ブルーマにある魔術師ギルドへ加入することにした。
これから稼業を続けるうえでは、隠密行動が必須となるだろう。
だが、冒険者として生きていく以上、盗賊として必要な敏捷性や速度以外にも、
持久力や魔力、なんといっても敵を倒し、戦利品を運ぶ腕力を鍛えなければならない。
そうすると、必然的に盗賊としての技量を磨く時間は少なくなるだろう。
それをカバーするための魔術だ。
盗賊座の加護を得て改めて考えると、あれは確かに「言い伝えや教訓」ではなく、
もっと魔法的な「加護」のようにも思う。
エイルズウェルで起きた「人体透明化」を解決する手掛かりが得られるかもしれないしな。
それに何より、あの透明化を自分で操れるようになる可能性があるということは、抗いがたい魅力を秘めている。
どちらにせよ、どんなに鍛えても限界のある身体的能力よりは、世界に満ちている無限の「マナ」を
利用する方法を会得しておこうと思ったわけだ。
-ブルーマ魔術師ギルド-
ブルーマ魔術師ギルドの長、ジョアン・フラソリックは、所謂知的な賢者ではなかった。
どちらかというと、「我々の業界」にいるような、能力もなしに口先だけで相手に取り入る種類の人間(業界では、そういう輩は「肝(タマ)なしのサル」と呼ばれる)で、事実、ほかのギルド構成員からも「多少魔法の知識に欠ける」とみられているようだ。
「よかったら、あなたの記念すべき魔術師ギルドでの初仕事を、私から依頼させてくれないかしら。」
ジョアンはそういって、帝都アルケイン大学へ出入りするための推薦状と引き換えに、その仕事を依頼してきた。
数日前から姿を見せない、ギルド構成員のジュスカールを探してほしいというのだ。
アルケイン大学とは、高位の魔術師たちの知識の源となっている施設だ。
高位の魔術師は、十分に理解している自身の魔法を元に、「構呪」と呼ばれる秘術で、新たな魔法を作るらしい。
本業にも応用できないかという期待から(もちろん素知らぬフリで)、応用次第では、盗賊の助けになる魔法も作れるのか聞いてみた。
返ってきたのは、次のような怪しい答えだったが。
「え、えーと、・・そうね・・できないことはない気がするかも。多分。
ま、まあ、栄えある我が魔術師ギルドに、そんな目的の為に構呪を行う輩はいないと信じたいけど。」
-透明化呪文の確かなる存在-
依頼を受けることにして、ギルド員の一人ヴォラナロに話を聞くと、
能力も無いくせに上司に取り入る事はうまいジョアンに、ちょっとした"いたずら"をすることが楽しみだそうだ。
「で、あんたがジュスカールを見つけてくるように仰せつかったわけだ。あの能無しから。」
ヴォラナロはそういうと、少し思案した後、「わが魔術師ギルドの新入りが、ジョアンからの信頼を勝ち取るために協力してやってもいい」という。
もっとも、その前に彼が呟いた「そろそろこのイタズラも飽きてきたしな・・・」が一番の理由らしかったが。
その結果、次なるイタズラとして、「魔法の知識に欠けるギルド長を成長させるため」に、ジョアンがカギをかけて大事にしまってある「呪文の手引き」を失敬してくることになった。
事がきまるとヴォラナロは、俺の呪文書の一葉をむしり取り、「初歩的な解錠」の呪文を書き入れた。
・・・必要ないという俺の言葉を無視して。一度書き込んだら消えない「ノルド印の黒墨インク」を使いやがって。
くそっ。覚えておけよ。
気を取り直してジョアンの机から「手引き」を失敬してくると、はたしてヴォラナロの横に見覚えのある靄がかった何かがいる。
そう、エイルズウェルで見た「透明人間」だ。
「飽きてきたイタズラ」とは、ジュスカールを透明化して、ジョアンを困惑させるということだったらしい。
ヴォラナロが一言呪文を唱える。
「はじめまして。ブルーマの透明人間、ジュスカールです。驚かせてしまって申し訳ありません。?ただし、魔術師ギルドの長であれば、こんな魔法すぐに見破れて当たり前なんですが。」
確かに、部下の透明化を見抜けないようでは、ジョアンにブルーマ魔術師ギルドの長としてギルド員たちを掌握することはできないだろう。
「ノルド印の黒墨インク」の件はあったが、俺はヴォラナロとジュスカールと3人で、肩をたたき笑いあった。
ジョアンに報告にいくと、呪文の手引きが無くなった事に気付き、狼狽しているようだ。まったく。
手渡された推薦状をみると、書類の一番上に魔術師ギルドの紋章の割り印が目に入った。
「あら、言ってなかったかしら。ねえあなた、私の呪文の手引き書を見なかった?
あ、えと、その、そう、新米ギルド員の為に、基本魔法の概説に注釈を付けた本を見せてあげようと思ったのよ」
とかなんとか言う彼女から聞きだした事は、
「アーケイン大学に出入りするためには、ブルーマだけではなく、ほかの町に存在する魔術師ギルド全ての長の推薦が必要となる」ということだった。
やれやれ。
話がうますぎると思ったが、しかし、それなりの収穫はあった。
少なくとも、推薦状の一片は手に入れたわけだし、なんといっても、「透明化」だ!
