大物DJ御来店 | 小川充オフィシャルブログ

大物DJ御来店

小泉首相の8・15靖国神社参拝で揺れた1日でしたが、やはり賛否の声でいくと反対の意見が多いようですね。
中国や韓国からの非難の声に屈することなく、5年前の公約を貫いたということになるのでしょうか。
9月の自民党総裁選もあらかた決着が見えており、退陣前の最後の最後まで強硬な姿勢をアピールしたかったのでしょうか。
ともかく、次期政権にとって更に難しい外交状況となってしまったことは確実で、そうした外交問題をきちんとせずにやってきたツケは、更に重くのしかかってくるのでしょう。



いきなり重い話題から入ってしまいましたが、終戦記念日でもDMRは普通に営業しており、僕も働いています。


今日は海外からのDJの来店がありました。
一人はこの前も紹介したシモーネ・セリテラ。
先日店に来た時はゆっくり試聴できなかったので、今日は割と長めにいて色々とレコードを聴いて買っていってくれました。

そしてもう一人はダニー・クリヴィット。
シモーネは今回が初来日だったのですが、ダニーは年に4、5回は来てるんじゃないかという大変な頻度で来日し、その度にDMRに必ず寄ってくれます。
そして、来店した時は必ず僕を呼び出して、あれやこれやとレコードを聴かせてもらう、そんな関係がもう5年ほど続いています。





DMRは試聴機があるので、基本的にスタッフがお客さんのリクエストに応じてレコードをかけるスタイルは取っていないのですが、でもダニーのような世界的なVIP DJになれば話は別。
で、ダニーの聴く量がハンパじゃないのです。

ハウスやガラージの人と思われがちだけど、彼は僕が仕切ってるジャズ・コーナーが好きで、そこにあるレコードで自分の知らないものを片っ端から聴きたがる。
もちろん、全部かけるわけにはいかないので、僕は彼の好みに合うようなものをチョイスし、時にこれはやめた方がいいよとアドヴァイスすることもあります。

で、プレイする時も全部ダラダラとかけるわけにはいかず、また他のお客さんもいる状態なので、全部ミックスしながらその曲のいいところを引き出すようにして聴かせてあげるのです。
集めたレコードから瞬時の内に構成を決め、またバラバラのBPMのものを一つの流れに持っていくのは、ある意味クラブでプレイするよりも難しいと言えるかも知れません。
が、それはそれで自分がDJをする時におけるいい練習となっているのかとも思います(笑)。


故ラリー・レヴァンは、例えば曲が転調する後半のパートからかけるとか、中間のパーカッシヴなパートのみを抜き出してかけるといったことをやってましたが、そんな感覚です。
それは、もちろん曲の構成を知っていないと出来ないわけで、まずDJはその曲の構造を知ることが重要なのだなと改めて思います。
デヴィッド・マンキューゾはその全く逆で、ミックスを一切せず、曲の頭から最後までかけるという信念をもってDJをしています。
正反対のDJスタイルですが、どちらも曲の構造を知った上で、その良さを引き出すことから生まれた発想なのです。

であるから、僕はなるべくこの曲がどういった構造の曲で、どこにポイントがあるのかを察知してもらうよう、DJ達に曲をかけるように心掛けているのです。
もちろん全部聴かせるのではなく、最良のヴァージョンや、その一部をチョイスした上で。


で、ダニーに戻りますが、彼はもちろん世界でも指折りのトップDJで、プロモなども沢山もらってるだろうし、中々忙しくてレコード屋にいく時間などもそんなに無いのかも知れない。
でも、日本に来た時にはDMRに寄って、僕を指名してくれる。
僕のチョイスを信頼してくれてのことだから、これはやはり自分にとっても名誉なことです。

ダニーに限らず、来日すると必ず寄ってくれるDJが色々います。
彼等に共通するのはもちろん音楽、そしてレコードが好きだということ。
プロモを貰って満足してるんじゃなく、自分からいい音楽を捜そうという攻めの姿勢があること。

ネットでも勿論レコードは買うことは出来ますが、彼等一流DJはレコードを買う為だけにレコード屋を訪れるのではないのでしょう。
クラブでもレコード屋もそうですが、実際にその場にいかないと分からない現場の空気というものがあります。
現在の流行は、シーンの流れは、といったことはネットや活字では中々臨場感をもっては伝わってきません。
レコード屋に行って、並んでるレコードを見て、それを手に取ってるお客さんの姿を見て、店内でかかってる音楽を聴いて、お店のスタッフと話をしたりして、そうした中から身をもって体験出来るということがあるのです。
つまり、DJにとってレコード屋とは、単にレコードを買う場所じゃなくて、情報収集の為の重要な場所なのです。


そして、良いDJは常に音楽に対して貪欲です。
一流のDJになればなるほど、色々なジャンルのレコードを聴いてます。

例えば、ダニーが今日買っていったレコードの中で一番気に入ってたのは、コロネル・レッドの「Blue Eye Blak」。
ブロークンビーツものだけど、どちらかと言うとディアンジェロみたいなソウル・ナンバー。
ダニーはR&Bとかヒップホップ、更には旧譜のジャズやラテンとか、とにかく色んな音楽をチェックしてます。
そうした様々な音楽の中にもダニーによる良いか悪いかの基準があり、ジャンルじゃなくてその自分の基準でジャッジしてるのでしょう。

思うに、良いDJは色々な音楽を聴くことによって、自分の音楽センスが固定化・沈滞化しないようにしているのじゃないでしょうか。
長年DJをしてると、どうしても好みがはっきりとしてきて、聴くもの、聴かないものが出てきます。
でも、そうすると益々ある方向に傾いていき、そして自身のDJの幅を自ら狭めていくことになる。
そうしない為に、自分を常にフレッシュに保つ為にも、良いDJは意識して(もしくは無意識の内に)、色んな音楽を聴くようにしているのでしょう。


いつもレコードを買って、満面の笑みを浮かべて満足して帰っていくダニーを見てると、今日も良かったなと思います。
そして、今日買ったレコードをクラブでかけて、クラウドがそれに熱狂している光景を想像するのが、レコード屋のバイヤーにとっての最高の至福の時なのかも知れません。