の世界でした。

Sleep Walkerファンなら絶対聴くべきだと思いますし、

最近のNicola Conteの激渋路線が好き

そんな人も気に入ると思いますよ。


さて、このアルバム

NonesuchというUSのWarner傘下のインディーからリリースされてますが

でも、前述したように殆ど宣伝らしい宣伝を見掛けません。


どうも日本の傾向として、

バーンとお金を掛けてプロモーションしてるのが偉い

という風潮があるのですが

いい音楽か否かはそれとは全く無関係です。

売れるもの=いい音楽とも限りません。

悲しいことに、そうじゃないことの方が多い気がします。

(もちろん、音楽で生計を立てる以上、

売る努力、広める努力は必要なことですけど)


話がやや脱線気味ですが、Kenny Garrettです。

Gilles Petersonが『Worldwide』でプレイしたり

UKのStraight No Chase誌のレヴューでも高く評価されていたりと

そんなところから僕はこのリリースを知りました。

DJの松浦俊夫さんにも「すごくいいですよ~」と教えてもらい、

それで実際に買ってみた訳です。


でも、これらの情報が無かったら、

危うく見過ごしていたかも知れません。

日本のメディアからの情報は

全くと言っていいくらい入ってきてなかったのですから。

Kenny Garrettの旧作は僕も何枚か聴いていて

好きなものも幾つかあるのですが、

ここのところはあまりパッとした印象はなくノーチェックでした。

しかし、それにしても情報が少な過ぎではないでしょうか。


今、世の中にはありとあらゆる情報が出回っている

一見そう感じる便利な世の中ですが

でも、実は本当に必要な情報は

意外ときちんと行き渡っていないのです。


僕も情報を送る側にいる人間なので

もう一度、必要な情報をきちんと伝えることを

意識したいと思います。


と、そうこう書いている内に知ったのですが、

何とブルーノート東京で2/4~2/7に

Garrettの公演が決まったようです。

松浦さんも日本に呼びたいなということを言ってたのですが、

ひょっとして松浦さんからブルーノートに売り込みがあったのかな?


でも、グッド・タイミングです。

インフォはこちら

(残念ながらPharoahやHutchersonは同行せず

トリオ編成でのライヴのようです)

おまけに、遅れ馳せながら3月に

ワーナー・ジャパンから日本盤の発売も。


やっぱり、その素晴らしさに皆が気付いた

ってことではないでしょうか。

どうせならHeritage Orchestraも日本に呼んで欲しいけど

総勢42名だからこれは無理かな・・・。