◇R.シュトラウス:皇紀二千六百年奉祝曲をめぐるドキュメント,アツモン,読響 | youtubeで楽しむクラシックと吹奏楽

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R.シュトラウス:皇紀二千六百年奉祝曲をめぐるドキュメント

モーシェ・アツモン指揮,読売日本交響楽団

21世紀に入り、少しずつ演奏や録音の機会が増えてきたR.シュトラウスの「皇紀二千六百年奉祝曲」。この良くも悪くもイデオロギー的な色眼鏡で見られやすい作品、世紀が変わり、昭和の時代も遠い昔となり、あの時代を客観視できるようになったということが背景にあるのだろう。これが昭和の時代であれば、寝た子を起こすことにもなりかねないと見て見ぬふりをされていただろうところ。しかもコンサートは1988年の10月、つまり昭和天皇の病状が悪化し、毎日のようにテレビで容体が報じられていた真っ只中でもあったことを思えばなおさらだろう。そのような状況で、あえて勇気ある決断をしたのが読響と当時の指揮者モーシェ・アツモンであり、日本テレビの取材班であったのだ。

 

実際の放送ではドキュメントとコンサートの模様は別々に放送されたようだが、ここでは続けてみることができる。まずドキュメントはこの曲の成立にまつわる秘話(今となってはよく知られたものではあるが)と長い間行方が分からなくなっていた作曲者直筆のスコアについて。当時存命だった作曲者の息子の妻アリス女史と二人の孫も登場する。詳細は実際に見ていただきたいが、やはり本人と濃密に交流した親族の言葉には確かな重みと説得力がある(ちなみに指揮者のサヴァリッシュも登場する)。筆者が個人的に面白いと思ったのはR.シュトラウスは大のスポーツ嫌いだったというくだり。当時ティーンエイジャーだった孫達は当然サッカーやスキーをやりたがったが、老リヒャルトは「そんなものは無駄」と一刀両断。かわりに詩や音楽をさせようとした。このエピソードを語る時の孫の表情が本気で怒っていたのが印象的だ。「音楽なんか聴いてないで運動しろ!」と父から言われ続けた筆者とまるで正反対。シュトラウスの家に生まれていればどんなに幸せだっただろう!また、「アルプス交響曲」に登場する山荘が映し出されるのも興味深い。筆者などはどうしても「ハイジの家」のような素朴な山小屋を想像するのだが、いやいやどうして。なかなか立派な御殿である。

 

ドキュメントの後は実際の読響の演奏で全曲を聴くことができる。作品についても簡単に触れておこう。演奏時間にして15分程度の交響詩風の音楽で、冒頭、穏やかな海の様子の描写ののち、花見、火山の噴火、侍の攻撃と続き、最後は記念の年をことほぐ「天皇讃歌」で華やかに幕を閉じる。かなり荒唐無稽なプログラムだ。このあたり、自ら望んでではなく、政治的な事情で引き受けざるをえなかったという状況が図らずも音楽に出てしまっている。しかし、「職人」としてのシュトラウスの筆致は冴え渡っており、ただただ見事と言うよりほかない。アツモン指揮読響の演奏については、ちゃんと弾けていない箇所が見受けられたり、金管の一部に傷が見られるなど、当時の国内のオケはこんな感じだったなぁと思わせる。ちょうど30年前ということになるが、こうして聞いてみると国内のオーケストラはこの間にどこも随分と上手くなったものだ。

 

作曲者の素顔を知るアリス女史や二人の孫達を丁寧に取材して作り上げたこのドキュメント。資料的価値だけでなく見ごたえも十分である。