【複製】★美術大学受験を目指すAは、予備校X校の美術科講師Yの指導を受けていた。Aは高校2年生で | ★art.and.psychology(アリスリナ)★

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【事例】

美術大学受験を目指すAは、予備校X校の美術科講師Yの指導を受けていた。Aは高校2年生であり、これまで美術の専門教育を受けた経験はなかったが、X校の体験授業を受けた際、Yから「基礎力はある。伸びる可能性がある」と評価され、入校を決めた。

入校後1か月、Aはデッサン課題の講評を受けるためYの面談を受けた。YはAの提出した数枚のデッサンを数分見ただけで、

「あなたは美術大学には向いていない。神経質すぎるため適性が薄い。才能がない。今のうちにやめたほうがいい」 「続けても無駄だから、別の進路を考えたほうがいい」

と強い口調で述べた。Aはショックを受け、以後予備校に通えなくなり、精神的苦痛から学校生活にも支障が出た。Aの母親はX校に抗議したが、X校は「講師の専門的判断であり問題はない」と回答した。

Aは、YおよびX校に対し、①不法行為に基づく損害賠償、②教育サービス契約上の債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償を請求することを検討している。

 

 

 

 

1

本件は、予備校講師Yが生徒Aに対し「向いていない」「才能がない」神経質すぎて適性が薄い。「続けても無駄」などと断定的に告げた行為が、Aの人格的利益を侵害し、709条の不法行為を構成するかが問題となる。

人格権は、生命・身体・名誉・感情・自己決定権などの人格的利益を包括的に保護する一般的権利であり、これを不当に侵害する行為は違法となる。 もっとも、教育現場における専門的評価・指導は一定の裁量を有し、社会的相当性の範囲内で行われる限り違法性は阻却される。 したがって、①発言の目的・必要性、②内容の相当性、③態様、④生徒の年齢・心理的脆弱性等を総合考慮して、社会的相当性を逸脱するかを判断する。

  1. 発言の目的・必要性 進路指導や講評は教育目的に沿う行為であり、一定の否定的評価も許容される。しかし本件発言は、数枚のデッサンを数分見ただけで「才能がない」「無駄」「やめろ」と断定するもので、教育的助言としての必要性は乏しい。

  2. 内容・態様の相当性 「向いていない」「才能がない」「神経質すぎるならやめたほうがいい。続けても無駄」などの断定的・強圧的な言辞は、単なる評価を超えてAの人格的価値を否定するものであり、教育的配慮を欠く。 特に「無駄」「やめろ」という進路選択の否定は、自己決定権を侵害する程度が大きい。

  3. 生徒の心理的脆弱性 Aは高校2年生であり、進路形成の途上にある。専門教育経験も乏しく、講師の言葉の影響は大きい。実際、精神的苦痛から通学不能となっており、発言の有害性は顕著である。

以上より、Yの発言は教育的裁量の範囲を逸脱し、Aの人格的利益を侵害する違法な行為である。

Yの行為は民法709条の不法行為に該当する。

 

2

予備校X校とAの間の教育サービス契約に付随する安全配慮義務の内容と、Yの発言がその義務に違反するかが問題となる。

教育サービス契約において、予備校は生徒の人格的利益を不当に侵害しないよう配慮する義務(安全配慮義務)を負う。 これは、教育目的に照らし、①生徒の心理的負荷を過度に高めないこと、②適切な指導態度を保持することを含む。 講師の発言が教育目的に照らして必要かつ相当な範囲を逸脱すれば、債務不履行となる。

Yは、教育的評価を行う立場にありながら、数分の観察のみでAの進路を否定し、人格的価値を断定的に否定する発言を行った。 これは、教育目的に照らして必要かつ相当な指導態度とはいえず、生徒の人格的利益を不当に侵害するものである。 したがって、X校は講師の指導態度を適切に管理すべき義務を負うにもかかわらずこれを怠ったといえる。

Yの発言は安全配慮義務に違反し、X校は民法415条に基づく債務不履行責任を負う。

 

3

Yの行為が「事業の執行について」なされたかが問題となる。の執行について」とは、行為が外形上事業活動の範囲内にあり、事業と密接に関連する場合をいう。 行為が逸脱していても、業務と密接に関連する限り使用者責任は成立する。

Yの発言は、講評・進路指導という業務の一環として行われたものであり、外形上事業の執行に該当する。 発言内容が不適切であっても講師としての職務と密接に関連しているためX校は使用者責任を免れない。X校には民法715条の使用者責任が成立する。