洞窟から抜け出て、久々に見る自由な空だ。
ともあれ、今後の身の振り方を考える為には腹ごしらえと、当面の資金が必要だ。
・・・とはいえ、しばらくは冒険者として生活するしかないだろう事は自明の理だ。
もちろん、稼業の片手間ではあるが。



-帝都
-
帝都商業地区の広大な敷地には、偉大なる「グレイ・フォックス」の目と耳である、「弱者」たちが、かの方の為に情報を集めていた。
「弱者たち」は、その対価を彼(彼女)らに情報を与える当の本人から受け取っている。
つまり「弱者たち」は、主人の為に働きながら、その実、場合によっては主人の敵になる者たちから報酬を得て生きているのだ。

ちょうどいい。
腹ごしらえついでに、謎の一党に殺害された皇帝や、その家来どもの「手厚いもてなしの結末」から手に入れた僅かばかりの金貨を使い、彼らを一時だけ人間らしく扱ってやることにする。


今の我々に相応な、質素で、しかし、してみれば夢にまで見たほど豪勢な食事と酒を飲みながら語り合った「弱者」がいうには、盗賊ギルド(帝国の治安を守る連中に言わせれば、「存在しない」事になっている。なんと馬鹿げた連中だろう。)の参謀である、アーマンド・クリストフが現在帝都・波止場地区に潜伏しているそうだ。いい事をきいた。
一匹狼である私が、組織の庇護の下に入るのは、いまいち気が進まないが、背に腹は代えられない。
腹ごしらえも終わった。さっそくリハビリといくか。



やはりこれからは、以前と変わらぬように見えながらも組織に守られた、少々危ない「仕事」をする事になりそうだ。
その傍ら、傍から見ると至極まっとうな「冒険者」として生きていこう。

獄中の侘しさを紛らわすために書き続けてきた、この「手なぐさみ」も、これからはもっと簡素で味気なく、その日起こった出来事を淡々と綴る「記録」となって行くだろう。