確実に魔法で透明化ができるということが分かったのは、大きな収穫だ。
ほかの「トラブル」を探しながら、魔術の研究をするとしよう。
さて、その前に腹ごしらえだ。
これから稼業を続けるうえでは、隠密行動が必須となるだろう。
だが、冒険者として生きていく以上、盗賊として必要な敏捷性や速度以外にも、
持久力や魔力、なんといっても敵を倒し、戦利品を運ぶ腕力を鍛えなければならない。
そうすると、必然的に盗賊としての技量を磨く時間は少なくなるだろう。
それをカバーするための魔術だ。
盗賊座の加護を得て改めて考えると、あれは確かに「言い伝えや教訓」ではなく、
もっと魔法的な「加護」のようにも思う。
エイルズウェルで起きた「人体透明化」を解決する手掛かりが得られるかもしれないしな。
それに何より、あの透明化を自分で操れるようになる可能性があるということは、抗いがたい魅力を秘めている。
どちらにせよ、どんなに鍛えても限界のある身体的能力よりは、世界に満ちている無限の「マナ」を
利用する方法を会得しておこうと思ったわけだ。
-ブルーマ魔術師ギルド-
ブルーマ魔術師ギルドの長、ジョアン・フラソリックは、所謂知的な賢者ではなかった。
どちらかというと、「我々の業界」にいるような、能力もなしに口先だけで相手に取り入る種類の人間(業界では、そういう輩は「肝(タマ)なしのサル」と呼ばれる)で、事実、ほかのギルド構成員からも「多少魔法の知識に欠ける」とみられているようだ。
「よかったら、あなたの記念すべき魔術師ギルドでの初仕事を、私から依頼させてくれないかしら。」
ジョアンはそういって、帝都アルケイン大学へ出入りするための推薦状と引き換えに、その仕事を依頼してきた。
数日前から姿を見せない、ギルド構成員のジュスカールを探してほしいというのだ。
アルケイン大学とは、高位の魔術師たちの知識の源となっている施設だ。
高位の魔術師は、十分に理解している自身の魔法を元に、「構呪」と呼ばれる秘術で、新たな魔法を作るらしい。
本業にも応用できないかという期待から(もちろん素知らぬフリで)、応用次第では、盗賊の助けになる魔法も作れるのか聞いてみた。
返ってきたのは、次のような怪しい答えだったが。
「え、えーと、・・そうね・・できないことはない気がするかも。多分。
ま、まあ、栄えある我が魔術師ギルドに、そんな目的の為に構呪を行う輩はいないと信じたいけど。」
-透明化呪文の確かなる存在-
依頼を受けることにして、ギルド員の一人ヴォラナロに話を聞くと、
能力も無いくせに上司に取り入る事はうまいジョアンに、ちょっとした"いたずら"をすることが楽しみだそうだ。
「で、あんたがジュスカールを見つけてくるように仰せつかったわけだ。あの能無しから。」
ヴォラナロはそういうと、少し思案した後、「わが魔術師ギルドの新入りが、ジョアンからの信頼を勝ち取るために協力してやってもいい」という。
もっとも、その前に彼が呟いた「そろそろこのイタズラも飽きてきたしな・・・」が一番の理由らしかったが。
その結果、次なるイタズラとして、「魔法の知識に欠けるギルド長を成長させるため」に、ジョアンがカギをかけて大事にしまってある「呪文の手引き」を失敬してくることになった。
事がきまるとヴォラナロは、俺の呪文書の一葉をむしり取り、「初歩的な解錠」の呪文を書き入れた。
・・・必要ないという俺の言葉を無視して。一度書き込んだら消えない「ノルド印の黒墨インク」を使いやがって。
くそっ。覚えておけよ。
気を取り直してジョアンの机から「手引き」を失敬してくると、はたしてヴォラナロの横に見覚えのある靄がかった何かがいる。
そう、エイルズウェルで見た「透明人間」だ。
「飽きてきたイタズラ」とは、ジュスカールを透明化して、ジョアンを困惑させるということだったらしい。
ヴォラナロが一言呪文を唱える。
「はじめまして。ブルーマの透明人間、ジュスカールです。驚かせてしまって申し訳ありません。?ただし、魔術師ギルドの長であれば、こんな魔法すぐに見破れて当たり前なんですが。」
確かに、部下の透明化を見抜けないようでは、ジョアンにブルーマ魔術師ギルドの長としてギルド員たちを掌握することはできないだろう。
「ノルド印の黒墨インク」の件はあったが、俺はヴォラナロとジュスカールと3人で、肩をたたき笑いあった。
ジョアンに報告にいくと、呪文の手引きが無くなった事に気付き、狼狽しているようだ。まったく。
手渡された推薦状をみると、書類の一番上に魔術師ギルドの紋章の割り印が目に入った。
「あら、言ってなかったかしら。ねえあなた、私の呪文の手引き書を見なかった?
あ、えと、その、そう、新米ギルド員の為に、基本魔法の概説に注釈を付けた本を見せてあげようと思ったのよ」
とかなんとか言う彼女から聞きだした事は、
「アーケイン大学に出入りするためには、ブルーマだけではなく、ほかの町に存在する魔術師ギルド全ての長の推薦が必要となる」ということだった。
やれやれ。
話がうますぎると思ったが、しかし、それなりの収穫はあった。
少なくとも、推薦状の一片は手に入れたわけだし、なんといっても、「透明化」だ!
確実に魔法で透明化ができるということが分かったのは、大きな収穫だ。
ほかの「トラブル」を探しながら、魔術の研究をするとしよう。
さて、その前に腹ごしらえだ。