David Axelrod 『Live at Royal Festival Hall』 | 小川充オフィシャルブログ

David Axelrod 『Live at Royal Festival Hall』

先程、Blue Note東京から帰ってきたところです。

Roy Ayers & Lonnie Liston Smithの公演があったのです。

2人の顔合わせでの東京公演は何と17年振りだそうで、

そうした意味では歴史的な公演だったのかも知れません。


ただ、自分が思い描いていたのとはちょっと異なり、

いい意味ではエンターテイメントとして楽しいステージでしたが、

それ以上でもなく、それ以下でもなかった。

Lonnieの「Expansions」は勿論、

Royの「Can't You See Me ?」~「Running Away」~「Evolution」メドレー

アンコールは「Everybody Loves The Sunshine」で締めと、

有名曲のオンパレード。

こうした曲が演奏されることは嬉しいことには違いないのですが、

でも当然それらが吹き込まれた時代とは違う演奏。


何か全体に軽いと言うか、

レコードで聴いた「Expansions」の大気圏を突き抜けていくような緊迫感、

「Running Away」の黒光りするようなファンクネスというものは、

残念ながら今日のステージにはありませんでした。

(まあ、それを期待する方が今は的外れなのかも知れませんが)


全体の構成はRoy Ayersのバンドによる演奏で、

ドラマーは面白かったけど(パーカッション奏者的な演奏だった)

デジタル・シンセのチープな音色がちょっと耳についてしまいました。

ジャズ・バンドというより、ソウルかファンクのバンドという印象。

そこにLonnieがゲスト的に顔を出すという感じで、

正直言って彼の出番が少なかった。

彼のアコースティック・ピアノの演奏は良かっただけに、

もうちょっとLonnieをガッツリ聴きたいなと思ったのでした。


それと比較するのも何なんですが、

今日はBlue Noteに行く前、

David AxelrodのDVD『Live at Royal Festival Hall』を観ました。



それは自分が思い描いていたAxelrodの荘厳な世界が、

そのまま映像となったような素晴らしいコンサートでした。


ロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールを舞台に

総勢26名のロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラを

Axerlodが指揮したもので、

まるで天本英世演じるところの仮面ライダーの死神博士を思わせる

Axelrodの風貌がまず大迫力。


彼の作品は非常に好きなのですが、

ブレイクビーツという概念を考える上で

本当に重要な作曲家の1人で、

そしてオーケストレーションを

ポピュラー音楽にうまく取り込んだアレンジャーでもあります。


このライヴ映像では

彼の一挙手一投足に呼応し、

管楽器が不穏な唸り声を上げ、

弦楽器がすすり泣く。

ダイナミックなブレイクビーツを叩き出すドラムに

時に勇壮な、時に物悲しい旋律を奏でるヴァイオリン隊。

虚空を切り裂くような幻想的なフルートに

天上から地上への福音をもたらすようなフレンチホルン。


クラシックをベースとしたオーケストラに

ジャズ・ロックの演奏が融合されたもので、

今までレコードでしか聴いたことのなかった

「Holly Thursday」、「Song Of Innocence」、

「The Human Abstract」、「Urizen」といった名曲の数々が、

忠実に再現されていました。


この音色は、どの楽器とどの楽器が組み合わさって出ているのだろう、

と単純にレコードを聴いて思うことがあるのですが、

こうしたオーケストラの演奏を観ると、それがすぐに分かります。

オーケストラは役割分担がはっきりしていて、

チームワークが求められるものなのです。

そして、それを束ねるのが指揮者。


オーケストラの演奏はごまかしでは通用しません。

そして、それだからこそ楽器の純粋な音を聴くことが出来ます。

このDVDはそうした演奏を追うだけのシンプルな作りで、

そこにはショーマンシップされたものとかは一切無いのですが、

僕にとっては演奏の真剣さ、質の高さだけで充分にドラマとなっていました。


サンプリング・ソースとして有名なAxelrodの作品ですが、

彼自身はマシーンやエレクトロニクスに頼らない、

生身の人間の演奏に敬意を払う作曲家。

彼の作品は人間としての尊厳を説いているように思えるのです。


このDVDは、11/24にナウオンメディア から発売になります。